余命七日の治癒魔法師

鈴野あや(鈴野葉桜)

文字の大きさ
31 / 41

第三十話

しおりを挟む
 あと自分にはわずかな時間しか残されていない。

(余命七日の日から、五年も長く生きられたのよ、エマ。そのことに満足しないでどうするのよ)

 そう自身を慰めてみるものの、生きたいという思いがどうしても勝ってしまう。

「……うだ」

 悲しみに暮れていると、レオナルドが何かを呟いた声が耳に届いた。レオナルドに視線を向けると、涙に塗れた瞳が希望を見つけ出したようにエマを見つめていた。

「エマ、耳は聞こえるかい? 聞こえるなら返事をしなくていい。ただ僕が今から言うことを実行してみて欲しいんだ」

(レオが言うことを?)

 首を動かすことはできないので、とにかく話の続きを聞くことにした。

「僕はウィリアムから、エマが倒れる前にどんな風に活躍をしたか少しだけ聞いたんだ。ねぇ、エマ。この王城……ううん、この部屋だけでもいいんだ。『オムニア』の治癒魔法を使ってくれないか?」

「王太子殿下、なぜそのようなことを今のエマに!!」

 非道な願いだと思ったのだろう。咎めるような口調でハリーがレオナルド申し立てる。

「わかっている! ただ、これしかエマを助ける方法が浮かばないんだ!!」

 確かにレオナルドの願いは、傍から見れば現状維持がやっとのエマにとって非道な願いだ。しかしエマに好きだと伝えたばかりのレオナルドが、そんな非道なことをするだろうか。そこまで考えてレオナルドがやろうとしていることがわかってしまった。

(私の魔力を少しでも少なくしようとしているってこと?)

 『オムニア』を使用した魔法であれば、範囲を固定したあと、その範囲内の者が完全に治癒しない限り、魔力の発動は止まらない。王城には何千人、という規模の人数が勤めている。さらには鍛錬場に騎士たちもいる。その人たちが怪我を全くしていない状態というのは現実的にはありえないこと。つまり『オムニア』が使用できれば、一時的とはいえ、エマの体への負担はかなり少なくなる。

 それに体内に治癒魔法をかけるより、外に治癒魔法として魔力を放出する方が、ずっと体への負担が少ない。体内にかけ続けるということは、魔力が外に放出されないため、治癒魔法であっても、体内に同じ量の魔力が残り続けると同意義だからだ。

 余命七日の時に成功したのは、今よりも魔力量がずっと少なかった上に、治癒魔法に魔力を変換したことによって体が耐えきれるラインに落ち着いたからだ。

(やってみる価値は……あるわ)

 ただ、魔法の発動には呪文を唱える必要がある。そのためには声を出す必要があった。

(治癒魔法でなんとか治して動かしているのは、聴覚と視覚。この部分にかけている治癒魔法を喉へと集めれば、なんとかなるかもしれない)

 ずっとでなくてもいいのだ。呪文を唱える数秒だけ持てば、それだけでいい。

 ただ、失敗する可能性もある。失敗する覚悟ではなく、成功することだけを祈って魔法を使うつもりだが、その前に、と家族、ウィリアム、そしてレオナルドの顔を順に見ていった。

 その間に、レオナルドが部屋にいる者たちへ説明をしたらしく、気づけば部屋中の視線がエマに集まっていた。

(やればできるわ、エマ。助かるために、成功させくちゃ駄目なのよ)

 片方の手をリカルドとミアカーナが、そしてもう片方の手をレオナルドが握っているのが視界の端に映った。その光景を最後に、視覚と聴覚へと流していた治癒魔法を喉へと映す。数秒もしないうちに大きな耳鳴りが再開し、視界もぼんやりとしてきた。

「……ぁ、……っ…………」

 治癒魔法を流して回復を待つ。ある程度回復したところで、声を試しに出してみた。まるで老婆のような枯れた声であったが、無事に出ることが確認できた。それだけで耳鳴り以上の歓声が、うっすらと聞こえてくる。呪文を唱えることが出来るのだと、喜んでくれたのだろう。しかしエマに届くような歓声が聞えたのは一秒ほどのみ。すぐに耳鳴りにかき消されてしまった。

 最大限回復できるところまで、喉の回復を待つ。そうしてもうこれ以上は無理だろうと判断したところで、呪文を唱えた。

「メ、ア・ドー……ナ」

 討伐時のように、すらすらと唱えることができない。ただ唇を動かし、喉から声を出すだけで死にそうなほどに苦しい。

「ア……っ、ボートゥ……ム・オム、ニア……」

 それでもエマは呪文を唱えることを止めなかった。この部屋にいる皆が、討伐に一緒に向かった仲間たちが,エマが生きることを望んでくれているのだ。辛いからといって投げ出すわけにはいかない。

「サーナ・ヴ、ルネ……ラ!」

 時間をかけて、呪文を紡ぎ終えると同時に、体から魔力が放出されていくのが分かった。エマは範囲を鍛錬場などを含む王城全体に指定する。範囲内にいる何千人という人たちを治療するために、エマから大量の魔力が抜けていく。もちろんエマが放出できる量ずつなため一気に減るわけではない。それでも確実に魔力は抜けていっていた。

 体から魔力が減っていくおかげで、少しずつではあるが体が楽になっていく。魔物と対峙しているわけでもないので、魔力が増えることはない。繊細な魔力操作が必要となるため、頭痛がするものの、魔力に体を蝕まれる痛みに比べたらずっとましだった。

 しかし順調に減っていったのは、最初の方のみ。

 何千人という人が勤めている王城に、重病人がいるわけもなく、徐々に治癒魔法を必要とする者が減っていった。

 体の感覚や視力や聴覚といった機能が戻り始めるが、いまだに多い魔力のせいで、体は満足に動かすことができない。

 レオナルドの作戦は成功したものの、まだエマの体の中には大量の魔力が有り余っていた。

 討伐前のエマの魔力が十だとすれな、魔物を討伐して増幅し終えた魔力が百ほどになる。その感覚でいえば、今の放出で残った魔力は七十ほどだ。三十まで減れば強引に魔力を抑えることができるが、あと四十をどうにかして放出しなければならない。しかし治癒魔法はほぼ全員を治癒し終えたことで静かに終わろうとしていた。

 徐々に魔力を必要としなくなっていく治癒魔法に焦った時、なぜか治癒魔法に必要な魔力量が再び増え始めた。

(どうして……?)

 その答えは、エマの近くにあった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...