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第二章

二十話

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 闇夜に紛れて、急ぐこともなくゆっくりと自宅へ帰る。

 ロセウスの結界内にある自宅に到着し、乗っていたロセウスの背中からいつも通り降りようとするが、その前にアーテルの両腕に抱かれてしまった。

「自分で歩けるよ?」

「俺が運びたいんだ。ダメか?」

 見上げたアーテルの顔は、とても不安そうな顔をしていた。

 毒を飲み、意識を失うベルの体を支えてくれたのはアーテルだったことを思い出す。あんな顔をさせるはずではなかった。そして今の顔も。アーテルたちにはずっと笑っていてほしい。なのにあんな顔をさせてしまったのは他ならぬベルだ。

「ううん、お願いしてもいいかな?」

 ベルを抱くことで、少しでもアーテルの気持ちが楽になるなら、とその身をアーテルに預ける。

「ああ、もちろんだ」

 この選択肢は正解だったようで、アーテルの顔が幾らか綻んだ。

 アルブスが玄関の扉を開け、ベルたちが入りやすいようにしてくれた。まるでお姫様にでもなったかのようだ。すでに深夜ということもあって、リビングを通り過ぎ、ベッドルームにある大きなベッドへとおろされた。

 王城のベッドとは違い、ただ座っただけなのになぜか落ち着いてしまう。重力に任せるがまま、ごろんとになれば、シーツからはロセウスたち三人の匂いがした。それは決して嫌な匂いではなく、むしろようやく帰ってきたのだと安心感を与えてくれた。

「夜ももう遅い。王城で風呂にも入ったし、その服から寝間着に着替えてこのまま休んだ方がいい」

「んー……」

 安心できるからか、あれだけ王城でゆっくりと体を休めていたのに、眠気が襲ってくる。無意識のうちに気を張っていたのかもしれない。

 着替えることも面倒で、つい後回ししようかなあと考えてしまう。そんな考えが読まれてしまったのか、アルブスにクスリと笑われてしまった。

「お嬢、そのまま寝たいんなら、こっちで着替えさせてもいいか? さすがにその服じゃ寝苦しいだろ」

「そうだなぁ、お願いしようかなあ」

 一瞬迷ったが、考えてみればこの前も明るいところで脱がせられている。それに何度も体を合わせた仲だ。今回は下着を脱ぐわけでもないし、お願いできるのならばその方が楽だ。

「わかった。アーテル、その持ってきた服、こっちに貸してくれ」

「はいよ」

 相変わらずベルに甘いアルブスは、アーテルが持ってきてくれたベルの寝間着を受け取ると、テキパキと着替えさせてくれた。

 何か悪戯でもしてくるのかな、と若干の期待もあったが、ベルに気遣ってかそんな気配もなく、本当に着替えさせてくれただけだった。それはそれで構わないのだが、少しだけがっかりしてしまう自分がそこにいた。数カ月前のベルからは考えられない思考だ。でもそれだけこの数カ月の間で、三人のことがさらに好きになったという証拠でもあるのだろう。

(そうだ!)

 眠気が消えたわけではないから、大胆な行動をとることはしない。でも、これくらいなら許してくれるだろう。

「アル」

「ん? 何、お嬢」

 名前を呼べば、嬉しそうに反応をしてくれる。それがベルも嬉しくて仕方がない。着替えさせてくれていたので、アルブスとの顔の距離はわずか数センチ。少しだけ上体を起こせば、すぐにその唇を奪うことができた。

 アルブスは唐突のキスに驚きながらも、きちんとキスを返してくれる。何度も何度も角度を変えながらキスをしていると、大きな咳払いが二つ聞こえてきた。その咳払いに、アルブスがしょうがない、とでも言うように大きくため息を吐きながら振り返る。

「今、いいところなんだけど」

 アルブスの後ろには、すでに寝間着に着替えたロセウスとアーテルが立っていた。

「俺たちも、お嬢とキスしたい。独占はダメって言ったろ?」

「そうだよ。アルブス、私たちとも代わってくれないか?」

「……はぁ、仕方ない。でも、お嬢は病み上がりだからな。最後まではするなよ」

 キスはしても最後まではしない。ベルの体を気遣って、そう決めていたのだろう。現にアルブスとのキスは官能の部分を刺激するようなものではなく、互いを大事に想っているのだと、気持ちを伝えあうようなキスだった。

「そんなことは承知してる」

 アーテルがすかさず返せば、ロセウスも私もだよ、と頷いていた。そんな二人に譲る前に、アルブスがもう一度だけ軽いキスをベルに落とし、ベッドから離れる。

「んじゃ俺も着替えてくるわ」

「ゆっくりでもいいんだぞ」

「断る」

 そんなコントのような会話をアーテルとしながら、部屋の外へ出て行く。そしてアルブスに代わるようにベッドの上へロセウスとアーテルが乗り、ベルとキスを交わす。

 キスを交わしているうちに、徐々に眠気がピークに達していく。そんなベルを無理に起こそうとするでもなく、安心して眠れとでも言うように、優しいキスの雨が降り注ぐ。

「おやすみ、お嬢」

「ゆっくり休むんだよ」

 キスとともに降り注ぐ、温かい言葉に耳を傾けながら、ベルは眠りへと落ちていった。
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