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第二章
二十三話
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「あれから、何か変わったことはあったか?」
ラヴィックが土下座という最終奥義でコーディリアに謝りを入れたあと、リビングで紅茶を飲みながら真面目な話をすることになった。むしろこちらの方が本題である。議長のような役割を、エリオットが請け負ってくれた。
獣化時の獣の耳と尻尾は一度消してもらい、机を囲う形で話すことになった。これに関しては残念な気持ちもあったが、皆が帰ったあとにまた出してくれるとのことだったので我慢をする。むしろ消してくれていた方がベルの気が散らないので、そちらの方が結果的には良かったのかもしれない。
「報告するようなことは何も。セス、結界に異常は?」
「特に見当たらないよ。何かが触れた形跡もないしね」
再度確認をするように、数秒目を閉じて結界の細部を確認していた。
「向こうからの襲撃はなし、か」
「今のところは。今後は分からないけどね」
現在の状況は完全に先手を取られてしまい、後手に回っている状態だ。どうにか現状を打開していかなければならない。
「ならば、私が王の元へ報告しに行ってこよう。ついでに変わったことがないか、王都の様子も確認してくる。コーディリア、頼めるか?」
「もちろんよ」
トトーの本来の姿は歌兎で、背に人を乗せられるような大きさではない。むしろトトーの方が人の肩に乗れるような大きさだ。ベルも王城よりもロセウスの結界が貼ってある自宅の方が安全ということで、王城から自宅へと戻ってきている。諸々の事情を考えて、エリオットに動いてもらった方が一番スムーズといえるだろう。
エリオットの頼みに瞬時に獅子の姿に変わる。家を出てコーディリアに跨ると、颯爽と王都まで駆けていった。
「んじゃ、その間俺たちはどうする?」
手がかりと言えば、ベルの聞いたロゼリアと思われるの声のみ。他にロゼリアやクライシスの後を追える手かがりは一切ない。
「僕は、ベルのために癒しの歌を歌っていたいな」
完全に完治しているとはいえ、念には念をということなのだろう。
「オッケ。んじゃ、トトーはベルを頼むわ」
「うん!」
トトーはラヴィックの隣から、ベルの隣までやってくると、ちょこんと座った。
「ラヴィはどうしたい? 今のところ、ここから動くことはできないし」
「んー、そうだな。話が進展するまで、とりあえず体を動かしておきたいな」
召喚術師や契約術師は、その性質上、どうしても相棒である召喚獣や契約獣に戦闘全てを頼ってしまう傾向がある。ベルも指揮官やサポート役として後ろから口出しをしているだけだ。しかし今後のことを考えるならば戦えるまではいかなくても、自分の身を守れるくらいまでにはしておきたい気持ちがあった。
ラヴィックが腰に差していた剣を叩く。
「エリオットと鍛錬したり、素振りしたりしてはいるんだが、上達しているか分からなくてな。出来るならベルの召喚獣の三人の中から誰か一人、付き合ってくれるとありがたい」
護身用で持っているのかな、と思っていたが、そうではなかったようだ。ラヴィックはラヴィックなりに自身の在り様を考えているらしい。ベルもラヴィックを見習わなければ、と思った。
それに、と自身の背後に立つ三人を一瞥する。トトーとコーディリアは戦えないこともないけれど、どちらかと言えば治したりする方が得意なはずだ。エリオットも元王族だからそれなりの訓練はしているだろうが、騎士たち本職には叶わない。
それに比べ、ベルの召喚獣である三人は治療系に心得が全くない代わりに、戦闘については抜きんでた力を持っている。鍛錬相手には最適といえるだろう。
「誰かお願いできる?」
ベルの背後に立っていたアーテルとアルブスが軽く手を上げた。
「俺たちでよければ相手をしよう」
「一人よりも二人の方が色んなことができるしな。戦力強化はこちらも望んでいたことだ。ロセウスは結界とお嬢をよろしく頼む」
「わかった。家を中心として直径一キロほどの結界を張っている。鍛錬するなら、その範囲でしてくれるかい? 結界の中であれば、すぐに対処したり、呼びかけをすることができるからね」
「はいよ。んじゃ二人とも、早速よろしく頼むわ」
本格的な鍛錬が出来るとわくわくしているのだろう、ラヴィックの瞳はいつも以上に輝いて見えた。そんなラヴィックの後ろをアーテルとアルブスが苦笑しながらついていった。
家の中にはベル、ロセウス、トトーの三人が残る。ラヴィックたちが外に出て行ったあと、トトーにどんな曲調のものがいいかと尋ねられ、迷った末に穏やかな気持ちになれそうな曲ならどんなものでも、と答えた。曖昧な答えではあったが、トトーは迷うそぶりを見せることなく、二つ返事で了承する。
すうっと息を吸い、その口から素晴らしい歌声が部屋中に響き渡った。とても耳心地の良い歌に目を瞑っていると、徐々に睡魔が押し寄せてくる。こっくり、こっくりと船をこいでしまうベルを誰かが引き寄せた。それがトトーなのか、ロセウスなのかベルには最初分からなかった。しかし服から香る匂いとベルの肩を掴むその腕の力強さには覚えがあった。
