余命七日の治癒魔法師

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第十七話

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 魔物討伐がいよいよ明日となった。

 両親やリカルド、ミアカーナにピアスを渡せたことに満足し、特にやることもなかったエマは屋敷の庭で本を読んでいた。ハリーはそう何日も休んでいい地位ではなく、それをサポートするリカルドも同じ。ロゼッタやミアカーナにはお茶会に誘われたが、公爵家令嬢を降りた身として参加するのは憚られた。よって誘いを柔らかく断ったあと、温かな日差しが差し込む庭でゆっくりと本を読むことにしたのである。

 庭には大きな木があり、葉が生い茂っているおかげで直接太陽が当たらなくなっており、本を読むにはちょうどよかった。

 ウィリアムに用意してもらったクッションを木の根元に敷き詰め、その上でゆったりと本を読む。手が届く位置には軽く摘まめる洋菓子や、冷たい紅茶があり、まさに至れり尽くせりだ。

 風が葉や髪を靡かせたり、花の香りを運んでくる。ゆっくりとした時間を過ごしたのは、本当に久しぶりだ。ウィリアムは呼べばすぐ駆け付けられる場所で仕事をしているようで、この空間にいるのはエマ一人だけだった。

 物語の中に意識を傾けていると、ふいに誰かがエマを呼ぶ声が聞こえた気がした。しかし両親やリカルド、ミアカーナは出かけているから、今この屋敷にいる公爵家の人間はエマのみ。だからエマのことを名前で呼ぶのはこの屋敷にはいない。だから気のせいだろうと判断して、再び意識を現実から物語の中へ向けた。

「……マ、エマ。……エマ!」

 けれどその途中、やはり何度も名前を呼ぶ声が聞こえる。誰だろう、と内心首を傾げながら、顔を上げるとそこには思ってもみなかった人物がいた。

 トクンと鼓動が大きく打つ。

 最初に視界に入ったのは、木洩れ日と同じ優しい色合いの金の髪だった。エマが日陰として使っている木の葉と同じ、翡翠の瞳と視線が交わる。しかし自身の瞳の色のことを思い出してさっと視線を逸らした。

「なぜ、ここに……」

 驚きすぎて、言葉遣いを間違えてしまった。普段のエマにはない失態だった。通常ならば、レオナルドの来訪を喜ぶ旨や、すぐに立ち上がって頭を下げなければならない。エマは驚きのあまり、目を丸くしたままその場で固まってしまった。

「ミアに聞いたんだ。エマがフォルモーサ公爵家に今日まで滞在していることを」

「ミアが……? お母様とお茶会に行くと言っていたのにどうして」

「王妃とのお茶会だったんだ。僕はその道中にミアに会って、エマのことを聞いたんだよ」

 エマの問いに律儀に返してくる辺り、レオナルドは五年前と何も変わらない。

 レオナルドの言葉を聞いてはっと我に返った。

 手から膝へと落ちた本を横へ置き、淑女らしく綺麗な動作で立ち上がる。

「……っ、挨拶もせず申し訳ございません」

「ねぇ、エマ。前にも言ったけれど、エマがそのようなことをする必要はないんだよ」

 エマだけに向けられた甘くて優しい声音。その声に恋心を持ったままでいると決めた心が、敏感に反応しそうになる。

(だめよ、私は好きでいることは決めたけれど、レオナルド殿下にはミアがいるんだもの)

 心を叱咤して、言葉を紡ぐ。

「ですが、私は公爵家の令嬢ではなく治癒魔法師ですので」

「でも僕が好きなのは」

(その先は聞きたくない!!)

 聞いてしまえば、恋心はさらに膨らんでしまう。この気持ちを、レオナルドに伝えずにはいられなくなる。数年振りに再会をして、恋心は萎むどころか膨らんでしまったのに、さらに膨らんでしまうのだけは避けたかった。

 けれどその言葉の続きを、鍛錬場の時のように遮ることはできなかった。

 エマ自身が、聞くことを望んでいたからだ。

 聞きたい。けれど聞きたくない。

 相反する気持ちが心の中で反発しあう。

「レオナルド殿下、お嬢様に何か御用でしょうか?」

 レオナルドが再び口を開けると同時に、レオナルドとエマの間に一つの影が入った。侍従服に身を包み、きっちりと揃えられた赤褐色の髪の人物が視界に入る。

 エマの視界にはその人物の後ろ姿しか映っていないため想像でしかないが、濃い紫色の一対の瞳が冷酷な色を宿しながらレオナルドに向けられているのが声色だけでわかる。

「ウィリー……」

 その色彩を持つ者の名前が口からぽろりと零れ出た。

 ウィリアムが間に入ったことでほっと安堵する気持ちと、先を聞きたかったという気持ちが複雑に絡み合う。割合的には半々。けれど入ってくれて今回は助かったと思うべきなのだろう。

 ウィリアムはエマの気持ちを、エマの次に把握している。だからこそ、ウィリアムがエマを守ろうとしているのも瞬時に理解した。

 いきなりのウィリアムの登場にレオナルドは怯むどころか、喧嘩を買うような姿勢を見せた。

「用があるから話しかけているんだ。侍従が僕とエマの会話を邪魔するのはどうかと思うよ」

(レオってこんな挑発するような言葉を使う方だったかしら?)

 まるで知らない男性を見ているようだった。
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