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第二章
二十一話
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目が覚めると、白と黒と桜の三種の毛並みが視界に入った。まだ意識は完全に覚醒しておらず、無意識のうちに手を伸ばす。手の平にあたる毛並みはどれも柔らかく、何度も撫でてしまう。次第に撫でるだけでは物足りなくなり、一番近くにある柔らかそうな桜色の毛並みの尻尾に顔からダイブをした。太陽のような匂いがする毛並みは、想像以上の弾力と触り心地で頬擦りをしてしまう。その毛並みを堪能していると、頭上からくすくすと笑う声が聞こえてきた。
「相変わらず、この姿が好きなようだね」
「んー? だって気持ちいいんだもん。あ、セス。おはよう」
「おはよう、ベル」
ベルが顔からダイブをした毛並みの持ち主、ロセウスと挨拶を交わす。声を出したことで多少目が覚める。しかしその手はしっかりとロセウスの尻尾を握って離すことはなかった。そんなベルに真後ろから二つ、不満の声が上がる。
「お嬢、俺たちの体はいいのかよ」
他の誰かが聞けば、間違いなく情事を連想させるような発言をするアーテル。
「そうだぞ。ロセウスだけじゃなくて、俺たちの毛並みだって最高だぞ?」
そして構ってほしいのだと、自身の毛並みをベルの体にこすりつけてくるアルブス。
アルブスと言う通り、ロセウスと同じくらいにその毛並みは魅力的なものだった。長毛であるロセウスとは触り心地が違うが、短毛には短毛のいいところがたくさんある。
誘惑につられ、ロセウスから顔を離し、むくりと上半身を起こす。アーテルとアルブスの間に移動をし、両腕を広げながらベッドに身を預けた。
「幸せ~」
頬が緩むのを止められそうにない。
両手に花ならぬ、両手に召喚獣である。その毛触りを時間をかけて堪能したあと、空腹を感じたので皆で起きることにした。最近は夜ご飯を作っていなかったので、昼ごはんを代わりに作ろうと腕まくりをして見せたが、人間の姿に戻った三人にやんわりと止められてしまう。
「お嬢のご飯を食べたいのはやまやまだけど、せめてあと二、三日はゆっくりしてくれ」
「そうだぞ。食べたいものなら、リクエスト言ってくれれば、作ってやるから」
「今日の昼はアーテルとアルブスが作るそうだ。夜は私が作るから楽しみにしているといい。だから私たちは昼頃が出来るまでゆっくりしていよう?」
誰か一人に言われるならまだ反対できるが、三人に言われたとなれば、強行しづらい。わかったと頷けば、よろしいとまるで子どものように頭を撫でられた。
寝間着から普段着へと着替え、昼ごはんが出来るまでの間、ロセウスとソファの上でくつろぎながら待つ。その間、他の人とってはどうでもいい、他愛ない話の流れから、互いの髪を三つ編みすることになった。少しはいいところを見せようと、鼻歌まじりに三つ編みをするが、ロセウスに勝つことはできなかった。さすがロセウスというべきか、手の動きに一切迷いがなく、綺麗な編み方な上に素早い。ロセウスが編んだ三つ編みを見てから、自身が編んだ三つ編みを見ると、どうしても汚く見えてしまう。
「やっぱり、セス上手いよね」
ロセウスの髪を手櫛でほどき、真っすぐにする。
「そうかい? ベルにそう言ってもらえて嬉しいよ。ベル、三つ編みは解く?」
「ううん。このままでお願い。もう片方もやってもらっていいかな?」
「もちろん」
今日の髪型は左右で分けた三つ編みで決まりだ。日本での姿だったら、絶対に似合わない髪型も、このベルの姿だと怖いくらいに似合う。これもこの世界に来た特権というやつだろう。
もう片方も三つ編みにしてもらったところで、ふと前から気になっていたことを思い出した。
「そういえばさ、セスってよく尻尾だけ出したりするよね。それって耳も出すことは出来るの?」
マンガなどではよく見かける姿だが、実際に召喚獣や契約獣が人間の姿を保ちながら耳と尻尾だけを出しているところは見たことがない。もし出せるのならば、一度見てみたかった。ただの好奇心である。
「耳と尻尾? ふむ、こんなふうにかい?」
ロセウスは顎に手を当て考えたあと、頭上と尻部分だけ光を纏った。
光が収まって出てきたのは、紛れもない桜狐の耳と尻尾で。ベルを興奮させるには十分だった。やはりイケメンにケモ耳と尻尾は最強である。
「そう、それ!!」
興奮のあまり抱き着いてしまう。ロセウスは嫌がるどころか、ベルの抱擁を受け入れ、嬉しそうにしている。その姿をなるべく長く視界に収めようとしていると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐってきた。
「何やってるんだ、二人とも」
「昼飯の準備、できたぞ」
後ろにいる二人を見ようと振り返ると、不思議そうな顔をしていた。
「いや、ベルがこの姿になって欲しいというのでな」
「そう、私が頼んだの!」
できればアーテルとアルブスのケモ耳姿を見てみたい。そういった意味を含めて、目を輝かせる。
アーテルとアルブスは二人で顔を見合わせたあと、ニヤリと笑みを浮かべた。その笑みがどういったこと意味合いを含めているのかベルにはわからないが、二人だけに通じるものがあるのだろう。さすが双子なだけある。
「んじゃ、俺たちも」
「これでいいのか? お嬢」
アーテルとアルブスはそう言うなり、頭上に虎の耳を、そして尻部分には長くて細い尻尾を生やした。アーテルは黒、アルブスは白のケモ耳と尻尾だ。
ロセウスから離れて、二人に抱きつく。
「お嬢がこの姿が好きなのはわかったから」
「とりあえず昼飯食べようぜ」
どうやらこの姿を維持したまま、昼ごはんに突入できるようだ。ロセウスも維持してくれるのかな、とちらりとロセウスと視線を送る。
「ベルが望むのなら」
苦笑はしていたが、そこに拒否の色は感じられなかった。
ベルは笑顔でお願いします、と頷いたのだった。
「相変わらず、この姿が好きなようだね」
「んー? だって気持ちいいんだもん。あ、セス。おはよう」
「おはよう、ベル」
ベルが顔からダイブをした毛並みの持ち主、ロセウスと挨拶を交わす。声を出したことで多少目が覚める。しかしその手はしっかりとロセウスの尻尾を握って離すことはなかった。そんなベルに真後ろから二つ、不満の声が上がる。
「お嬢、俺たちの体はいいのかよ」
他の誰かが聞けば、間違いなく情事を連想させるような発言をするアーテル。
「そうだぞ。ロセウスだけじゃなくて、俺たちの毛並みだって最高だぞ?」
そして構ってほしいのだと、自身の毛並みをベルの体にこすりつけてくるアルブス。
アルブスと言う通り、ロセウスと同じくらいにその毛並みは魅力的なものだった。長毛であるロセウスとは触り心地が違うが、短毛には短毛のいいところがたくさんある。
誘惑につられ、ロセウスから顔を離し、むくりと上半身を起こす。アーテルとアルブスの間に移動をし、両腕を広げながらベッドに身を預けた。
「幸せ~」
頬が緩むのを止められそうにない。
両手に花ならぬ、両手に召喚獣である。その毛触りを時間をかけて堪能したあと、空腹を感じたので皆で起きることにした。最近は夜ご飯を作っていなかったので、昼ごはんを代わりに作ろうと腕まくりをして見せたが、人間の姿に戻った三人にやんわりと止められてしまう。
「お嬢のご飯を食べたいのはやまやまだけど、せめてあと二、三日はゆっくりしてくれ」
「そうだぞ。食べたいものなら、リクエスト言ってくれれば、作ってやるから」
