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第二十二話
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魔法陣を潜り抜けた先は、すでに戦闘が始まっていた。
王城にいた時は晴れていたというのに、鬱蒼と茂る森の天気はどんよりとしていた。もうすぐにも雨が降ってきそうな空に眉を潜める。ただでさえ森の中は障害物が多いというのに、雨も降ってきたら余計に戦いにくそうだからだ。
「……ん?」
ただそんなことを思いながら空を見上げていると、体に些細な違和感を感じた。
(なに、この違和感)
体内にある魔力が変な動きを見せた。しかしそれは些細な動きの違いで、常に治癒魔法を自身へかけ続けているからこそ気づいた違和感である。
「どうかしましたか?」
眉を寄せたエマに、目ざとくウィリアムが気づく。
(けれど些細な違和感だし、これくらい問題ないわよね。余計な心配をかけさせたくないし……)
魔力の些細な違和感よりも、仕事の方が優先だ。放っておけば、元に戻るかもしれない。そうエマは判断し、首を横に振った。
「いいえ、なんでもないわ。もう戦闘は始まっているのだから、私達も行きましょう。アネット、私は魔物を避けながら時計回りに行くわね」
「オッケーよ。私はその逆から行くわ。また後で落ち合いましょう?」
「くれぐれも大きな怪我だけはしないでちょうだい」
「エマもね」
「それじゃあ、また後で」
短い会話をした後、魔法陣を軸にして左右に別れることになった。別れてしまえば治す人数も増え、危険も多くなるが、その分多くの人の傷を癒すことが出来る。エマ達は傷を癒す治癒魔法師だ。多少の危険はあれど、なるべく多くの人を癒すことが仕事なのである。
森の中は歩きにくく、不慣れなエマはすぐに足を取られそうになってしまう。けれどさすがウィリアムというべきか、エマが足を取られる前にすぐ対処をしてくれた。普段ならば感謝を声にするところだが、声を出すだけでも体力を使う。エマは心の中で感謝をしつつ、前へと進んだ。
魔物は探さなくてもすぐに発見することができた。木々の合間から胴体の一角が視認できたからだ。
魔物の元は野生の動物。まだ原因は特定されていないが、体が数十倍の大きさに膨れ上がり、頭に角が生えているのが特徴だ。小鳥や兎が魔物になったところで危険度は低いが、熊やライオン等肉食獣の場合は一気に危険度が上がってしまう。
今回のA級魔物の元の動物は、チーターだったようだ。基本肉食獣の場合でもB級に留まることが多いのだが、森の木々を超える大きさであることと、角が額から三本生えていること、そしてチーターという動物は足が素早いことが特徴なので、A級に認定されたようだ。
初めて見る魔物に圧倒されつつも、魔物に攻撃をする騎士たちの怪我を冷静に治していく。魔物の相手はエマがすることではない。騎士たちの仕事だ。エマの仕事は、勇猛に立ち向かう騎士たちの傷を癒していくこと。
傷を癒すために魔物へ近づく必要はあるが、必要以上に近づく必要はない。治癒魔法の範囲に怪我を負った騎士が入ればいいのだから。
「メア・ドーナ・アボートゥム・ザイル・サーナ・ヴルネラ!」
一人治すときは呪文で『エイウス』を使うが、大勢の場合は『ザイル』を使用する。基本的に治癒魔法の呪文は一緒なため、覚えるのはとても簡単だったりする。ただ魔力の操作がとても難しいというだけで。だからエイウスからザイルに変わっただけで、魔法の使用難度が急激に上がる。治す人が増えれば増えるほど、繊細な魔力操作が必須となるからだ。これに関しては、自身の体に毎日治癒魔法をかけているので、エマにとっては息を吸うように簡単なことでもあった。
魔物に負わされた傷を癒し、怪我人のいる場所へと足を運んでいく。治癒魔法に関しては、何も問題はなかった。むしろ普段よりも力を発揮できていると自負している。
(けれど、おかしい。……どうして)
己の中にある魔力の量は、魔力過多症を克服した時から把握している。発症した時こそ膨大な量になったが、そこからは一度も魔力が増えたことはない。
「なのに、どうして。……魔力が増え続けているの?」
最初に感じたのはこの地に降り立った時。それでもほんの小さな違和感だった。だというのに、魔物に近づくにつれて、違和感は確信に変わっていく。
