113 / 136
第二章
五十一話
しおりを挟む
(このまま逃げ切ることはできない)
トトーの歌魔法よって逃げる道は絶たれた。
「アル、この高密度の風はもう消していい。だからもっと上昇をして」
「あれ、まだ上に行くの? どれだけ上に行っても、僕の歌魔法は届くよ?」
「そうだろうね。でもね、私はさっき言ったはずだよ。勝てる策を練るだけだと」
「そんなお嬢の言葉を俺は信じるだけだ」
アルブスはベルの言葉に従って、さらに上を目指した。上に行けば行くほど普通なら空気は薄くなって息苦しくなっていく。しかしそこは風魔法を得意とするアルブスだ。地面に足をつけているときと呼吸のしやすさは全く変わらなかった。
「あーあ、残念」
耳の近くでトトーの残念がる声が聞こえる。なんとなしに下を見れば、トトーの召喚術師であるラヴィックが凄まじい跳躍で先程までベルたちがいた場所まで飛んでいた。ラヴィックも元は人間。そんなラヴィックにこんな跳躍ができるはずがない。おそらくトトーが同時進行でラヴィックに身体能力を上げる歌魔法をかけていたのだろう。
いくらアルブスが強いとはいえ、ベルを片手で抱き上げている状態。少しでもベルの判断が遅ければ、剣が当たっていた可能性がある。
(ま、これを見越して上昇してもらったわけじゃないけどね)
内心、危なかったと思いながら、数秒前の自身の判断に称賛を送る。
上昇してもらったのは二つ理由があった。
一つはベルとアルブスの耳に、トトーの声が届く速さだった。日本にいた時にあったことを思い出す。好きなアーティストのライブで、会場が広かったときのことだ。壇上が近い前側の席にいる人たちと後ろ側の席の人たちで合いの手を入れた時、どうしてもタイミングが合わない時があった。それは単純に音が届く速さの問題があったからだ。
そのことを思い出したからこそ、ベルはトトーの口元に注目した。すると確かにそこにも声を発した時と、聞こえる時の差がきちんと存在したのだ。だから距離を稼ぐことによって、その差は微々たるものでも広がっていく。ベルはそこに着目した。
そして二つ目は策を練るための時間稼ぎだ。考える時間はあるだけあった方がいい。
「お嬢、これくらいでいいか?」
「うん。十分すぎるくらい」
アルブスが止まったのは、トトーたちの姿が一ミリほどにしか見えない遥か上空だ。
「ちなみにアルってここから二人を攻撃することはできる?」
「一応視界に映ってるから攻撃することはできるが、それでも命中率が少しだけ下がるのと、威力が弱まるな。それでもいいか?」
「それは想定範囲内だから大丈夫。ただお願いがあるの。威力は弱まってもいいから、目には見えない攻撃にしてほしいんだ」
攻撃が上から降ってくるとなれば、視界に映った瞬間にでも避けようとしてしまうだろう。それが遥か上空であれば、尚更避けやすい。だからなるべく避けられないように不可視にと頼んだ。
「お安い御用だ」
アルブスは自由な方の腕を振り上げ、幾つもの風の刃を作り出す。
そうしてそれを地上へと振りかざし、攻撃を繰り出した。
「それ、僕にも筒抜けだってこと忘れてないよね?」
ベルとアルブスの会話に遅れてトトーが入ってくる。やはり会話の時差はあるようだ。
「もちろん。でも、見えなかったら避けられないよね? それも複数あれば尚更」
「本当に苦手な相手だよ、ベルたちは」
「お褒めいただき光栄です」
「ただ僕たちも負けないけどね」
トトーはそう言い残すと、また歌魔法を歌いはじめた。
(これに対する私がとれる対策は、龍脈の魔力をなるべく取り入れること)
何の歌魔法なのか分かればいいが、残念なことに聞き覚えがない。
「今から私は、なるべく龍脈から魔力をもらって歌魔法への抵抗をする。だからアルも撃てるだけ攻撃を放って」
「任せとけ」
もう少し勝率のある作戦を練りたかったが、時間がない以上これが精いっぱいだ。せめて攻撃を何発も放てる時間を作れたのだから、良しとしか思う他ない。あとはどちらの攻撃が先に当たるか。こればかりはベルがどこまで歌魔法に抵抗できるか、そしてアルブスの攻撃がいつ当たってくれるかが鍵となる。
だからこそベルは必死に龍脈から魔力を集めた。
トトーの歌魔法よって逃げる道は絶たれた。
「アル、この高密度の風はもう消していい。だからもっと上昇をして」
「あれ、まだ上に行くの? どれだけ上に行っても、僕の歌魔法は届くよ?」
「そうだろうね。でもね、私はさっき言ったはずだよ。勝てる策を練るだけだと」
「そんなお嬢の言葉を俺は信じるだけだ」
アルブスはベルの言葉に従って、さらに上を目指した。上に行けば行くほど普通なら空気は薄くなって息苦しくなっていく。しかしそこは風魔法を得意とするアルブスだ。地面に足をつけているときと呼吸のしやすさは全く変わらなかった。
「あーあ、残念」
耳の近くでトトーの残念がる声が聞こえる。なんとなしに下を見れば、トトーの召喚術師であるラヴィックが凄まじい跳躍で先程までベルたちがいた場所まで飛んでいた。ラヴィックも元は人間。そんなラヴィックにこんな跳躍ができるはずがない。おそらくトトーが同時進行でラヴィックに身体能力を上げる歌魔法をかけていたのだろう。
いくらアルブスが強いとはいえ、ベルを片手で抱き上げている状態。少しでもベルの判断が遅ければ、剣が当たっていた可能性がある。
(ま、これを見越して上昇してもらったわけじゃないけどね)
内心、危なかったと思いながら、数秒前の自身の判断に称賛を送る。
上昇してもらったのは二つ理由があった。
一つはベルとアルブスの耳に、トトーの声が届く速さだった。日本にいた時にあったことを思い出す。好きなアーティストのライブで、会場が広かったときのことだ。壇上が近い前側の席にいる人たちと後ろ側の席の人たちで合いの手を入れた時、どうしてもタイミングが合わない時があった。それは単純に音が届く速さの問題があったからだ。
そのことを思い出したからこそ、ベルはトトーの口元に注目した。すると確かにそこにも声を発した時と、聞こえる時の差がきちんと存在したのだ。だから距離を稼ぐことによって、その差は微々たるものでも広がっていく。ベルはそこに着目した。
そして二つ目は策を練るための時間稼ぎだ。考える時間はあるだけあった方がいい。
「お嬢、これくらいでいいか?」
「うん。十分すぎるくらい」
アルブスが止まったのは、トトーたちの姿が一ミリほどにしか見えない遥か上空だ。
「ちなみにアルってここから二人を攻撃することはできる?」
「一応視界に映ってるから攻撃することはできるが、それでも命中率が少しだけ下がるのと、威力が弱まるな。それでもいいか?」
「それは想定範囲内だから大丈夫。ただお願いがあるの。威力は弱まってもいいから、目には見えない攻撃にしてほしいんだ」
攻撃が上から降ってくるとなれば、視界に映った瞬間にでも避けようとしてしまうだろう。それが遥か上空であれば、尚更避けやすい。だからなるべく避けられないように不可視にと頼んだ。
「お安い御用だ」
アルブスは自由な方の腕を振り上げ、幾つもの風の刃を作り出す。
そうしてそれを地上へと振りかざし、攻撃を繰り出した。
「それ、僕にも筒抜けだってこと忘れてないよね?」
ベルとアルブスの会話に遅れてトトーが入ってくる。やはり会話の時差はあるようだ。
「もちろん。でも、見えなかったら避けられないよね? それも複数あれば尚更」
「本当に苦手な相手だよ、ベルたちは」
「お褒めいただき光栄です」
「ただ僕たちも負けないけどね」
トトーはそう言い残すと、また歌魔法を歌いはじめた。
(これに対する私がとれる対策は、龍脈の魔力をなるべく取り入れること)
何の歌魔法なのか分かればいいが、残念なことに聞き覚えがない。
「今から私は、なるべく龍脈から魔力をもらって歌魔法への抵抗をする。だからアルも撃てるだけ攻撃を放って」
「任せとけ」
もう少し勝率のある作戦を練りたかったが、時間がない以上これが精いっぱいだ。せめて攻撃を何発も放てる時間を作れたのだから、良しとしか思う他ない。あとはどちらの攻撃が先に当たるか。こればかりはベルがどこまで歌魔法に抵抗できるか、そしてアルブスの攻撃がいつ当たってくれるかが鍵となる。
だからこそベルは必死に龍脈から魔力を集めた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる