召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

五十五話

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 寝ている時間というのは本当にあっという間で、目が覚めるとすでに朝になっていた。まだ外は薄暗くはあったが、普段のようにゆっくりとベッドの中で過ごすわけにはいかない。夜中にヴァイオレットたちからの連絡がなかったことにほっとしつつ、ベッドから降りた。

 大きなベッドにはすでにロセウスたちの姿はなかった。おそらく異界の湖に行く準備をしているのだろう。手櫛で髪の毛を整えながらリビングへと顔を出せば、予想通りすでに準備を済ませた三人がベルが起きるのを待っていた。

「起こしてくれてもよかったのに」

「昨日ベルには無理をさせたからね」

「そうそう、ギリギリまで寝かせてやらねぇと」

「準備が終わったら起こす予定だったんだ」

 ロセウス、アーテル、アルブスの順にベルへの気遣いの言葉を貰う。

「でも……」

 疲れていても、一人寝ているのは気が引ける。ベルとは体力が違っていても、その思いは変わらない。

「いいから、お嬢は俺らに甘やかされてろ」

 アーテルに頭をぽんぽんと撫でられる。

「お嬢、顔を洗ってきたら? 朝食はもうできてるから。あと簡単にだけど持って行く昼食も。向こうでゆっくり作っている暇はないだろうからな」

 この世界にきてから、どんどんダメな人間になっている気がする。

(それもこれも三人が私を甘やかすからだ)

「……はーい」

 しかしここで一人むくれて時間を消費するのは非常にもったいない。全てが終わったら、ベルを甘やかしすぎるなと説得しようと心に決め、一先ず身支度をするためにも自室がある二階に上がった。

 召喚術師の正装に着替え、洗面所でばっちりと身支度を整えたあと、用意されていた朝食を食べる。先に食べていてもよかったのだが、アーテルとアルブスはベルが来るのを待っていたようだ。ロセウスは街にいるラヴィックたちを迎えにいったようで、すでに姿はなかった。

 ベルたちが朝食を食べ終わって五分も経つことなく、アルブスからロセウスがもうすぐ家に到着することを教えてもらう。

(さすが召喚獣。何も聞こえなかったのにさすがだなあ)

 すでに準備が終わっていたので、アルブスの言葉を信じて外に出れば、ちょうど獣化したロセウスの姿が見え始めたところだった。ロセウスの背中にはラヴィックとトトーが、ロセウスの後ろには獣化したコーディリアが背中にエリオットを乗せて走ってきていた。

「少し待たせてしまったかい?」

「ううん、そんなことないよ。むしろちょうどいいぐらい。お疲れ様」

「それはよかった」

 ロセウスはベルの体に顔を摺り寄せる。ベルもそのふわふわな毛を堪能しつつ労った。

 ベルの背後では先程まで人化していたアーテルとアルブスが獣化した姿になっていた。

 すでにどちらの背中にベルが乗るかを決めていたらしく、アーテルの背中には昼食などが入っている大きな鞄がくくりつけられていた。

 ベルが乗りやすいように伏せをした状態で待ってくれているアルブスにお礼を言いながら跨る。

「んじゃ、行くぞ」

「うん」

 ベルがしっかりと乗ったことを確認したあと、誰もが真剣な表情をして異界の湖がある方向に視線をやった。

 ベルたちの住む家からさほど遠くない位置に異界の湖はある。だから異界の湖がある森の入り口までは空が完全に明けきる前に到着することができた。

「……なんか、変」

 森の入り口から中に入ろうとした時、違和感がベルを襲う。

 ベルに第五感なんてものが存在するのかどうかすら怪しい。けれど異界の湖がある森の空気が、ベルの知っているものではないような気がした。それは誰もが同じだったようで、険しい表情を浮かべている。

 しかし違和感に襲われたとしても、このまま入らないという選択肢はない。仲良くしてもらっているヴィータに危機が訪れるかもしれないのだ。違和感をとりあえず無視して、異界の湖を目指すことにした。

 体力はなるべく温存して置いた方がいい。そういった理由から必要最低限以外言葉を交わすことなく森を進んでいると、ふいにロセウスが声を上げた。

「ああ、そうか」

「どうしたの? セス」

 まるで何かに気づいたかのような声に、聞き返すと耳を疑うような答えがロセウスから帰ってきた。

「ずっと感じていた違和感の正体がわかった。――結界魔法や幻惑魔法が最大出力で森を守っているんだ」

 邪な心を持つ者は入れないように、ヴィータ自身の手によって結界魔法や幻惑魔法が森全体にかけられている。

 結界を張ることに長けたロセウスだからこそ気づいたのだろう。ロセウスの言葉を皮切りに緊張感が走った。
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