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第二十九話
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入ってきたのはエマの両親であるロゼッタとハリー、そしてリカルドとミアカーナだった。その後ろには雨でずぶ濡れになったままのウィリアムが、息を切らせてそこにいた。エマと別れてすぐに家族を呼びに走り回ってくれたのだろう。
家族の瞳は涙で潤んでおり、ロゼッタとミアカーナに至ってはすでに涙を零していた。
室内にまさかレオナルドがいるとは思わなかったようで、一度は歩みを止めたものの、すぐにエマの元へ歩み寄ってきた。
「……エマ!!」
「エマっ」
「姉上!」
「っ、お姉様」
それぞれがエマを呼び、話しかけてくる。
レオナルドが握っている手とは逆の手をリカルドとミアカーナが握りしめてきた。ロゼッタはエマの枕元で泣き崩れ、ハリーは泣くことを堪えるかのように表情が険しくなっている。そんな家族の耳には、エマと揃いのピアスがしっかりとついていた。
(約束……守れなかった)
ハリーにロゼッタ、リカルドにミアカーナ。それぞれとエマは色んな約束をした。
『くれぐれも無茶だけはしないで。帰ってきてまた貴女の笑顔を私に見せてちょうだい』
と言ってくれたロゼッタとの約束。
『無事に帰ってきてください。帰ってきたら俺のことをどう呼んでも構いませんから』
と嬉しい約束してくれたリカルド。
『怪我はしても、命だけは落とさないでくれ。魔物討伐が終わったら、必ずその顔を私に見せにくると約束をしてほしい』
頑張れと背中を押してくれたハリーとの約束。
『帰ってきたらお話がたくさんしたいわ。だから帰ってきたら……私の話を聞いてくれる?』
泣きながら帰ってきたらたくさん話しをしようとミアカーナと約束をした。
(ごめんなさい、ごめんなさい……)
無事に帰ってくるつもりだった。
また笑顔をロゼッタに見せて、リカルドのことをリィと呼んで、ハリーに無事戻りましたと報告をして、ミアカーナとたくさん話しをするつもりだった。
だというのに、エマはどの約束も守ることができなかった。
笑顔を見せたいのに体は言うことを聞かない。名前を呼んだり話したりしたいのに声が出ない。
(本当に、馬鹿よね私……)
自身の力を過信していたのだと後で気づいても、もう遅い。
(でもね、約束を破ったこと以外は後悔していないのよ)
声が出ないから、心の中で家族に語り掛ける。
魔力過多症のおかげで騎士たちの傷をたくさん癒すことができた。そのことに、後悔をするはずがない。
ただ約束を守れなかったことと、レオナルドに行くことを伝えなかった罪悪感が心に残った。エマが思う以上にたくさんの人が、エマのことをこうして心配してくれる。それはとても恵まれたことだった。
再び胃から血が込み上げてくる。レオナルドが介抱してくれているおかげで、気道の確保ができたが、吐血によって部屋にいる家族やレオナルドをさらに悲しませてしまった。
「うちの娘を、エマを助けることはできないのか……!!」
ハリーが掠れる声で、医師に詰め寄る。しかし医師は、首を横に振るのみだった。
「最善は尽くします。ですが、魔力過多症を克服したのはエマ様ただ一人。その治療方法も、己の体を己の魔力で回復させるというもの。私たちが出来るのは、そんなエマ様を見守ること……ただそれだけなのです。力及ばず申し訳ございません」
医師も手が出せなくて悔しいのだろう。その声色には悔しさが含まれていた。その言葉に、ハリーは拳を強く握りしめ、ロゼッタは人目があるにも関わらず声を上げて泣いた。そんなロゼッタにつられるようにミアカーナもさらにぼろぼろと泣き、隣にいたリカルドが静かに涙を流しながら、その体を強く抱きしめていた。
(ごめん、なさい……)
視界が潤んで、よく見えなくなる。体の感覚が無いせいで、涙が頬を伝うことすらわからない。
エマなりに必死に魔力過多症と戦ってはいるのだ。魔物のように人を傷つけたくなくて、意識を保ち続けた。何倍にも膨れ上がった魔力を操作して、体の治癒に回した。それでも急激に膨れ上がってしまった有り余る魔力は、すぐにどうにかなるものではない。よってエマの体をひたすら蝕み続けた。
(あと……、あとどれくらいこの体は持つのかしら?)
もっと家族と一緒にいたかった。アネットやリターニャと買い物に出かけたりしたかった。ウィリアムと冗談を言い合いたかった。
――レオナルドに好きだと、伝えたかった
やりたかったことが、頭の中を駆け巡る。
けれど体がもう悲鳴を上げていた。もう残された時間はわずかなのだと。
どれだけ治癒魔法を頑張っても、一向に治る兆しが見えない。魔力の増幅は止まっているが、増え終わった魔力を今のエマの力では抑えることができなかった。
家族の瞳は涙で潤んでおり、ロゼッタとミアカーナに至ってはすでに涙を零していた。
室内にまさかレオナルドがいるとは思わなかったようで、一度は歩みを止めたものの、すぐにエマの元へ歩み寄ってきた。
「……エマ!!」
「エマっ」
「姉上!」
「っ、お姉様」
それぞれがエマを呼び、話しかけてくる。
レオナルドが握っている手とは逆の手をリカルドとミアカーナが握りしめてきた。ロゼッタはエマの枕元で泣き崩れ、ハリーは泣くことを堪えるかのように表情が険しくなっている。そんな家族の耳には、エマと揃いのピアスがしっかりとついていた。
(約束……守れなかった)
ハリーにロゼッタ、リカルドにミアカーナ。それぞれとエマは色んな約束をした。
『くれぐれも無茶だけはしないで。帰ってきてまた貴女の笑顔を私に見せてちょうだい』
と言ってくれたロゼッタとの約束。
『無事に帰ってきてください。帰ってきたら俺のことをどう呼んでも構いませんから』
と嬉しい約束してくれたリカルド。
『怪我はしても、命だけは落とさないでくれ。魔物討伐が終わったら、必ずその顔を私に見せにくると約束をしてほしい』
頑張れと背中を押してくれたハリーとの約束。
『帰ってきたらお話がたくさんしたいわ。だから帰ってきたら……私の話を聞いてくれる?』
泣きながら帰ってきたらたくさん話しをしようとミアカーナと約束をした。
(ごめんなさい、ごめんなさい……)
無事に帰ってくるつもりだった。
また笑顔をロゼッタに見せて、リカルドのことをリィと呼んで、ハリーに無事戻りましたと報告をして、ミアカーナとたくさん話しをするつもりだった。
だというのに、エマはどの約束も守ることができなかった。
笑顔を見せたいのに体は言うことを聞かない。名前を呼んだり話したりしたいのに声が出ない。
(本当に、馬鹿よね私……)
自身の力を過信していたのだと後で気づいても、もう遅い。
(でもね、約束を破ったこと以外は後悔していないのよ)
声が出ないから、心の中で家族に語り掛ける。
魔力過多症のおかげで騎士たちの傷をたくさん癒すことができた。そのことに、後悔をするはずがない。
ただ約束を守れなかったことと、レオナルドに行くことを伝えなかった罪悪感が心に残った。エマが思う以上にたくさんの人が、エマのことをこうして心配してくれる。それはとても恵まれたことだった。
再び胃から血が込み上げてくる。レオナルドが介抱してくれているおかげで、気道の確保ができたが、吐血によって部屋にいる家族やレオナルドをさらに悲しませてしまった。
「うちの娘を、エマを助けることはできないのか……!!」
ハリーが掠れる声で、医師に詰め寄る。しかし医師は、首を横に振るのみだった。
「最善は尽くします。ですが、魔力過多症を克服したのはエマ様ただ一人。その治療方法も、己の体を己の魔力で回復させるというもの。私たちが出来るのは、そんなエマ様を見守ること……ただそれだけなのです。力及ばず申し訳ございません」
医師も手が出せなくて悔しいのだろう。その声色には悔しさが含まれていた。その言葉に、ハリーは拳を強く握りしめ、ロゼッタは人目があるにも関わらず声を上げて泣いた。そんなロゼッタにつられるようにミアカーナもさらにぼろぼろと泣き、隣にいたリカルドが静かに涙を流しながら、その体を強く抱きしめていた。
(ごめん、なさい……)
視界が潤んで、よく見えなくなる。体の感覚が無いせいで、涙が頬を伝うことすらわからない。
エマなりに必死に魔力過多症と戦ってはいるのだ。魔物のように人を傷つけたくなくて、意識を保ち続けた。何倍にも膨れ上がった魔力を操作して、体の治癒に回した。それでも急激に膨れ上がってしまった有り余る魔力は、すぐにどうにかなるものではない。よってエマの体をひたすら蝕み続けた。
(あと……、あとどれくらいこの体は持つのかしら?)
もっと家族と一緒にいたかった。アネットやリターニャと買い物に出かけたりしたかった。ウィリアムと冗談を言い合いたかった。
――レオナルドに好きだと、伝えたかった
やりたかったことが、頭の中を駆け巡る。
けれど体がもう悲鳴を上げていた。もう残された時間はわずかなのだと。
どれだけ治癒魔法を頑張っても、一向に治る兆しが見えない。魔力の増幅は止まっているが、増え終わった魔力を今のエマの力では抑えることができなかった。
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