召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

五十六話

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 最大出力ということはつまり、ヴィータがクライシスたちを全力で異界の湖がある森から排除しようとしていることに繋がる。

(とりあえずヴィータの無事は確認できた……でも)

 結界魔法や幻惑魔法が発動されているイコール、ヴィータが大丈夫だということには繋がらない。無事なだけで、危機的状況に陥っている可能性もあるからだ。

 そう考えたのはベルだけではなかった。

 急ごう、という言葉を誰かがかけることなく、自然とヴィータの元に向かうスピードが上がった。

 しかしスピードをさらに上げたからといって、すぐに辿り着くわけではない。前回ベルたちが異界の湖に向かったときは、一日半かかっている。今回はその時よりもスピードを上げているが、到着するのはどうしても夜になってしまうだろう。

 それにベルたちに向けられていないにせよ、結界魔法や幻惑魔法が最大出力で発動しているせいで、多少なりともベルたちの足取りに影響が出てしまっていた。結界に関しては、ロセウスが自身の魔法で相殺しているからほぼ問題はないが、幻惑魔法はそうもいかない。龍脈から魔力を貰って無効化をはかっているが、異界の湖の番人であるヴィータの魔法を完全に無効化することはできない。魔法の種類は違うが、系統が似ているトトーの歌魔法でどうにか緩和しているような状態だ。

 ロセウスが気づいてから現在までの数時間、ずっと歌い続けている状態である。魔力が無尽蔵にあるとは言っても、体力は無限ではない。先に進みたい気持ちは山々だが、この先のことを考えれば休憩は必要だろう。

 ベルを乗せて走ってくれているアルブスに相談すれば、トトーの様子を一瞥したあと同意を示してくれた。

「その方がいいかもな。ただ、休憩する場所はロセウスやトトーに決めてもらった方がいい。俺たちよりもこの森にかかっている魔法のことを理解しているはずだからな」

「確かにそうかも」

 アルブスが言うことは最もだ。トトーとラヴィックを背に乗せて、前方を走るロセウスに並走をするような形で相談をすれば、ルートを変更して休憩できるペースで足を止めた。

 少し開けたペースに腰を下ろし、各々休息をとる。長時間とることはできないが、ぶっ通しで走るよりはまだましだ。アーテルが背負ってくれていた荷物の中から昼食を取り出して、腹を満たした。

 回復の魔法が得意なコーディリアにお願いをして、コーディリア自身も含めて全員に回復魔法をかけてもらう。攻撃を受けたわけではないが、少しでも体力を回復して先に進むための処置だ。トトーも回復魔法は得意だったが、ずっと魔法を行使してもらっていた上、休憩が終わり次第すぐに魔法を発動してもらわなければならないため、ここでは休んでもらっていた。

 そうして休憩を終了させ、再び各々が召喚獣に跨り先を目指す。

 異界の中心部に近づけば近づくほどに結界魔法と幻惑魔法が強くなっていく。

(結構近づいた証拠ではあるけど、これはちょっとキツいかも……)

 最初はロセウスが完全に無効化していた結界魔法も、今では無効化できずに足止めを食らってる箇所がある。その度にアルブスやアーテルの魔法で無理矢理破壊している状態だ。それにトトーも頑張って歌い続けてくれているが、ただでさえ魔法の種類が違うのだ。徐々に緩和できずに、危うく引っかかりそうになった事もあった。その度に悔し気な表情をしていたが、こればかりは仕方がないだろう。召喚術師たちが龍脈から魔力をもらって抵抗力を上げている状態で、これなのだから。

(キツいけど……でも、このメンバーがいてくれてよかった)

 改めて周囲のメンバーを一瞥する。

 ベルたちだけだったら、ヴィータの元へ到着することすら難しかった。皆がナツゥーレに残ってくれたことに感謝してもし足りない。

「もうすぐだ」

 結界の強さの感覚で分かったのだろう。

 ロセウスの声をアルブスが風で耳元まで運んでくれた。

 空を見上げれば、太陽ではなく月が輝いていた。朝から一日中は走り通しなのだ。月に変わっていても何もおかしくはない。むしろもう一度太陽を見ることなく、夜のうちに辿り着けたことが奇跡に近い。これも全員が力を合わせて頑張ってくれたおかげだろう。

「もうすぐ異界の湖につくなら、皆に光魔法をかけるわ」

 召喚獣たちのように、ベルたち召喚術師は夜目が効かない。そんなベルたちのために、コーディリアが直接瞳に光の魔法をかけてくれた。まるで昼間のように見えるので、これで戦闘になっても動きで後手に回ることは少なくなる。周囲に光を飛ばすよりよほど効率がよかった。

 森の木々の先に、異界の湖が見えてきた。

「なに、これ……」

 けれどそこにあった異界の湖は、ベルの知る異界の湖ではなかった。
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