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第二十一話
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そうこう考えているうちに鍛錬場にたどり着いた。そこへ顔を覗かせれば、すでに大勢の騎士が集まっていた。見る限り、準備運動を済ませていたようで、エマの到着は最後から二番目だったようだ。
「今日もいい筋肉勢ぞろいって感じね!」
「アネット!!」
聞き覚えのある声とその内容に思わず振り向くと、そこにはエマと同じ治癒魔法師の制服を身に纏ったアネットがいた。こげ茶の髪は、いつものように右肩辺りで緩く結ばれている。
「あらエマ、おはよう」
「あ、おはよう……って、そうではなくて。まさかもう一人の治癒魔法師って……」
「私よ? でもね正直な話、どうしようかなって迷いはしたの。けれどエマが治癒魔法師として行くって聞いて決心したの。一緒に行く相棒がエマなら、私も安心だし、それにもし私が行かなくてエマが大変な思いをするのは嫌だから」
アネットの言葉に自然と目の奥が熱くなる。同行する者が、あまり話したことのない治癒魔法師だったりしたらどうしようかと、少し不安はあった。けれどアネットならば別だ。年齢も近く、話しやすい。治癒魔法師の中では一番仲の良い存在である。アネットが自身の意志でこうして赴いてくれたことに、嬉しさを感じてしまう。
「アネット……。私もアネットが同行してくれるなんて心強いわ。今回はよろしく頼むわね」
「こちらこそ」
ここにいる騎士たちをなるべく死なせず帰還することが、治癒魔法師としての仕事となる。そのためには互いに意思疎通を図り、協力し合うことが必須条件だ。アネットが相棒というだけで心強さがあった。
握手を交わし、騎士たちが整列している横にひっそりと並ぶ。それからほどなくして、今回この魔物討伐隊を率いるウィルフレッドが騎士達の前に姿を現した。
今回の討伐のことについて、周囲の騎士たちが話していた声が耳に入っていたのに、ウィルフレッドが視界に入った途端、しんと静まり帰る。さすが統制のとれた騎士だと感心しつつ、言葉を待った。
「これから向かうのは王都から遠く離れた森だ。先発隊である魔法師団数名がすでに現地に到着したと連絡を受けている。これから魔法陣を使って現地へ移動する。以上!」
その言葉を皮切りに、騎士たちの「はっ!!」という声と姿勢を正す音が鍛錬場に響く。普段中々聞けるものではないそれに、エマは圧倒されてしまった。エマの隣にいたアネットも同じらしく、迫力あるわねぇと小さく呟く声が聞こえてくる。同意するようにエマは頷きながら、魔法師団に所属している人たちの方へ視線を向けた。
王城には武力を誇る騎士団とサポートを徹底する魔力師団の二つの団がある。騎士団は魔法がそこそこ使えるものの、獲物を使った戦いが得意な者達の集まり。そして魔法師団は戦いにこそ向いていないものの、膨大な魔力を有しており、サポート関係の魔法が得意な者達の集まりだ。魔法師団は騎士団と比べて圧倒的に数こそ少ないが、一人一人が即戦力というほど、国宝級の力を持つ者ばかりだ。そして魔力過多症にもかからない、稀有な体を持った人たちともいわれている。エマも魔力過多症に耐えれる体があり、適正があればこちらに所属していただろう。
今回そんな彼らがサポートしてくれるのは、現地までの移動だ。先行して現地入りをした魔法師団員がこちらに残っている魔法師団員と共同で魔法を発動させて、移動する手間を省いてくれるのだ。所謂瞬間移動というやつである。物語の中や人づてで聞いたことはあるものの、実際に目で見たり、自身が体験するのは初めてだ。
不謹慎ではあるが、実際に体験できることにわくわくした気持ちを覚えてしまった。
そんなエマの気持ちは置いておき、魔法師団員により、地面に魔法陣が描かれていく。これは魔法を安定させたり、魔力を増幅させたりするものだと本で読んだことがある。完成するにつれて、魔法陣は光を帯びていく。
「すごいわね」
