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第二章
二十七話
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コーディリアの魔法に目を奪われながらも、楽しい夕食の時間は進んでいく。気がつけば、太陽は完全に沈み、代わりに月と星が闇夜を照らしていた。至れり尽くせりのバーベキューを堪能し、食後のコーヒーに舌鼓を打っていると、話題が真剣味を帯びたものへと徐々に変わっていく。食事は楽しく、終わったあとに真剣な話を。こうしてメリハリをつけることは実にいいことだと思う。
「さて、そろそろ私の話を聞いてもらうことにしよう」
そう話を切り出したのは、コーディリアとともに王都へ足を運んでくれたエリオットだった。帰ってきてすぐに話題に出さないあたり、緊急のことなどはなかったのだろう。それでも後手に回らざるえない現状、大事な情報には変わりない。ベルはエリオットの話に耳を傾けた。
「私が見た限りでは、王都の様子に変わりはない。ベルが毒を盛られたという噂も耳にはしなかった。建国祭も賑わいを見せている」
エリオットの言葉に内心大きく安堵の息をつく。ここで、ベルが毒に盛られたという噂が流れていた、なんて言われた暁には、あれほど辛かった毒に頑張って耐えたのに、と涙しそうだ。それに、もし流れていたとしたら、それは内部に内通者がいるかもしれないという証拠にもなりうる。そうなれば、誰を信じればいいのか疑心暗鬼になってしまう。そういった意味でもベルは安堵していた。
「国王にも直接会って話をしたが、今のところ何も起こってはいないようだ。それはそれで逆に不気味ではあるのだがな」
まるで、嵐の前の静けさのようだと、エリオットの表情はそう語っていた。
「このまま何も起こらなければいいけれど……」
コーヒーにたっぷりとミルクを入れたマグカップを両手で可愛らしく持つトトーが、その可愛らしい顔立ちを歪ませていた。この場にいる誰もが感じていること。それは、何も起こらないはずがない、ということだった。
ベルを狙ったあからさまな犯行。しかも建国祭という目立つこと間違いない日に実行へと移した。これは明らかな宣戦布告と見てもいい。
「せめて何か足取りが掴めたらいいのだけれど」
「俺たちの中に追跡魔法が得意な召喚獣がいないからな」
召喚獣の魔法は人間が使うものよりも特殊なものが多い。特に歌を媒介とするトトーなどがいい例だろう。けれどベルたちの召喚獣の中には追跡系に特化した者がいない。
(ん? 私たちの中には……?)
自身の思考に、ふと首を傾げる。
確かに視界内に映る召喚獣たちの中に追跡魔法が得意なものはいない。けれどそれはベルの視界内に映る召喚獣たちの話。
ベルが手紙を出した、二人の輝人の姿が脳裏に浮かんだ。
ニード・ブラウンとヴァイオレット・ウィオラ。そして二人の召喚獣である二人の姿とその得意とする魔法を。
光の筋が一つ、見えた気がした。
頭の中で、パズルのピースがカチカチと音を立てていく。
傍目からは、ぼうっとしているようにしか見えないベルの姿を、最初に違和感を持ったのは、ベルの召喚獣であるロセウス、アルブス、アーテルだった。
「お嬢?」
「どうしたんだ?」
「もしかして、何か気づいたことでもあったのかい?」
三者三様の言葉。それはどれもベルを気遣うもの。その言葉を聞いて、ラヴィックやエリオット、トトー、コーディリアもベルの異変に気がついた。
この場にいる全員の注目を集めていることに気づき、慎重に言葉を選びながら発する。
「ニー爺とヴァイオレットさんの召喚獣が使える魔法って皆知ってる?」
「ニー爺の召喚獣っていえば、水蛇のアクア・カエルレウムだろ? その名の通り、水魔法が得意の」
「そしてヴァイオレットの召喚獣は眠り鼠のムース・ベェールだ。こちらも名の通り、誰も逆らうことが出来ない強力な眠りを誘発する魔法が得意の召喚獣だな。それがどうかしたのか?」
答えてくれたのは、ラヴィックとエリオット。
その解答は国外国内問わず、誰もが知る模範解答だった。輝人の中でもニードとヴァイオレットは一、二を争うほどの古参だ。だからベルたちよりも召喚術師、そして召喚獣としての名と得意とする魔法は多くの人に知れ渡っている。
しかしそれとは逆にほとんどの人が知ることのない魔法を使えることを、ベルは知っていた。
「それは表向きに公表されているもの。本当は二人とももっとすごい魔法を使えるの」
ベルだって本人から聞いた情報ではない。日本で星野鈴として生きていて、この世界がゲームだった頃に、ネットで偶然見つけた情報だった。
「セス、結界の周りに人はいない?」
ロセウスは一度目を瞑り、結界の様子を確かめる。
「ああ、いないよ。けれど念のために盗聴防止の効果も付与しておくよ」
キンと金属音のような音が辺りに響く。これは結界が新たに効果を付与された音なのだろう。
「ありがとう」
素直に礼を伝えれば、ロセウスは笑みを浮かべた。視線をロセウスから外し、皆の方を見る。
「正直に言えば、私はこれを本人たちから聞いたわけではないから、本当かどうなのかもわからない。けれど九割方は信じていい情報だと思う」
