余命七日の治癒魔法師

鈴野あや(鈴野葉桜)

文字の大きさ
22 / 41

第二十一話

しおりを挟む
 そうこう考えているうちに鍛錬場にたどり着いた。そこへ顔を覗かせれば、すでに大勢の騎士が集まっていた。見る限り、準備運動を済ませていたようで、エマの到着は最後から二番目だったようだ。

「今日もいい筋肉勢ぞろいって感じね!」

「アネット!!」

 聞き覚えのある声とその内容に思わず振り向くと、そこにはエマと同じ治癒魔法師の制服を身に纏ったアネットがいた。こげ茶の髪は、いつものように右肩辺りで緩く結ばれている。

「あらエマ、おはよう」

「あ、おはよう……って、そうではなくて。まさかもう一人の治癒魔法師って……」

「私よ? でもね正直な話、どうしようかなって迷いはしたの。けれどエマが治癒魔法師として行くって聞いて決心したの。一緒に行く相棒がエマなら、私も安心だし、それにもし私が行かなくてエマが大変な思いをするのは嫌だから」

 アネットの言葉に自然と目の奥が熱くなる。同行する者が、あまり話したことのない治癒魔法師だったりしたらどうしようかと、少し不安はあった。けれどアネットならば別だ。年齢も近く、話しやすい。治癒魔法師の中では一番仲の良い存在である。アネットが自身の意志でこうして赴いてくれたことに、嬉しさを感じてしまう。

「アネット……。私もアネットが同行してくれるなんて心強いわ。今回はよろしく頼むわね」

「こちらこそ」

 ここにいる騎士たちをなるべく死なせず帰還することが、治癒魔法師としての仕事となる。そのためには互いに意思疎通を図り、協力し合うことが必須条件だ。アネットが相棒というだけで心強さがあった。

 握手を交わし、騎士たちが整列している横にひっそりと並ぶ。それからほどなくして、今回この魔物討伐隊を率いるウィルフレッドが騎士達の前に姿を現した。

 今回の討伐のことについて、周囲の騎士たちが話していた声が耳に入っていたのに、ウィルフレッドが視界に入った途端、しんと静まり帰る。さすが統制のとれた騎士だと感心しつつ、言葉を待った。

「これから向かうのは王都から遠く離れた森だ。先発隊である魔法師団数名がすでに現地に到着したと連絡を受けている。これから魔法陣を使って現地へ移動する。以上!」

 その言葉を皮切りに、騎士たちの「はっ!!」という声と姿勢を正す音が鍛錬場に響く。普段中々聞けるものではないそれに、エマは圧倒されてしまった。エマの隣にいたアネットも同じらしく、迫力あるわねぇと小さく呟く声が聞こえてくる。同意するようにエマは頷きながら、魔法師団に所属している人たちの方へ視線を向けた。

 王城には武力を誇る騎士団とサポートを徹底する魔力師団の二つの団がある。騎士団は魔法がそこそこ使えるものの、獲物を使った戦いが得意な者達の集まり。そして魔法師団は戦いにこそ向いていないものの、膨大な魔力を有しており、サポート関係の魔法が得意な者達の集まりだ。魔法師団は騎士団と比べて圧倒的に数こそ少ないが、一人一人が即戦力というほど、国宝級の力を持つ者ばかりだ。そして魔力過多症にもかからない、稀有な体を持った人たちともいわれている。エマも魔力過多症に耐えれる体があり、適正があればこちらに所属していただろう。

 今回そんな彼らがサポートしてくれるのは、現地までの移動だ。先行して現地入りをした魔法師団員がこちらに残っている魔法師団員と共同で魔法を発動させて、移動する手間を省いてくれるのだ。所謂瞬間移動というやつである。物語の中や人づてで聞いたことはあるものの、実際に目で見たり、自身が体験するのは初めてだ。

 不謹慎ではあるが、実際に体験できることにわくわくした気持ちを覚えてしまった。

 そんなエマの気持ちは置いておき、魔法師団員により、地面に魔法陣が描かれていく。これは魔法を安定させたり、魔力を増幅させたりするものだと本で読んだことがある。完成するにつれて、魔法陣は光を帯びていく。

「すごいわね」

 初めて見る魔法陣は、幻想的な雰囲気を醸し出していた。魔法陣を描く勉強をしたことがないので、そこに何が描かれているのかはエマでは知ることができない。それでも描かれた文様や文字が美しく混ざり合っていることだけは分かった。

「本当に。あ、魔法陣が完成したみたいよ」

 魔法陣が完成すると同時に、眩しい光が天へ上った。描き途中の魔法陣とは比べものにならない光量に思わず瞼を閉じてしまう。しかし普通の光とはやはり違うものらしく、それほど目へのダメージは受けなかった。慣れてくると直視が出来る不思議な光だ。

 ウィルフレッドは魔法陣が完成するのを見届けると、再び声を張り上げた。

「進め!!」

 たった二文字しかない短い言葉。しかしその中には熱い闘志が籠っていた。迷いのない統制のとれた足取りで、数人の小隊に別れた騎士たちが魔法陣の中へ向かい、そして消えていく。すでに魔法陣を潜り抜けた騎士たちは戦闘を開始しているのだろう。

 最初からいきなり怪我人が出ることは少ないこともあって、エマたちは騎士たち全員が潜り抜けた後に魔法陣を潜ることとなっている。

 王城に着いた時こそ、落ち着いていた心臓が、鍛錬場にいる騎士が少なくなってくるにつれて鼓動を早くさせる。

(後悔はない。けれどさすがに緊張はするもね)

 約半数の騎士が出向く上に、ウィルフレッドやウィリアム、アネットという親密な関係の心強い仲間がいる。それでも緊張はどうしてもしてしまうようだ。気休めに耳につけた二つのピアスを触る。

(お願い。私に勇気をちょうだい)

 緊張が無くならなくてもいい。ただ魔物討伐時に臆せず治癒する勇気が欲しかった。

 そんなエマの肩を叩く者達がいた。

「大丈夫よ、エマ。私がいるわ。一緒に頑張りましょう?」

「そうですよお嬢様。お嬢様のことは私がお守りします。ですからお嬢様はいつも通り、騎士の皆様を癒して下さい」

 エマの緊張などすでにお見通しだったようだ。

 心強い言葉に苦笑しながらも頷き返す。

「ありがとう、アネット、ウィリー。……私たちの番が来たようね。私に出来ることを精一杯やってみるわ」

 そうこうしているうちに、鍛錬場いる者はウィルフレッドとアネット、そしてアネットを護衛する騎士、エマの四人だけになっていた。

「行きましょう」

 エマは大きく深呼吸をして、魔法陣へと足を踏み出した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...