初めて見る魔法陣は、幻想的な雰囲気を醸し出していた。魔法陣を描く勉強をしたことがないので、そこに何が描かれているのかはエマでは知ることができない。それでも描かれた文様や文字が美しく混ざり合っていることだけは分かった。
「本当に。あ、魔法陣が完成したみたいよ」
魔法陣が完成すると同時に、眩しい光が天へ上った。描き途中の魔法陣とは比べものにならない光量に思わず瞼を閉じてしまう。しかし普通の光とはやはり違うものらしく、それほど目へのダメージは受けなかった。慣れてくると直視が出来る不思議な光だ。
ウィルフレッドは魔法陣が完成するのを見届けると、再び声を張り上げた。
「進め!!」
たった二文字しかない短い言葉。しかしその中には熱い闘志が籠っていた。迷いのない統制のとれた足取りで、数人の小隊に別れた騎士たちが魔法陣の中へ向かい、そして消えていく。すでに魔法陣を潜り抜けた騎士たちは戦闘を開始しているのだろう。
最初からいきなり怪我人が出ることは少ないこともあって、エマたちは騎士たち全員が潜り抜けた後に魔法陣を潜ることとなっている。
王城に着いた時こそ、落ち着いていた心臓が、鍛錬場にいる騎士が少なくなってくるにつれて鼓動を早くさせる。
(後悔はない。けれどさすがに緊張はするもね)
約半数の騎士が出向く上に、ウィルフレッドやウィリアム、アネットという親密な関係の心強い仲間がいる。それでも緊張はどうしてもしてしまうようだ。気休めに耳につけた二つのピアスを触る。
(お願い。私に勇気をちょうだい)
緊張が無くならなくてもいい。ただ魔物討伐時に臆せず治癒する勇気が欲しかった。
そんなエマの肩を叩く者達がいた。
「大丈夫よ、エマ。私がいるわ。一緒に頑張りましょう?」
「そうですよお嬢様。お嬢様のことは私がお守りします。ですからお嬢様はいつも通り、騎士の皆様を癒して下さい」
エマの緊張などすでにお見通しだったようだ。
心強い言葉に苦笑しながらも頷き返す。
「ありがとう、アネット、ウィリー。……私たちの番が来たようね。私に出来ることを精一杯やってみるわ」
そうこうしているうちに、鍛錬場いる者はウィルフレッドとアネット、そしてアネットを護衛する騎士、エマの四人だけになっていた。
「行きましょう」
エマは大きく深呼吸をして、魔法陣へと足を踏み出した。
「今日もいい筋肉勢ぞろいって感じね!」
「アネット!!」
聞き覚えのある声とその内容に思わず振り向くと、そこにはエマと同じ治癒魔法師の制服を身に纏ったアネットがいた。こげ茶の髪は、いつものように右肩辺りで緩く結ばれている。
「あらエマ、おはよう」
「あ、おはよう……って、そうではなくて。まさかもう一人の治癒魔法師って……」
「私よ? でもね正直な話、どうしようかなって迷いはしたの。けれどエマが治癒魔法師として行くって聞いて決心したの。一緒に行く相棒がエマなら、私も安心だし、それにもし私が行かなくてエマが大変な思いをするのは嫌だから」
アネットの言葉に自然と目の奥が熱くなる。同行する者が、あまり話したことのない治癒魔法師だったりしたらどうしようかと、少し不安はあった。けれどアネットならば別だ。年齢も近く、話しやすい。治癒魔法師の中では一番仲の良い存在である。アネットが自身の意志でこうして赴いてくれたことに、嬉しさを感じてしまう。
「アネット……。私もアネットが同行してくれるなんて心強いわ。今回はよろしく頼むわね」
「こちらこそ」
ここにいる騎士たちをなるべく死なせず帰還することが、治癒魔法師としての仕事となる。そのためには互いに意思疎通を図り、協力し合うことが必須条件だ。アネットが相棒というだけで心強さがあった。
握手を交わし、騎士たちが整列している横にひっそりと並ぶ。それからほどなくして、今回この魔物討伐隊を率いるウィルフレッドが騎士達の前に姿を現した。
今回の討伐のことについて、周囲の騎士たちが話していた声が耳に入っていたのに、ウィルフレッドが視界に入った途端、しんと静まり帰る。さすが統制のとれた騎士だと感心しつつ、言葉を待った。
「これから向かうのは王都から遠く離れた森だ。先発隊である魔法師団数名がすでに現地に到着したと連絡を受けている。これから魔法陣を使って現地へ移動する。以上!」
