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第二章
三十六話
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夢見から現実へ戻ってくると、すでに朝になっていた。どうやら夢見を見たあとは普通の睡眠に切り替わるようだ。体はしっかりと休まっており、疲れはどこにも見当たらなかった。
夢見の中で日本でのことを話す決心をしたのはいいが、それでも気が重いことに変わりはない。太陽が輝いていて清々しい朝のはずなのに、それが心を重くしていた。
一緒に眠っていたアーテル、アルブス、ロセウスの三人はすでに起きていたようで、ベッドの上に姿はなかった。少しだけ寂しい気持ちに駆られたが、鼻をくすぐる匂いで、三人が朝食を作っていることが察せられた。
「お嬢、起きてるかー?」
「うん、おはよう」
ベルが起きたことを気配で察知したのか、アーテルがわざわざ呼びにきてくれたらしい。寝癖がついたままコクンと頷くと、頭を撫でながら軽く寝癖を整えてくれた。
「おはよう、お嬢。あと盛り付けだけで終わるから、服着替えて顔洗ったらリビングに顔出して」
「わかった」
ふわぁと欠伸をしながら、返事をすれば、再び頭を撫でてアーテルはリビングへと戻っていった。
アーテルに言われた通り、普段着に着替えて、洗面所で歯を磨きながら髪を整える。人前に出ても恥ずかしくないかチェックをして、リビングへと顔を出した。
四人揃って食事をとるいつものテーブルには、朝だというのに手間のかかった料理が並べられていた。彩り豊かなサラダに、よく煮込まれた食欲をそそるスープ、メインには一口サイズのサンドイッチやフレンチトーストが綺麗に盛り付けられており、デザートには前にベルが美味しいと口にしたチェツのムースが並べられていた。
昨日バーベキューの用意をしたときには、どれも前準備がされていなかった。ベルが起きる前に朝から三人で手分けをして作ってくれたのだろう。
夢見の中でのベルの異変を、三人とも気遣ってくれたのだろう。
申し訳なさを感じつつも、その気遣いに頬を緩ませながら、いつもの席に座る。
「皆揃ったことだし、食べようか」
「うん、いただきます」
ロセウスに促されて、朝食を開始した。
自分で作ったものより、どうしても他の人が作った料理の方が美味しく感じるよなあと思いながら、美味しい料理に舌鼓を打つ。
心は重くとも、ベルの神経が図太いからなのか、味覚は正直だった。そんな自身に内心苦笑しつつも、料理を味わうことを優先する。
こうして仲良く四人で食事をとっている間の会話は、夢見の話に一切触れることがなかった。おそらくベルが言い出すまで、誰も何も言わないつもりなのだろう。そんな彼らの優しさに胸が少しだけ痛んだ。
だからこそ、他愛もない会話がひと段落したところで話を切り出す。
「ねぇ、皆。食事が終わったら話したいことがあるの。時間を貰ってもいいかな」
三人の優しさに甘えてはいけない。そう自身を叱咤し、デザートのチェツのムースを手に取ったところで、思いきって切り出す。
「それは夢見で言っていた話のことかい?」
「うん、そうだよ。皆に話すよりも先に、三人に話しておきたかったの」
「ねぇ、ベル。別に辛い話だったら、しなくてもいいんだよ。それでもベルは話すのかい?」
やはりロセウスはベルに甘い。今後に関わることであっても、ベルが話すことで傷つくならば話さなくていいと言ってくる。本当ならその真綿に包まれた言葉に甘えたかった。それでも甘えていい時と悪い時がある。ベルにだってそれくらいの分別はついていた。
「大丈夫、話すって決めたから」
ベルが真っすぐロセウスに視線を向ければ、仕方ない子だとでも言うような顔をされてしまった。
「なら私は止めやしないよ。でもね、ベル。これだけは覚えておいておくれ。私たちはどんなことを話されたとしてもベルを軽蔑したり、避けたりなんてしない」
(セス、やっぱり私に甘すぎるよ……)
話すことでロセウスやアーテル、アルブスが離れていってしまうのではないかという恐怖を見抜いていたようだ。目の奥が熱くなるのを、必死に堪える。
「そうだぜ、お嬢。俺たちはお嬢が嫌だっていっても、お嬢が輝人を辞めて、永い眠りについてもずっと傍にいる」
「お嬢が俺たちをお嬢の召喚獣にしたんだ。その責任くらいとってもらわないとな」
永い眠りについても。それは次期輝人へ力を譲渡し、自然と同化してもずっと傍にいるという意味に他ならない。これほどの嬉しい言葉は、召喚術師として、そして恋人として他にない。
