99 / 136
第二章
三十七話
しおりを挟む
涙が瞳から引く頃合いを見計らって、ベルは顔を元の位置に戻した。
話をするのは、チェツのムースを食べ終わったあと。ムースを食べている間、三人の視線はとても優しく、ベルの方を誰もが見ていた。食べにくいなぁと思いつつも、見ないでと言い出すことはできなかった。
ムースを食べ終わり、朝食の片付けを済ませると、リビングに移動をせずそのまま話をすることになった。
ベルが話しやすいようにか、ロセウスがハーブティーを淹れて手渡してくれた。それに礼を伝えて、一口飲む。ハーブのすうっとした喉ごしが体全体に行き渡る。ベルの背中を押してくれているかのようだった。
ハーブティーの入ったティーカップを机に置き、それぞれの瞳を順番に見ていく。そしてベルは口を開いた。
「私ね、実はこの世界とは別の世界で生きていた記憶があるの」
この世界がゲームで、あちらの世界が現実世界だった。そんなことを言ったところで、通じないのはわかっていた。日本に住んでいたころに、日本が実はゲームの世界で、本物の世界は別にあると言われたところで、こんな実体験をしていなければ、ベルだって笑って冗談でしょうと一言で終わらせていたに違いないのだから。
だから『ゲーム』というワードを使わず、分かりやすいように本当のことだけを述べていくことにした。
けれどこの一言だけで、物凄い勇気を振り絞った。鼓動がいつもの倍以上の速さだ。信じてもらえているのか不安で顔を上げれば、そこにはベルを嘘つきだと笑うものはいなかった。誰もが真剣にベルの話を聞いくれていた。三人の前置きがあったとしても、こればかりは安堵してしまう。
深呼吸をするように息を吐いたあと、再び話しを続けた。
「別の世界では『星野鈴』という名前で生きていた。けれど二十一歳の時に死んでしまったの」
「死んだ……? いや死んでいないと、ここにベルはいないのか。でもどうしてそんなに若くして」
気持ちとしては複雑なのだろう。星野鈴もベル・ステライトもどちらも同じ人物なのだから。アルブスの気持ちが手に取るようにわかる。ロセウスとアーテルも同じ気持ちなのだろう。眉を寄せ、複雑な表情をしていた。
「『星野鈴』の死の理由にこそ、クライシスが関わってくるの。だからこそ皆に協力してもらうなら、この話をしなければならなかった」
「それはクライシスも記憶を持った人物ということかい?」
「うん……」
電車に轢かれる衝撃や、引き裂かれるような激しい痛み。それらを思い出すだけで体が震える。ぶるりと震えた体を抑えるように両腕で自身を抱きしめた。そんなベルのささやかな異変を瞬時に察して、誰もがベルの傍に寄ろうとするが、大丈夫だからと笑みを浮かべる。
一度瞼を閉じて、心を落ち着ける。そして瞼を開けた。
「クライシスの別の世界での名前は知らない。その日まで会ったこともなかったし、むしろこっちで再会するまで、クライシスが私を死へと誘った人物だとは思ってもみなかったから」
「ってことは、無差別殺人ということか?」
「違うよ、アーテ」
アーテルがクライシスを想像して、目を細めるので慌てて訂正を入れる。
「不慮の事故だったの。満員な場所にお互いがいて、クライシスの体が私に当たってしまったの。私はその衝撃を受け止めきれなくて、電車……んー、なんていったほうが分かりやすいのかな。素早く動く大きな鉄の塊に轢かれちゃったんだ」
「そういうことか……」
表現の仕方がベルには鉄の塊としか思いつかなくて、想像できるかどうか謎だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。
「だから私はクライシスに恨みも何にもなかったの。けれどここに神様が関わってきてしまう。私は直接会ったことがないんだけど、クライシスは転生をするときに神様に会ってこう言われたらしいの。この世界でベル・ステライトとして生きる私が幸せになるようにサポートしろって。でね、多分クライシスはこのことを転生したときから覚えていたんじゃなくて、途中で思い出したんだと思う。けれどクライシスは思い出したときに、神様に言われたことを跳ねのけてしまった。だから神様はクライシスと龍脈の繋がりを絶ち切ってしまって、それで……」
クライシスの召喚獣が死んでしまった――。
たとえ間接的でも、ベルはクライシスの召喚が死んでしまった原因の中心にいる。それを認めるのが怖くて、声に出すことができなかった。
けれどベルが自身で言わなくとも、ベルが言いたかったことはきちんと伝わったらしい。その証拠とでも言うように、ベルを中心として三人が抱きしめてくれた。
