余命七日の治癒魔法師

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二話

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 王国騎士団専属の治癒魔法師としての仕事は、治癒魔法さえ使えればそこまで難しくはない。フォルモーサの令嬢として様々な教養を身に着けなければならなかった頃も確かに忙しく充実はしていたが、その時とは別の意味で充実しているとも言えた。

 基本的に治癒魔法師は、小さないながらも与えられた診療室という名の個室で、怪我をしてきた騎士たちを手当てするのが主な仕事だ。騎士が交代制で任務についているように、治癒魔法師もそれに合わせて交代制で勤務しているのが現状である。とはいえそれほど大変な仕事でもない。王国の騎士といえば何千人もいるが、擦り傷や打撲などは重症でない限り魔法に頼らず、普通の治療をする医者が診てくれるからだ。

 だから十人という少数精鋭で交代しながら勤務についていた。これについては治癒魔法という魔法が使える者自体がとても希少な存在であるため、仕方ないことである。

 日中は鍛錬場への出張も仕事内容に含まれているので五人、夜勤は何か起こったときに対応できるように控えているだけなので二人が常駐している。勤務時間は十二時間と結構長いが、人が来ない時は休憩しているようなものなので、それほど疲れることもない。それに四日に一度は必ず休みがもらえるので、働き詰めという訳でもなかった。

 午前の診療が終わり、数十分の休憩を挟んで午後の診療へと移る。壁に貼ってある予定表を確認すると、午後から鍛錬場への出張する治癒魔法師の名前にはエマの名前が記載されていた。鍛錬場には包帯やカーゼなどは常に置かれているし、治癒魔法師ということだけあって、特別に持っていくものは何もない。エマは診療室のドアにかけていたプレートを外出中へ裏返すと、ウィリアムを引き連れて鍛錬場へと向かった。

 鍛錬場の入り口に到着すると、早速金属同士がぶつかり合う音や足音、魔法を打ち合う音等、鍛錬中の音が幾つも聞こえてくる。

 普段と同じように堂々とした足取りで中に入った。

 鍛錬場は王城の中とは違い、汗や土埃の匂いが充満している。外ではあるが、やはり大人数が鍛錬している場所とあって、匂いはどうしても残ってしまう。春という比較的体を動かしやすい気候ではあるが、動けば汗を掻いてしまうは人間として当たり前のことなのだから仕方がない。貴族の令嬢や子息はこの汗や土埃の匂いを毛嫌いする傾向があるようだが、エマは別段気になることはなかった。むしろこうして汗水垂らして鍛錬をし、いざというときに民を守るために前線へと立ってくれているのだ。そんな彼らの匂いを毛嫌いする理由が見当たらなかった。

 鍛錬場内に一か所だけ屋根のついた区画があり、そこには同僚である他の治癒魔法が座っていた。挨拶を交わし、治癒魔法師である彼女と交代をする。今日あったことや、注意してほしいことなど、引き継ぎをして、エマは置いてある椅子に座った。

 ウィリアムはといえば、当然とばかりに椅子に座ったエマの斜め後ろに控えるように立った。本音を言えば、ウィリアムにも楽な体勢をしていて欲しいのだが、こればかりはウィリアムが頑なに譲ってくれないのですでに諦めていた。

 怪我人がいなければ、エマの仕事は特にない。怪我人がいないことは喜ばしいことなので、騎士たちが鍛錬している姿をぼうっとしながら眺めていた。

「――――」

「―――、――――――」

 汗水垂らしながら、騎士たちが鍛錬する中、ふと若い女性の声が耳に入った。その女性と会話をしているのか、男性の声も聞こえてくる。内容まではさすがに聞こえてはこないが、楽しそうな雰囲気だけは伝わってきた。

(たまにいるのよね。興味本位で見に来る令嬢たちが)

 鍛錬場を囲うように、観覧席が設けられているため、騎士たちの姿を見にやってくる令嬢が一日に何人か訪れることがある。騎士たちの中には顔の造形が整っており、腕がたしかな者も何人かいるのでその人たち目当てに来ているのだ。鍛錬している姿が格好良く見えるのか、そういう令嬢たちは匂いも気にせず日参することが多い。

(でも男性とこの場所に来る令嬢は、そうそういないはず)

 もしかして自身の侍従と足を運んだのだろうか。

(いや、そうしたらこんなにも和気あいあいと話すはずがない)

 そう思い、興味本位で声のする方向へ視線を向けた。

 そうして二人の姿を視界にとらえた途端、後悔がエマを襲う。

「レオ……ミア……」

 そこには、見目麗しい男女がいた。女性の方は数週間振りに、男性の方は五年ぶりにその姿を見たが、エマがその姿を見間違えるはずがなかった。
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