ベルは涙を流すまいと天井に顔を向ける。
「うん、ありがとう……」
夢見の中で日本でのことを話す決心をしたのはいいが、それでも気が重いことに変わりはない。太陽が輝いていて清々しい朝のはずなのに、それが心を重くしていた。
一緒に眠っていたアーテル、アルブス、ロセウスの三人はすでに起きていたようで、ベッドの上に姿はなかった。少しだけ寂しい気持ちに駆られたが、鼻をくすぐる匂いで、三人が朝食を作っていることが察せられた。
「お嬢、起きてるかー?」
「うん、おはよう」
ベルが起きたことを気配で察知したのか、アーテルがわざわざ呼びにきてくれたらしい。寝癖がついたままコクンと頷くと、頭を撫でながら軽く寝癖を整えてくれた。
「おはよう、お嬢。あと盛り付けだけで終わるから、服着替えて顔洗ったらリビングに顔出して」
「わかった」
ふわぁと欠伸をしながら、返事をすれば、再び頭を撫でてアーテルはリビングへと戻っていった。
アーテルに言われた通り、普段着に着替えて、洗面所で歯を磨きながら髪を整える。人前に出ても恥ずかしくないかチェックをして、リビングへと顔を出した。
四人揃って食事をとるいつものテーブルには、朝だというのに手間のかかった料理が並べられていた。彩り豊かなサラダに、よく煮込まれた食欲をそそるスープ、メインには一口サイズのサンドイッチやフレンチトーストが綺麗に盛り付けられており、デザートには前にベルが美味しいと口にしたチェツのムースが並べられていた。
昨日バーベキューの用意をしたときには、どれも前準備がされていなかった。ベルが起きる前に朝から三人で手分けをして作ってくれたのだろう。
夢見の中でのベルの異変を、三人とも気遣ってくれたのだろう。
申し訳なさを感じつつも、その気遣いに頬を緩ませながら、いつもの席に座る。
「皆揃ったことだし、食べようか」
「うん、いただきます」
ロセウスに促されて、朝食を開始した。
自分で作ったものより、どうしても他の人が作った料理の方が美味しく感じるよなあと思いながら、美味しい料理に舌鼓を打つ。
心は重くとも、ベルの神経が図太いからなのか、味覚は正直だった。そんな自身に内心苦笑しつつも、料理を味わうことを優先する。
こうして仲良く四人で食事をとっている間の会話は、夢見の話に一切触れることがなかった。おそらくベルが言い出すまで、誰も何も言わないつもりなのだろう。そんな彼らの優しさに胸が少しだけ痛んだ。
だからこそ、他愛もない会話がひと段落したところで話を切り出す。
「ねぇ、皆。食事が終わったら話したいことがあるの。時間を貰ってもいいかな」
三人の優しさに甘えてはいけない。そう自身を叱咤し、デザートのチェツのムースを手に取ったところで、思いきって切り出す。
「それは夢見で言っていた話のことかい?」
「うん、そうだよ。皆に話すよりも先に、三人に話しておきたかったの」
「ねぇ、ベル。別に辛い話だったら、しなくてもいいんだよ。それでもベルは話すのかい?」
やはりロセウスはベルに甘い。今後に関わることであっても、ベルが話すことで傷つくならば話さなくていいと言ってくる。本当ならその真綿に包まれた言葉に甘えたかった。それでも甘えていい時と悪い時がある。ベルにだってそれくらいの分別はついていた。
「大丈夫、話すって決めたから」
ベルが真っすぐロセウスに視線を向ければ、仕方ない子だとでも言うような顔をされてしまった。
「なら私は止めやしないよ。でもね、ベル。これだけは覚えておいておくれ。私たちはどんなことを話されたとしてもベルを軽蔑したり、避けたりなんてしない」
(セス、やっぱり私に甘すぎるよ……)
話すことでロセウスやアーテル、アルブスが離れていってしまうのではないかという恐怖を見抜いていたようだ。目の奥が熱くなるのを、必死に堪える。
「そうだぜ、お嬢。俺たちはお嬢が嫌だっていっても、お嬢が輝人を辞めて、永い眠りについてもずっと傍にいる」
「お嬢が俺たちをお嬢の召喚獣にしたんだ。その責任くらいとってもらわないとな」
永い眠りについても。それは次期輝人へ力を譲渡し、自然と同化してもずっと傍にいるという意味に他ならない。これほどの嬉しい言葉は、召喚術師として、そして恋人として他にない。
ベルは涙を流すまいと天井に顔を向ける。
「うん、ありがとう……」
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