――魔力の量が増え続けていることに。
王城にいた時は晴れていたというのに、鬱蒼と茂る森の天気はどんよりとしていた。もうすぐにも雨が降ってきそうな空に眉を潜める。ただでさえ森の中は障害物が多いというのに、雨も降ってきたら余計に戦いにくそうだからだ。
「……ん?」
ただそんなことを思いながら空を見上げていると、体に些細な違和感を感じた。
(なに、この違和感)
体内にある魔力が変な動きを見せた。しかしそれは些細な動きの違いで、常に治癒魔法を自身へかけ続けているからこそ気づいた違和感である。
「どうかしましたか?」
眉を寄せたエマに、目ざとくウィリアムが気づく。
(けれど些細な違和感だし、これくらい問題ないわよね。余計な心配をかけさせたくないし……)
魔力の些細な違和感よりも、仕事の方が優先だ。放っておけば、元に戻るかもしれない。そうエマは判断し、首を横に振った。
「いいえ、なんでもないわ。もう戦闘は始まっているのだから、私達も行きましょう。アネット、私は魔物を避けながら時計回りに行くわね」
「オッケーよ。私はその逆から行くわ。また後で落ち合いましょう?」
「くれぐれも大きな怪我だけはしないでちょうだい」
「エマもね」
「それじゃあ、また後で」
短い会話をした後、魔法陣を軸にして左右に別れることになった。別れてしまえば治す人数も増え、危険も多くなるが、その分多くの人の傷を癒すことが出来る。エマ達は傷を癒す治癒魔法師だ。多少の危険はあれど、なるべく多くの人を癒すことが仕事なのである。
森の中は歩きにくく、不慣れなエマはすぐに足を取られそうになってしまう。けれどさすがウィリアムというべきか、エマが足を取られる前にすぐ対処をしてくれた。普段ならば感謝を声にするところだが、声を出すだけでも体力を使う。エマは心の中で感謝をしつつ、前へと進んだ。
魔物は探さなくてもすぐに発見することができた。木々の合間から胴体の一角が視認できたからだ。
魔物の元は野生の動物。まだ原因は特定されていないが、体が数十倍の大きさに膨れ上がり、頭に角が生えているのが特徴だ。小鳥や兎が魔物になったところで危険度は低いが、熊やライオン等肉食獣の場合は一気に危険度が上がってしまう。
今回のA級魔物の元の動物は、チーターだったようだ。基本肉食獣の場合でもB級に留まることが多いのだが、森の木々を超える大きさであることと、角が額から三本生えていること、そしてチーターという動物は足が素早いことが特徴なので、A級に認定されたようだ。
初めて見る魔物に圧倒されつつも、魔物に攻撃をする騎士たちの怪我を冷静に治していく。魔物の相手はエマがすることではない。騎士たちの仕事だ。エマの仕事は、勇猛に立ち向かう騎士たちの傷を癒していくこと。
傷を癒すために魔物へ近づく必要はあるが、必要以上に近づく必要はない。治癒魔法の範囲に怪我を負った騎士が入ればいいのだから。
「メア・ドーナ・アボートゥム・ザイル・サーナ・ヴルネラ!」
一人治すときは呪文で『エイウス』を使うが、大勢の場合は『ザイル』を使用する。基本的に治癒魔法の呪文は一緒なため、覚えるのはとても簡単だったりする。ただ魔力の操作がとても難しいというだけで。だからエイウスからザイルに変わっただけで、魔法の使用難度が急激に上がる。治す人が増えれば増えるほど、繊細な魔力操作が必須となるからだ。これに関しては、自身の体に毎日治癒魔法をかけているので、エマにとっては息を吸うように簡単なことでもあった。
魔物に負わされた傷を癒し、怪我人のいる場所へと足を運んでいく。治癒魔法に関しては、何も問題はなかった。むしろ普段よりも力を発揮できていると自負している。
(けれど、おかしい。……どうして)
己の中にある魔力の量は、魔力過多症を克服した時から把握している。発症した時こそ膨大な量になったが、そこからは一度も魔力が増えたことはない。
「なのに、どうして。……魔力が増え続けているの?」
最初に感じたのはこの地に降り立った時。それでもほんの小さな違和感だった。だというのに、魔物に近づくにつれて、違和感は確信に変わっていく。
――魔力の量が増え続けていることに。
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