そう前置きしつつも、頭の中のピースは音を立てながら隙間を埋めていく。すっかり忘れていた情報だったが、ネットにその情報を書き込んだのは一人だけではなく複数人いた。だからこそ、信じてもいいと思った。
「ニー爺の召喚獣アクアは、水鏡という魔法を。そしてヴァイオレットさんの召喚獣ムースは、夢見という魔法を使うことができるの」
「さて、そろそろ私の話を聞いてもらうことにしよう」
そう話を切り出したのは、コーディリアとともに王都へ足を運んでくれたエリオットだった。帰ってきてすぐに話題に出さないあたり、緊急のことなどはなかったのだろう。それでも後手に回らざるえない現状、大事な情報には変わりない。ベルはエリオットの話に耳を傾けた。
「私が見た限りでは、王都の様子に変わりはない。ベルが毒を盛られたという噂も耳にはしなかった。建国祭も賑わいを見せている」
エリオットの言葉に内心大きく安堵の息をつく。ここで、ベルが毒に盛られたという噂が流れていた、なんて言われた暁には、あれほど辛かった毒に頑張って耐えたのに、と涙しそうだ。それに、もし流れていたとしたら、それは内部に内通者がいるかもしれないという証拠にもなりうる。そうなれば、誰を信じればいいのか疑心暗鬼になってしまう。そういった意味でもベルは安堵していた。
「国王にも直接会って話をしたが、今のところ何も起こってはいないようだ。それはそれで逆に不気味ではあるのだがな」
まるで、嵐の前の静けさのようだと、エリオットの表情はそう語っていた。
「このまま何も起こらなければいいけれど……」
コーヒーにたっぷりとミルクを入れたマグカップを両手で可愛らしく持つトトーが、その可愛らしい顔立ちを歪ませていた。この場にいる誰もが感じていること。それは、何も起こらないはずがない、ということだった。
ベルを狙ったあからさまな犯行。しかも建国祭という目立つこと間違いない日に実行へと移した。これは明らかな宣戦布告と見てもいい。
「せめて何か足取りが掴めたらいいのだけれど」
「俺たちの中に追跡魔法が得意な召喚獣がいないからな」
召喚獣の魔法は人間が使うものよりも特殊なものが多い。特に歌を媒介とするトトーなどがいい例だろう。けれどベルたちの召喚獣の中には追跡系に特化した者がいない。
(ん? 私たちの中には……?)
自身の思考に、ふと首を傾げる。
確かに視界内に映る召喚獣たちの中に追跡魔法が得意なものはいない。けれどそれはベルの視界内に映る召喚獣たちの話。
ベルが手紙を出した、二人の輝人の姿が脳裏に浮かんだ。
ニード・ブラウンとヴァイオレット・ウィオラ。そして二人の召喚獣である二人の姿とその得意とする魔法を。
光の筋が一つ、見えた気がした。
頭の中で、パズルのピースがカチカチと音を立てていく。
傍目からは、ぼうっとしているようにしか見えないベルの姿を、最初に違和感を持ったのは、ベルの召喚獣であるロセウス、アルブス、アーテルだった。
「お嬢?」
「どうしたんだ?」
「もしかして、何か気づいたことでもあったのかい?」
三者三様の言葉。それはどれもベルを気遣うもの。その言葉を聞いて、ラヴィックやエリオット、トトー、コーディリアもベルの異変に気がついた。
この場にいる全員の注目を集めていることに気づき、慎重に言葉を選びながら発する。
「ニー爺とヴァイオレットさんの召喚獣が使える魔法って皆知ってる?」
「ニー爺の召喚獣っていえば、水蛇のアクア・カエルレウムだろ? その名の通り、水魔法が得意の」
「そしてヴァイオレットの召喚獣は眠り鼠のムース・ベェールだ。こちらも名の通り、誰も逆らうことが出来ない強力な眠りを誘発する魔法が得意の召喚獣だな。それがどうかしたのか?」
答えてくれたのは、ラヴィックとエリオット。
その解答は国外国内問わず、誰もが知る模範解答だった。輝人の中でもニードとヴァイオレットは一、二を争うほどの古参だ。だからベルたちよりも召喚術師、そして召喚獣としての名と得意とする魔法は多くの人に知れ渡っている。
しかしそれとは逆にほとんどの人が知ることのない魔法を使えることを、ベルは知っていた。
「それは表向きに公表されているもの。本当は二人とももっとすごい魔法を使えるの」
ベルだって本人から聞いた情報ではない。日本で星野鈴として生きていて、この世界がゲームだった頃に、ネットで偶然見つけた情報だった。
「セス、結界の周りに人はいない?」
ロセウスは一度目を瞑り、結界の様子を確かめる。
「ああ、いないよ。けれど念のために盗聴防止の効果も付与しておくよ」
キンと金属音のような音が辺りに響く。これは結界が新たに効果を付与された音なのだろう。
「ありがとう」
素直に礼を伝えれば、ロセウスは笑みを浮かべた。視線をロセウスから外し、皆の方を見る。
「正直に言えば、私はこれを本人たちから聞いたわけではないから、本当かどうなのかもわからない。けれど九割方は信じていい情報だと思う」
そう前置きしつつも、頭の中のピースは音を立てながら隙間を埋めていく。すっかり忘れていた情報だったが、ネットにその情報を書き込んだのは一人だけではなく複数人いた。だからこそ、信じてもいいと思った。
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