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第二十三話
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魔法を使えば必然的に、魔力は減っていく。しかしエマの体内にある魔力は減っていくどころか、増えていく一方だった。今は治癒魔法を連発させているおかげで、体への影響はない。しかしこの調子で増えていけば、魔力はエマの体に牙を剥くことになるだろう。
焦燥が心の中で生まれる。
何が原因なのか、エマ自身わからなくて混乱していた。
(治癒魔法の使い過ぎ? いいえ、だとしたら毎日少しずつ魔力が増えていっているはずだわ。魔物に対する恐怖? ううん、違うわ。命を落とす恐怖は魔力過多症になったときにすでに味わっているもの。だとしたら、何が……)
魔物の咆哮が森中に響き渡る。鼓膜が破れるかと思うほどの声量に、耳を塞いでしまうほどだ。その時、ふと脳裏をよぎるものがあった。
(魔物自身……?)
可能性は十分にあった。魔力過多症は人間だけがなるものだと勝手に思い込んでいた。けれどもし、そうではなかったとしたら。動物が魔力過多症という病気を発症して魔物になったのだとしたら。エマとは違う克服の仕方をした結果、理性を無くし暴れまわっているのだとしたら。そして魔力過多症同士が近くにいると、共鳴のような何かが発生して、魔力を膨れ上げさせているのだとしたら。
単なるエマの想像、仮説にしか過ぎない。それでも、なぜかしっくりとくるものがあった。魔物の強さはまちまちだ。しかし同じ場所に魔力過多症を発生させた個体がいたら、共鳴して魔力を増幅させてしまう。そして理性を無くした動物たちは、どちらかが死ぬまで殺し合う。生き残るのは一匹だけだから、その残った一匹を討伐して生態を調べても、大した結果を得ることはできない。
これまで魔物の生態は詳しく解明されなかったのは、魔力過多症を発症した動物が魔物なのだと紐づけできる人間がいなかったからだ。エマが気づけたのは一重に、エマ自身が魔力過多症の患者であるからだ。
エマ以外に魔力過多症を克服した者はゼロ人。誰も気づかなかったは無理もない。
咆哮を上げた魔物の姿を一瞥する。そこには最初に見たときよりも姿を大きくした魔物の姿があった。もしかたら魔力過多症であるエマと共鳴をしてしまったのかもしれない。
騎士からつけられた傷は多く、少なくない血を流しているが、有り余る魔力のおかげでまだ余力がありそうな雰囲気だ。
エマと共鳴しているせいで魔物が強くなっているのなら、エマがこの場を離れることが一番の策となる。しかしエマが離れてしまえば、治癒魔法師はアネットだけになってしまう。さすがにこの人数の騎士を、アネット一人で癒すには無理がある。
考えを逡巡させるが、最終的にエマが下した決断はこの場に残ることだった。
残るか残らないかを天秤にかけたところ、やはり残る方に重心が傾く。魔力がどこまで高まってしまうのかは、エマにも想像ができない。それでも魔力が尽きないということは、それだけ多くの騎士を癒せることに繋がる。多くの騎士を癒せば、死亡率はぐっと低くなるし、アネットに負担をかけないためにも、こちらの方が最善であると判断した。
それに魔物も魔力が高くなり、体を大きくさせてはいるものの、体力までが戻っているわけではないのだ。しっかりとその体にはダメージが蓄積されつつある。このまま順調にいけば、魔物を倒すことができるだろう。
魔物と一定の距離をとりつつ、治癒魔法を定期的に発動させる。
「メア・ドーナ・アボートゥム・ザイル・サーナ・ヴルネラ!」
エマが現場にたどり着くのが遅くて、残念なことにすでに命を失ってしまった者もいる。そんな彼らに心の中で謝りつつも、生きている者たちへ治癒魔法をかけ続けた。
魔物の周辺を時計回りに回りつつ、治癒魔法を施していき、ちょうど半周くらいの地点でアネットと落ち合った。
「アネット! 無事でよかったわ」
「エマこそ」
周囲の確認をしながら、互いの無事を喜ぶ。ウィリアムとアネットを護衛していた騎士に安全な場所を選んでもらい、そこで端的に互いの状況を話し合った。といっても同じ場所にずっと留まっているのは危険なので、話し合う時間はそれほどない。ウィリアムや騎士に魔物が動いたせいで飛んできた木の破片などを弾いてもてもらうなど、護衛をしてもらいながらの緊迫感漂う話し合いとなった。
「魔力の残量は?」
「残り三割といったくらいね。思ったより怪我人の数と重症度が高いわ。あと数時間続くとなったら、不安が残る魔力量ね。エマはどうなの?」
「私は問題ないわ。まだまだ余裕」
「さすがエマね」
エマの魔力は減るどころか増幅しているので、むしろもっと積極的に消費していきたいところだ。しかし体力面ではアネットと同じで、騎士のように体を造っているわけではない。だから途中途中で足を止めて休憩をしたり歩いたりしていたが、後数時間同じように動けるかと聞かれたら頷けない自信がある。治癒魔法は怪我を治せても体力までは回復できないのだ。
「エマはいいとしても、私の魔力量的に二手に分かれるのは不安が残るわね……」
考える時間はそれほどない。それでも限られた時間の中、エマ達に出来ることを探すのは必要なことだ。
(あ……)
そこでエマは一つの方法を思いついた。その方法は口から勝手に漏れ出す。
「最上級治癒魔法を使えばいいんだわ」
焦燥が心の中で生まれる。
何が原因なのか、エマ自身わからなくて混乱していた。
(治癒魔法の使い過ぎ? いいえ、だとしたら毎日少しずつ魔力が増えていっているはずだわ。魔物に対する恐怖? ううん、違うわ。命を落とす恐怖は魔力過多症になったときにすでに味わっているもの。だとしたら、何が……)
魔物の咆哮が森中に響き渡る。鼓膜が破れるかと思うほどの声量に、耳を塞いでしまうほどだ。その時、ふと脳裏をよぎるものがあった。
(魔物自身……?)
