召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

五十話

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 そうして注視をしていたからか、その変化にすぐ気づくことができた。トトーが歌うことを止め、口角を上げたのだ。途端に背筋にぞわっと鳥肌が立つ。

「アル!!」

 警戒心をマックスまであげたベルは、即座にアルブスを呼んだ。

「風で私たちを覆って! できれば高密度の風で!!」

 高密度の風で覆うということはイコール互いの姿が目視できなくなることに繋がる。結界もどきを風で作ることを止めた理由の一つだ。しかし今はなりふり構っていられる状態ではなかった。

 ベルの指示の元アルブスが、強力な風を魔法で生み出す。アルブスが微調整をしてくれなければ、互いの声すら聞き取らないような暴風だ。

「そんなんじゃ、僕の声を遮ることはできないよ?」

 しかしトトーの方が一枚上手だった。

「っ!?」

 まるで耳元で直接囁きかけられたように、トトーの声が近くで聞こえた。それはアルブスも同じらしく、ベルを抱く力が一層強くなる。そんなベルたちをおかまいなしに、トトーは話を続けた。

「ロセウスみたいな完全な結界魔法だとこの魔法は使えない。けれどアルブスやアーテルのような結界もどきなら、潜り抜けるのは造作もないこと。だって、結界のように隙間が全くないわけじゃないからね」

(そうきたか……)

 トトーが何の歌を歌っていたのか、その言葉で瞬時に理解する。おそらくトトーは遠くの者に声を届ける歌魔法をずっと歌っていたのだろう。そしてその魔法の特徴として、どんな小さな隙間からでも、魔法で調節して声を届けることができるというわけだ。精神に対する攻撃魔法ではなく、それを通すための前準備しとして歌魔法を行使したようだ。

 つまりロセウスとトトーの対戦であれば、ロセウスが完全優位に立てるが、アルブスやアーテルとであれば、この魔法を使われる限り必ず劣勢に立たされるということでもある。

「なんつー魔法だよ……」

 アルブスが苦虫を数匹噛み潰したような顔をする。アルブスの意見には同意だ。防ぎようのない魔法に、ベルの心に焦りが沸いてくる。

 前準備用の魔法だと知っていれば、即座にアルブスに叩いてもらって終わりだった。ベルが精神攻撃魔法を警戒し過ぎた故に、一歩リードされてしまった状況である。

(冷静になれ、冷静になれ自分!!)

 しかしここでわたわたと一人焦るわけにはいかない。自分を見失った時点で負けは確定してしまう。少しでも冷静に状況を見ることが、勝利への鍵へとつながるのだから。

(それにしても、ゲームの時はトトーこんな魔法使わなかったのに)

 比べたらいけないが、新たに知る魔法に驚きを隠しきれない。

「僕もこの数年遊んでたわけじゃないからね。僕は他の召喚獣と比べて、どうしても召喚術師であるラヴィに頼ってしまう部分が多い。だからその分を補うために頑張ってきたというわけだよ」

 そんなベルの心情を読んだかのように、トトーが魔法を練習してきた理由を教えてくれた。トトーの召喚術師であるラヴィックは、トトーの歌が歌い終わるまでの時間稼ぎをしなければならない。アルブスたちには歯も立たなかったようだが、それはアルブスたちが身体攻撃に特化した召喚獣だからだ。もしこれが対人間や魔物であれば引けも取らない実力を有している。そんなラヴィックだからこそ、トトーの召喚術師が務まるのだ。もしベルがトトーの召喚術師だったとしたら、対人間でも勝てるかどうかの厳しいものとなってしまう。時間稼ぎができないのだから当然だ。

「でも、負けるつもりはないよ。トトーたちがそう来るなら、私は司令塔として、勝てる策を練るだけなんだから」

「そうこなくっちゃ」

 ベルの声はトトーの魔法によって筒抜けのようで、トトーからすぐに返事が返ってきた。

(精神攻撃魔法はいかに相手の魔法を知っているか、もしくは相手よりも魔力が上回っているかが鍵になってくる……。つまりは現状不利ってことね。この局面をどう切り抜けるかが勝敗を決する)

 トトーが使用できる歌魔法を全て把握しているわけではない。幾つかよく使う歌魔法を知っているだけだ。それに魔力量も召喚獣だから召喚術師を介して龍脈から無限に貰い受けることができる。

(さてどうしたもんか……)

 考えられる時間は少ない。でも慌てるわけにはいかない。

 冷静に自身を保ちながら、作戦を練り始めた。
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