召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

文字の大きさ
83 / 136
第二章

二十一話

しおりを挟む
 目が覚めると、白と黒と桜の三種の毛並みが視界に入った。まだ意識は完全に覚醒しておらず、無意識のうちに手を伸ばす。手の平にあたる毛並みはどれも柔らかく、何度も撫でてしまう。次第に撫でるだけでは物足りなくなり、一番近くにある柔らかそうな桜色の毛並みの尻尾に顔からダイブをした。太陽のような匂いがする毛並みは、想像以上の弾力と触り心地で頬擦りをしてしまう。その毛並みを堪能していると、頭上からくすくすと笑う声が聞こえてきた。

「相変わらず、この姿が好きなようだね」

「んー? だって気持ちいいんだもん。あ、セス。おはよう」

「おはよう、ベル」

 ベルが顔からダイブをした毛並みの持ち主、ロセウスと挨拶を交わす。声を出したことで多少目が覚める。しかしその手はしっかりとロセウスの尻尾を握って離すことはなかった。そんなベルに真後ろから二つ、不満の声が上がる。

「お嬢、俺たちの体はいいのかよ」

 他の誰かが聞けば、間違いなく情事を連想させるような発言をするアーテル。

「そうだぞ。ロセウスだけじゃなくて、俺たちの毛並みだって最高だぞ?」

 そして構ってほしいのだと、自身の毛並みをベルの体にこすりつけてくるアルブス。

 アルブスと言う通り、ロセウスと同じくらいにその毛並みは魅力的なものだった。長毛であるロセウスとは触り心地が違うが、短毛には短毛のいいところがたくさんある。

 誘惑につられ、ロセウスから顔を離し、むくりと上半身を起こす。アーテルとアルブスの間に移動をし、両腕を広げながらベッドに身を預けた。

「幸せ~」

 頬が緩むのを止められそうにない。

 両手に花ならぬ、両手に召喚獣である。その毛触りを時間をかけて堪能したあと、空腹を感じたので皆で起きることにした。最近は夜ご飯を作っていなかったので、昼ごはんを代わりに作ろうと腕まくりをして見せたが、人間の姿に戻った三人にやんわりと止められてしまう。

「お嬢のご飯を食べたいのはやまやまだけど、せめてあと二、三日はゆっくりしてくれ」

「そうだぞ。食べたいものなら、リクエスト言ってくれれば、作ってやるから」

「今日の昼はアーテルとアルブスが作るそうだ。夜は私が作るから楽しみにしているといい。だから私たちは昼頃が出来るまでゆっくりしていよう?」

 誰か一人に言われるならまだ反対できるが、三人に言われたとなれば、強行しづらい。わかったと頷けば、よろしいとまるで子どものように頭を撫でられた。

 寝間着から普段着へと着替え、昼ごはんが出来るまでの間、ロセウスとソファの上でくつろぎながら待つ。その間、他の人とってはどうでもいい、他愛ない話の流れから、互いの髪を三つ編みすることになった。少しはいいところを見せようと、鼻歌まじりに三つ編みをするが、ロセウスに勝つことはできなかった。さすがロセウスというべきか、手の動きに一切迷いがなく、綺麗な編み方な上に素早い。ロセウスが編んだ三つ編みを見てから、自身が編んだ三つ編みを見ると、どうしても汚く見えてしまう。

「やっぱり、セス上手いよね」

 ロセウスの髪を手櫛でほどき、真っすぐにする。

「そうかい? ベルにそう言ってもらえて嬉しいよ。ベル、三つ編みは解く?」

「ううん。このままでお願い。もう片方もやってもらっていいかな?」

「もちろん」

 今日の髪型は左右で分けた三つ編みで決まりだ。日本での姿だったら、絶対に似合わない髪型も、このベルの姿だと怖いくらいに似合う。これもこの世界に来た特権というやつだろう。

 もう片方も三つ編みにしてもらったところで、ふと前から気になっていたことを思い出した。

「そういえばさ、セスってよく尻尾だけ出したりするよね。それって耳も出すことは出来るの?」

 マンガなどではよく見かける姿だが、実際に召喚獣や契約獣が人間の姿を保ちながら耳と尻尾だけを出しているところは見たことがない。もし出せるのならば、一度見てみたかった。ただの好奇心である。

「耳と尻尾? ふむ、こんなふうにかい?」

 ロセウスは顎に手を当て考えたあと、頭上と尻部分だけ光を纏った。

 光が収まって出てきたのは、紛れもない桜狐の耳と尻尾で。ベルを興奮させるには十分だった。やはりイケメンにケモ耳と尻尾は最強である。

「そう、それ!!」

 興奮のあまり抱き着いてしまう。ロセウスは嫌がるどころか、ベルの抱擁を受け入れ、嬉しそうにしている。その姿をなるべく長く視界に収めようとしていると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐってきた。

「何やってるんだ、二人とも」

「昼飯の準備、できたぞ」

 後ろにいる二人を見ようと振り返ると、不思議そうな顔をしていた。

「いや、ベルがこの姿になって欲しいというのでな」

「そう、私が頼んだの!」

 できればアーテルとアルブスのケモ耳姿を見てみたい。そういった意味を含めて、目を輝かせる。

 アーテルとアルブスは二人で顔を見合わせたあと、ニヤリと笑みを浮かべた。その笑みがどういったこと意味合いを含めているのかベルにはわからないが、二人だけに通じるものがあるのだろう。さすが双子なだけある。

「んじゃ、俺たちも」

「これでいいのか? お嬢」

 アーテルとアルブスはそう言うなり、頭上に虎の耳を、そして尻部分には長くて細い尻尾を生やした。アーテルは黒、アルブスは白のケモ耳と尻尾だ。

 ロセウスから離れて、二人に抱きつく。

「お嬢がこの姿が好きなのはわかったから」

「とりあえず昼飯食べようぜ」

 どうやらこの姿を維持したまま、昼ごはんに突入できるようだ。ロセウスも維持してくれるのかな、とちらりとロセウスと視線を送る。

「ベルが望むのなら」

 苦笑はしていたが、そこに拒否の色は感じられなかった。

 ベルは笑顔でお願いします、と頷いたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

異世界から来た華と守護する者

恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。 魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。 ps:異世界の穴シリーズです。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

処理中です...