可能性は十分にあった。魔力過多症は人間だけがなるものだと勝手に思い込んでいた。けれどもし、そうではなかったとしたら。動物が魔力過多症という病気を発症して魔物になったのだとしたら。エマとは違う克服の仕方をした結果、理性を無くし暴れまわっているのだとしたら。そして魔力過多症同士が近くにいると、共鳴のような何かが発生して、魔力を膨れ上げさせているのだとしたら。
単なるエマの想像、仮説にしか過ぎない。それでも、なぜかしっくりとくるものがあった。魔物の強さはまちまちだ。しかし同じ場所に魔力過多症を発生させた個体がいたら、共鳴して魔力を増幅させてしまう。そして理性を無くした動物たちは、どちらかが死ぬまで殺し合う。生き残るのは一匹だけだから、その残った一匹を討伐して生態を調べても、大した結果を得ることはできない。
これまで魔物の生態は詳しく解明されなかったのは、魔力過多症を発症した動物が魔物なのだと紐づけできる人間がいなかったからだ。エマが気づけたのは一重に、エマ自身が魔力過多症の患者であるからだ。
エマ以外に魔力過多症を克服した者はゼロ人。誰も気づかなかったは無理もない。
咆哮を上げた魔物の姿を一瞥する。そこには最初に見たときよりも姿を大きくした魔物の姿があった。もしかたら魔力過多症であるエマと共鳴をしてしまったのかもしれない。
騎士からつけられた傷は多く、少なくない血を流しているが、有り余る魔力のおかげでまだ余力がありそうな雰囲気だ。
エマと共鳴しているせいで魔物が強くなっているのなら、エマがこの場を離れることが一番の策となる。しかしエマが離れてしまえば、治癒魔法師はアネットだけになってしまう。さすがにこの人数の騎士を、アネット一人で癒すには無理がある。
考えを逡巡させるが、最終的にエマが下した決断はこの場に残ることだった。
残るか残らないかを天秤にかけたところ、やはり残る方に重心が傾く。魔力がどこまで高まってしまうのかは、エマにも想像ができない。それでも魔力が尽きないということは、それだけ多くの騎士を癒せることに繋がる。多くの騎士を癒せば、死亡率はぐっと低くなるし、アネットに負担をかけないためにも、こちらの方が最善であると判断した。
それに魔物も魔力が高くなり、体を大きくさせてはいるものの、体力までが戻っているわけではないのだ。しっかりとその体にはダメージが蓄積されつつある。このまま順調にいけば、魔物を倒すことができるだろう。
魔物と一定の距離をとりつつ、治癒魔法を定期的に発動させる。
「メア・ドーナ・アボートゥム・ザイル・サーナ・ヴルネラ!」
エマが現場にたどり着くのが遅くて、残念なことにすでに命を失ってしまった者もいる。そんな彼らに心の中で謝りつつも、生きている者たちへ治癒魔法をかけ続けた。
魔物の周辺を時計回りに回りつつ、治癒魔法を施していき、ちょうど半周くらいの地点でアネットと落ち合った。
「アネット! 無事でよかったわ」
「エマこそ」
周囲の確認をしながら、互いの無事を喜ぶ。ウィリアムとアネットを護衛していた騎士に安全な場所を選んでもらい、そこで端的に互いの状況を話し合った。といっても同じ場所にずっと留まっているのは危険なので、話し合う時間はそれほどない。ウィリアムや騎士に魔物が動いたせいで飛んできた木の破片などを弾いてもてもらうなど、護衛をしてもらいながらの緊迫感漂う話し合いとなった。
「魔力の残量は?」
「残り三割といったくらいね。思ったより怪我人の数と重症度が高いわ。あと数時間続くとなったら、不安が残る魔力量ね。エマはどうなの?」
「私は問題ないわ。まだまだ余裕」
「さすがエマね」
エマの魔力は減るどころか増幅しているので、むしろもっと積極的に消費していきたいところだ。しかし体力面ではアネットと同じで、騎士のように体を造っているわけではない。だから途中途中で足を止めて休憩をしたり歩いたりしていたが、後数時間同じように動けるかと聞かれたら頷けない自信がある。治癒魔法は怪我を治せても体力までは回復できないのだ。
「エマはいいとしても、私の魔力量的に二手に分かれるのは不安が残るわね……」
考える時間はそれほどない。それでも限られた時間の中、エマ達に出来ることを探すのは必要なことだ。
(あ……)
そこでエマは一つの方法を思いついた。その方法は口から勝手に漏れ出す。
「最上級治癒魔法を使えばいいんだわ」
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