「今日の昼はアーテルとアルブスが作るそうだ。夜は私が作るから楽しみにしているといい。だから私たちは昼頃が出来るまでゆっくりしていよう?」
誰か一人に言われるならまだ反対できるが、三人に言われたとなれば、強行しづらい。わかったと頷けば、よろしいとまるで子どものように頭を撫でられた。
寝間着から普段着へと着替え、昼ごはんが出来るまでの間、ロセウスとソファの上でくつろぎながら待つ。その間、他の人とってはどうでもいい、他愛ない話の流れから、互いの髪を三つ編みすることになった。少しはいいところを見せようと、鼻歌まじりに三つ編みをするが、ロセウスに勝つことはできなかった。さすがロセウスというべきか、手の動きに一切迷いがなく、綺麗な編み方な上に素早い。ロセウスが編んだ三つ編みを見てから、自身が編んだ三つ編みを見ると、どうしても汚く見えてしまう。
「やっぱり、セス上手いよね」
ロセウスの髪を手櫛でほどき、真っすぐにする。
「そうかい? ベルにそう言ってもらえて嬉しいよ。ベル、三つ編みは解く?」
「ううん。このままでお願い。もう片方もやってもらっていいかな?」
「もちろん」
今日の髪型は左右で分けた三つ編みで決まりだ。日本での姿だったら、絶対に似合わない髪型も、このベルの姿だと怖いくらいに似合う。これもこの世界に来た特権というやつだろう。
もう片方も三つ編みにしてもらったところで、ふと前から気になっていたことを思い出した。
「そういえばさ、セスってよく尻尾だけ出したりするよね。それって耳も出すことは出来るの?」
マンガなどではよく見かける姿だが、実際に召喚獣や契約獣が人間の姿を保ちながら耳と尻尾だけを出しているところは見たことがない。もし出せるのならば、一度見てみたかった。ただの好奇心である。
「耳と尻尾? ふむ、こんなふうにかい?」
ロセウスは顎に手を当て考えたあと、頭上と尻部分だけ光を纏った。
光が収まって出てきたのは、紛れもない桜狐の耳と尻尾で。ベルを興奮させるには十分だった。やはりイケメンにケモ耳と尻尾は最強である。
「そう、それ!!」
興奮のあまり抱き着いてしまう。ロセウスは嫌がるどころか、ベルの抱擁を受け入れ、嬉しそうにしている。その姿をなるべく長く視界に収めようとしていると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐってきた。
「何やってるんだ、二人とも」
「昼飯の準備、できたぞ」
後ろにいる二人を見ようと振り返ると、不思議そうな顔をしていた。
「いや、ベルがこの姿になって欲しいというのでな」
「そう、私が頼んだの!」
できればアーテルとアルブスのケモ耳姿を見てみたい。そういった意味を含めて、目を輝かせる。
アーテルとアルブスは二人で顔を見合わせたあと、ニヤリと笑みを浮かべた。その笑みがどういったこと意味合いを含めているのかベルにはわからないが、二人だけに通じるものがあるのだろう。さすが双子なだけある。
「んじゃ、俺たちも」
「これでいいのか? お嬢」
アーテルとアルブスはそう言うなり、頭上に虎の耳を、そして尻部分には長くて細い尻尾を生やした。アーテルは黒、アルブスは白のケモ耳と尻尾だ。
ロセウスから離れて、二人に抱きつく。
「お嬢がこの姿が好きなのはわかったから」
「とりあえず昼飯食べようぜ」
どうやらこの姿を維持したまま、昼ごはんに突入できるようだ。ロセウスも維持してくれるのかな、とちらりとロセウスと視線を送る。
「ベルが望むのなら」
苦笑はしていたが、そこに拒否の色は感じられなかった。
ベルは笑顔でお願いします、と頷いたのだった。
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