(セス……)
「ゆっくりおやすみ、ベル」
その声を最後に、ベルは夢の中へと旅立った。
ラヴィックが土下座という最終奥義でコーディリアに謝りを入れたあと、リビングで紅茶を飲みながら真面目な話をすることになった。むしろこちらの方が本題である。議長のような役割を、エリオットが請け負ってくれた。
獣化時の獣の耳と尻尾は一度消してもらい、机を囲う形で話すことになった。これに関しては残念な気持ちもあったが、皆が帰ったあとにまた出してくれるとのことだったので我慢をする。むしろ消してくれていた方がベルの気が散らないので、そちらの方が結果的には良かったのかもしれない。
「報告するようなことは何も。セス、結界に異常は?」
「特に見当たらないよ。何かが触れた形跡もないしね」
再度確認をするように、数秒目を閉じて結界の細部を確認していた。
「向こうからの襲撃はなし、か」
「今のところは。今後は分からないけどね」
現在の状況は完全に先手を取られてしまい、後手に回っている状態だ。どうにか現状を打開していかなければならない。
「ならば、私が王の元へ報告しに行ってこよう。ついでに変わったことがないか、王都の様子も確認してくる。コーディリア、頼めるか?」
「もちろんよ」
トトーの本来の姿は歌兎で、背に人を乗せられるような大きさではない。むしろトトーの方が人の肩に乗れるような大きさだ。ベルも王城よりもロセウスの結界が貼ってある自宅の方が安全ということで、王城から自宅へと戻ってきている。諸々の事情を考えて、エリオットに動いてもらった方が一番スムーズといえるだろう。
エリオットの頼みに瞬時に獅子の姿に変わる。家を出てコーディリアに跨ると、颯爽と王都まで駆けていった。
「んじゃ、その間俺たちはどうする?」
手がかりと言えば、ベルの聞いたロゼリアと思われるの声のみ。他にロゼリアやクライシスの後を追える手かがりは一切ない。
「僕は、ベルのために癒しの歌を歌っていたいな」
完全に完治しているとはいえ、念には念をということなのだろう。
「オッケ。んじゃ、トトーはベルを頼むわ」
「うん!」
トトーはラヴィックの隣から、ベルの隣までやってくると、ちょこんと座った。
「ラヴィはどうしたい? 今のところ、ここから動くことはできないし」
「んー、そうだな。話が進展するまで、とりあえず体を動かしておきたいな」
召喚術師や契約術師は、その性質上、どうしても相棒である召喚獣や契約獣に戦闘全てを頼ってしまう傾向がある。ベルも指揮官やサポート役として後ろから口出しをしているだけだ。しかし今後のことを考えるならば戦えるまではいかなくても、自分の身を守れるくらいまでにはしておきたい気持ちがあった。
ラヴィックが腰に差していた剣を叩く。
「エリオットと鍛錬したり、素振りしたりしてはいるんだが、上達しているか分からなくてな。出来るならベルの召喚獣の三人の中から誰か一人、付き合ってくれるとありがたい」
護身用で持っているのかな、と思っていたが、そうではなかったようだ。ラヴィックはラヴィックなりに自身の在り様を考えているらしい。ベルもラヴィックを見習わなければ、と思った。
それに、と自身の背後に立つ三人を一瞥する。トトーとコーディリアは戦えないこともないけれど、どちらかと言えば治したりする方が得意なはずだ。エリオットも元王族だからそれなりの訓練はしているだろうが、騎士たち本職には叶わない。
それに比べ、ベルの召喚獣である三人は治療系に心得が全くない代わりに、戦闘については抜きんでた力を持っている。鍛錬相手には最適といえるだろう。
「誰かお願いできる?」
ベルの背後に立っていたアーテルとアルブスが軽く手を上げた。
「俺たちでよければ相手をしよう」
「一人よりも二人の方が色んなことができるしな。戦力強化はこちらも望んでいたことだ。ロセウスは結界とお嬢をよろしく頼む」
「わかった。家を中心として直径一キロほどの結界を張っている。鍛錬するなら、その範囲でしてくれるかい? 結界の中であれば、すぐに対処したり、呼びかけをすることができるからね」
「はいよ。んじゃ二人とも、早速よろしく頼むわ」
本格的な鍛錬が出来るとわくわくしているのだろう、ラヴィックの瞳はいつも以上に輝いて見えた。そんなラヴィックの後ろをアーテルとアルブスが苦笑しながらついていった。
家の中にはベル、ロセウス、トトーの三人が残る。ラヴィックたちが外に出て行ったあと、トトーにどんな曲調のものがいいかと尋ねられ、迷った末に穏やかな気持ちになれそうな曲ならどんなものでも、と答えた。曖昧な答えではあったが、トトーは迷うそぶりを見せることなく、二つ返事で了承する。
すうっと息を吸い、その口から素晴らしい歌声が部屋中に響き渡った。とても耳心地の良い歌に目を瞑っていると、徐々に睡魔が押し寄せてくる。こっくり、こっくりと船をこいでしまうベルを誰かが引き寄せた。それがトトーなのか、ロセウスなのかベルには最初分からなかった。しかし服から香る匂いとベルの肩を掴むその腕の力強さには覚えがあった。
(セス……)
「ゆっくりおやすみ、ベル」
その声を最後に、ベルは夢の中へと旅立った。
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