その言葉を皮切りに、騎士たちの「はっ!!」という声と姿勢を正す音が鍛錬場に響く。普段中々聞けるものではないそれに、エマは圧倒されてしまった。エマの隣にいたアネットも同じらしく、迫力あるわねぇと小さく呟く声が聞こえてくる。同意するようにエマは頷きながら、魔法師団に所属している人たちの方へ視線を向けた。
王城には武力を誇る騎士団とサポートを徹底する魔力師団の二つの団がある。騎士団は魔法がそこそこ使えるものの、獲物を使った戦いが得意な者達の集まり。そして魔法師団は戦いにこそ向いていないものの、膨大な魔力を有しており、サポート関係の魔法が得意な者達の集まりだ。魔法師団は騎士団と比べて圧倒的に数こそ少ないが、一人一人が即戦力というほど、国宝級の力を持つ者ばかりだ。そして魔力過多症にもかからない、稀有な体を持った人たちともいわれている。エマも魔力過多症に耐えれる体があり、適正があればこちらに所属していただろう。
今回そんな彼らがサポートしてくれるのは、現地までの移動だ。先行して現地入りをした魔法師団員がこちらに残っている魔法師団員と共同で魔法を発動させて、移動する手間を省いてくれるのだ。所謂瞬間移動というやつである。物語の中や人づてで聞いたことはあるものの、実際に目で見たり、自身が体験するのは初めてだ。
不謹慎ではあるが、実際に体験できることにわくわくした気持ちを覚えてしまった。
そんなエマの気持ちは置いておき、魔法師団員により、地面に魔法陣が描かれていく。これは魔法を安定させたり、魔力を増幅させたりするものだと本で読んだことがある。完成するにつれて、魔法陣は光を帯びていく。
「すごいわね」
初めて見る魔法陣は、幻想的な雰囲気を醸し出していた。魔法陣を描く勉強をしたことがないので、そこに何が描かれているのかはエマでは知ることができない。それでも描かれた文様や文字が美しく混ざり合っていることだけは分かった。
「本当に。あ、魔法陣が完成したみたいよ」
魔法陣が完成すると同時に、眩しい光が天へ上った。描き途中の魔法陣とは比べものにならない光量に思わず瞼を閉じてしまう。しかし普通の光とはやはり違うものらしく、それほど目へのダメージは受けなかった。慣れてくると直視が出来る不思議な光だ。
ウィルフレッドは魔法陣が完成するのを見届けると、再び声を張り上げた。
「進め!!」
たった二文字しかない短い言葉。しかしその中には熱い闘志が籠っていた。迷いのない統制のとれた足取りで、数人の小隊に別れた騎士たちが魔法陣の中へ向かい、そして消えていく。すでに魔法陣を潜り抜けた騎士たちは戦闘を開始しているのだろう。
最初からいきなり怪我人が出ることは少ないこともあって、エマたちは騎士たち全員が潜り抜けた後に魔法陣を潜ることとなっている。
王城に着いた時こそ、落ち着いていた心臓が、鍛錬場にいる騎士が少なくなってくるにつれて鼓動を早くさせる。
(後悔はない。けれどさすがに緊張はするもね)
約半数の騎士が出向く上に、ウィルフレッドやウィリアム、アネットという親密な関係の心強い仲間がいる。それでも緊張はどうしてもしてしまうようだ。気休めに耳につけた二つのピアスを触る。
(お願い。私に勇気をちょうだい)
緊張が無くならなくてもいい。ただ魔物討伐時に臆せず治癒する勇気が欲しかった。
そんなエマの肩を叩く者達がいた。
「大丈夫よ、エマ。私がいるわ。一緒に頑張りましょう?」
「そうですよお嬢様。お嬢様のことは私がお守りします。ですからお嬢様はいつも通り、騎士の皆様を癒して下さい」
エマの緊張などすでにお見通しだったようだ。
心強い言葉に苦笑しながらも頷き返す。
「ありがとう、アネット、ウィリー。……私たちの番が来たようね。私に出来ることを精一杯やってみるわ」
そうこうしているうちに、鍛錬場いる者はウィルフレッドとアネット、そしてアネットを護衛する騎士、エマの四人だけになっていた。
「行きましょう」
エマは大きく深呼吸をして、魔法陣へと足を踏み出した。
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