話をするのは、チェツのムースを食べ終わったあと。ムースを食べている間、三人の視線はとても優しく、ベルの方を誰もが見ていた。食べにくいなぁと思いつつも、見ないでと言い出すことはできなかった。
ムースを食べ終わり、朝食の片付けを済ませると、リビングに移動をせずそのまま話をすることになった。
ベルが話しやすいようにか、ロセウスがハーブティーを淹れて手渡してくれた。それに礼を伝えて、一口飲む。ハーブのすうっとした喉ごしが体全体に行き渡る。ベルの背中を押してくれているかのようだった。
ハーブティーの入ったティーカップを机に置き、それぞれの瞳を順番に見ていく。そしてベルは口を開いた。
「私ね、実はこの世界とは別の世界で生きていた記憶があるの」
この世界がゲームで、あちらの世界が現実世界だった。そんなことを言ったところで、通じないのはわかっていた。日本に住んでいたころに、日本が実はゲームの世界で、本物の世界は別にあると言われたところで、こんな実体験をしていなければ、ベルだって笑って冗談でしょうと一言で終わらせていたに違いないのだから。
だから『ゲーム』というワードを使わず、分かりやすいように本当のことだけを述べていくことにした。
けれどこの一言だけで、物凄い勇気を振り絞った。鼓動がいつもの倍以上の速さだ。信じてもらえているのか不安で顔を上げれば、そこにはベルを嘘つきだと笑うものはいなかった。誰もが真剣にベルの話を聞いくれていた。三人の前置きがあったとしても、こればかりは安堵してしまう。
深呼吸をするように息を吐いたあと、再び話しを続けた。
「別の世界では『星野鈴』という名前で生きていた。けれど二十一歳の時に死んでしまったの」
「死んだ……? いや死んでいないと、ここにベルはいないのか。でもどうしてそんなに若くして」
気持ちとしては複雑なのだろう。星野鈴もベル・ステライトもどちらも同じ人物なのだから。アルブスの気持ちが手に取るようにわかる。ロセウスとアーテルも同じ気持ちなのだろう。眉を寄せ、複雑な表情をしていた。
「『星野鈴』の死の理由にこそ、クライシスが関わってくるの。だからこそ皆に協力してもらうなら、この話をしなければならなかった」
「それはクライシスも記憶を持った人物ということかい?」
「うん……」
電車に轢かれる衝撃や、引き裂かれるような激しい痛み。それらを思い出すだけで体が震える。ぶるりと震えた体を抑えるように両腕で自身を抱きしめた。そんなベルのささやかな異変を瞬時に察して、誰もがベルの傍に寄ろうとするが、大丈夫だからと笑みを浮かべる。
一度瞼を閉じて、心を落ち着ける。そして瞼を開けた。
「クライシスの別の世界での名前は知らない。その日まで会ったこともなかったし、むしろこっちで再会するまで、クライシスが私を死へと誘った人物だとは思ってもみなかったから」
「ってことは、無差別殺人ということか?」
「違うよ、アーテ」
アーテルがクライシスを想像して、目を細めるので慌てて訂正を入れる。
「不慮の事故だったの。満員な場所にお互いがいて、クライシスの体が私に当たってしまったの。私はその衝撃を受け止めきれなくて、電車……んー、なんていったほうが分かりやすいのかな。素早く動く大きな鉄の塊に轢かれちゃったんだ」
「そういうことか……」
表現の仕方がベルには鉄の塊としか思いつかなくて、想像できるかどうか謎だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。
「だから私はクライシスに恨みも何にもなかったの。けれどここに神様が関わってきてしまう。私は直接会ったことがないんだけど、クライシスは転生をするときに神様に会ってこう言われたらしいの。この世界でベル・ステライトとして生きる私が幸せになるようにサポートしろって。でね、多分クライシスはこのことを転生したときから覚えていたんじゃなくて、途中で思い出したんだと思う。けれどクライシスは思い出したときに、神様に言われたことを跳ねのけてしまった。だから神様はクライシスと龍脈の繋がりを絶ち切ってしまって、それで……」
クライシスの召喚獣が死んでしまった――。
たとえ間接的でも、ベルはクライシスの召喚が死んでしまった原因の中心にいる。それを認めるのが怖くて、声に出すことができなかった。
けれどベルが自身で言わなくとも、ベルが言いたかったことはきちんと伝わったらしい。その証拠とでも言うように、ベルを中心として三人が抱きしめてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる