召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

五十一話

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(このまま逃げ切ることはできない)

 トトーの歌魔法よって逃げる道は絶たれた。

「アル、この高密度の風はもう消していい。だからもっと上昇をして」

「あれ、まだ上に行くの? どれだけ上に行っても、僕の歌魔法は届くよ?」

「そうだろうね。でもね、私はさっき言ったはずだよ。勝てる策を練るだけだと」

「そんなお嬢の言葉を俺は信じるだけだ」

 アルブスはベルの言葉に従って、さらに上を目指した。上に行けば行くほど普通なら空気は薄くなって息苦しくなっていく。しかしそこは風魔法を得意とするアルブスだ。地面に足をつけているときと呼吸のしやすさは全く変わらなかった。

「あーあ、残念」

 耳の近くでトトーの残念がる声が聞こえる。なんとなしに下を見れば、トトーの召喚術師であるラヴィックが凄まじい跳躍で先程までベルたちがいた場所まで飛んでいた。ラヴィックも元は人間。そんなラヴィックにこんな跳躍ができるはずがない。おそらくトトーが同時進行でラヴィックに身体能力を上げる歌魔法をかけていたのだろう。

 いくらアルブスが強いとはいえ、ベルを片手で抱き上げている状態。少しでもベルの判断が遅ければ、剣が当たっていた可能性がある。

(ま、これを見越して上昇してもらったわけじゃないけどね)

 内心、危なかったと思いながら、数秒前の自身の判断に称賛を送る。

 上昇してもらったのは二つ理由があった。

 一つはベルとアルブスの耳に、トトーの声が届く速さだった。日本にいた時にあったことを思い出す。好きなアーティストのライブで、会場が広かったときのことだ。壇上が近い前側の席にいる人たちと後ろ側の席の人たちで合いの手を入れた時、どうしてもタイミングが合わない時があった。それは単純に音が届く速さの問題があったからだ。

 そのことを思い出したからこそ、ベルはトトーの口元に注目した。すると確かにそこにも声を発した時と、聞こえる時の差がきちんと存在したのだ。だから距離を稼ぐことによって、その差は微々たるものでも広がっていく。ベルはそこに着目した。

 そして二つ目は策を練るための時間稼ぎだ。考える時間はあるだけあった方がいい。

「お嬢、これくらいでいいか?」

「うん。十分すぎるくらい」

 アルブスが止まったのは、トトーたちの姿が一ミリほどにしか見えない遥か上空だ。

「ちなみにアルってここから二人を攻撃することはできる?」

「一応視界に映ってるから攻撃することはできるが、それでも命中率が少しだけ下がるのと、威力が弱まるな。それでもいいか?」

「それは想定範囲内だから大丈夫。ただお願いがあるの。威力は弱まってもいいから、目には見えない攻撃にしてほしいんだ」

 攻撃が上から降ってくるとなれば、視界に映った瞬間にでも避けようとしてしまうだろう。それが遥か上空であれば、尚更避けやすい。だからなるべく避けられないように不可視にと頼んだ。

「お安い御用だ」

 アルブスは自由な方の腕を振り上げ、幾つもの風の刃を作り出す。

 そうしてそれを地上へと振りかざし、攻撃を繰り出した。

「それ、僕にも筒抜けだってこと忘れてないよね?」

 ベルとアルブスの会話に遅れてトトーが入ってくる。やはり会話の時差はあるようだ。

「もちろん。でも、見えなかったら避けられないよね? それも複数あれば尚更」

「本当に苦手な相手だよ、ベルたちは」

「お褒めいただき光栄です」

「ただ僕たちも負けないけどね」

 トトーはそう言い残すと、また歌魔法を歌いはじめた。

(これに対する私がとれる対策は、龍脈の魔力をなるべく取り入れること)

 何の歌魔法なのか分かればいいが、残念なことに聞き覚えがない。

「今から私は、なるべく龍脈から魔力をもらって歌魔法への抵抗をする。だからアルも撃てるだけ攻撃を放って」

「任せとけ」

 もう少し勝率のある作戦を練りたかったが、時間がない以上これが精いっぱいだ。せめて攻撃を何発も放てる時間を作れたのだから、良しとしか思う他ない。あとはどちらの攻撃が先に当たるか。こればかりはベルがどこまで歌魔法に抵抗できるか、そしてアルブスの攻撃がいつ当たってくれるかが鍵となる。

 だからこそベルは必死に龍脈から魔力を集めた。
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