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第三十二話
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魔力過多症が再発してから一カ月が経ち、ようやく外を自由に出歩けるようになった。本来であれば、動けるようになった段階で、王城の客室を退室しなければならないが、レオナルドの厳命により、容体が回復するまで公爵家に帰ることができなかった。
(レオは心配しすぎなのよ……。それにミアの婚約者であるのに、毎日通ってくるし。私は嬉しいけれど、人の目はごまかせないし、何よりミアが心配だわ)
好きな相手が見舞いに通ってくれるのは嬉しいが、ミアカーナを傷つけることは望んでいない。だからレオナルドにそれとなく来ないように伝えてみたりしてみたのだが、大丈夫の一点張りでやめようとはしなかった。ならばとお見舞いに訪ねてきてくれるミアカーナが傷ついていないか、様子を窺ってみるものの、なぜか傷ついているよりはすっきりとした、それでいて以前よりもいい表情をしていた。
矛盾だらけな二人の様子に首を傾げ、侍従であるウィリアムに相談してみるが、二人が大丈夫なら大丈夫なのでしょうと、同意を得ることはできなかった。
「お嬢様、そろそろよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。今行くわ」
ウィリアムの呼びかけに応え、支度を手伝ってくれた王城の使用人たちに礼を伝える。
エマは仮の私室となっている客室から、ウィリアムを伴って国王の元へと向かっていた。服装は治癒魔法師の制服を纏っているが、王城を堂々と歩いていると、エマとわかるなり誰もが頭を下げてきた。それこそ使用人、貴族関係なくである。
治癒魔法師となってからは久しくこんな経験はなく、不思議に思って首を傾げていると後ろからこっそりとウィリアムが教えてくれた。
「一カ月前の魔物討伐に同行した治癒魔法師がお嬢様であると、全国民に知れ渡っています。ですので身分関係なく、皆様がお嬢様自身に敬意を表しているのですよ」
「そう……」
そんな言葉を聞いて、嬉しくならないはずがない。フォルモーサ公爵家の娘でも、レオナルドの元婚約者を見る目でもない。ただのエマにこうして敬意を払ってくれているのだ。口角が上がってにやつきそうになる口元を必死に堪えながら、謁見室までの道のりを歩いていった。
謁見室の前に到着すると、扉の前を守る衛兵にウィリアムが声をかけ、中へと通された。扉の向こうは吹き抜けとなっていて、天井がとても高い。天井付近に取り付けられている窓ガラスからは日光が差し込み、室内を明るく照らしていた。
今回の謁見が、魔物討伐に対する褒章を兼ねているからなのか、中には大勢の貴族が左右に分かれて整列していた。普段はウィリアムが一緒に入ることは許されないが、魔物討伐に大いに貢献したこともあり、特別に入室を許されていた。
斜め後ろに控えるウィリアムを伴って、謁見室の最奥にある椅子に座る国王ライアン・フォン・スペルクスの元までゆっくりと、しかししっかりとした足取りで進んでいく。そして定位置までやってくると、国王に対するお辞儀をして頭を下げた。
「面を上げよ、エマ・フォルモーサ。そしてウィリアム・ワトソン」
ライアンの許可を得てから、下げていた頭を上げる。そこには魔力過多症にかかる前、レオナルドとの婚約を告げられた時から全く時の流れを感じさせない風貌をしたライアンがいた。五年という歳月が流れているにも関わらず、全く老いた気配がない。
そんなライアンの隣には王妃、そして息子のレオナルドとウィルフレッドが並んでいた。
「此度の活躍、とても素晴らしいものであったと我が息子ウィルフレッドや、城の者たちからも聞いておる。多くの者を癒してくれて感謝する」
「勿体無きお言葉でございます。私は治癒魔法師として自身の仕事を全うしただけでございます」
「そう謙遜するな。……さて、その功績を称え、褒章を用意した。気に入ってもらえると嬉しいが」
(褒章……貰えると聞いてはいたけれど、何を頂けるのかしら?)
通常であれば、褒章は予め貰う本人にも通達がある。しかし今回に限ってそれがなかった。これだけ大勢の貴族の前で与えるのだから、余程のものであることには違いないが、どうにもライアンの『気に入ってもらえると嬉しいが』という一言が引っかかる。
そんなエマの心境をよそに、褒章の話は進んでいく。
「まず最初にウィリアム・ワトソン。そなたには勲爵士の称号を与える。一代限りの爵位ではあるが、今後様々なことに生かせるであろう」
「ありがたく頂戴致します。お嬢様をさらにお守りすることができ、誠に嬉しく思います」
(爵位を貰えば、もっといい地位だって狙えるのに……。本当にウィリーには感謝してばかりね)
爵位をもらったにも関わらず、相変わらずなウィリアムの態度に、ライアンが笑いを漏らす。
「いい侍従を持ったな、エマ嬢。王家の侍従として欲しいくらいだ」
ライアンがそう言うのも無理はない。エマに対するこの忠誠はもちろんのこと、ウィリアムは今回の魔物討伐で大活躍をしたのだから。
「はい、自慢の侍従でございます。ですがウィリアムの人生はウィリアムのものでございます。ウィリアムが王家の手足となりたいと言うのであれば、喜んで背中を押しましょう」
もちろんウィリアムにはこのままエマの傍にいて欲しいが、口にした通り、ウィリアムの人生はウィリアムのもの。エマが口出しできるものではない。ただ背中を押す前にウィリアムを説得はするかもしれないが、それはエマだけの秘密だ。
「ほう、主従の信頼関係が目に見えるようだ。これは勧誘が難しそうであるな」
ウィリアムとエマが発した言葉に、ライアンはさらに笑みを浮かべた。
「次にエマ・フォルモーサ。そなたに与える褒章は、これだ」
そう言ってライアンは自身の隣に視線を向けた。
(レオは心配しすぎなのよ……。それにミアの婚約者であるのに、毎日通ってくるし。私は嬉しいけれど、人の目はごまかせないし、何よりミアが心配だわ)
好きな相手が見舞いに通ってくれるのは嬉しいが、ミアカーナを傷つけることは望んでいない。だからレオナルドにそれとなく来ないように伝えてみたりしてみたのだが、大丈夫の一点張りでやめようとはしなかった。ならばとお見舞いに訪ねてきてくれるミアカーナが傷ついていないか、様子を窺ってみるものの、なぜか傷ついているよりはすっきりとした、それでいて以前よりもいい表情をしていた。
矛盾だらけな二人の様子に首を傾げ、侍従であるウィリアムに相談してみるが、二人が大丈夫なら大丈夫なのでしょうと、同意を得ることはできなかった。
「お嬢様、そろそろよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。今行くわ」
ウィリアムの呼びかけに応え、支度を手伝ってくれた王城の使用人たちに礼を伝える。
エマは仮の私室となっている客室から、ウィリアムを伴って国王の元へと向かっていた。服装は治癒魔法師の制服を纏っているが、王城を堂々と歩いていると、エマとわかるなり誰もが頭を下げてきた。それこそ使用人、貴族関係なくである。
治癒魔法師となってからは久しくこんな経験はなく、不思議に思って首を傾げていると後ろからこっそりとウィリアムが教えてくれた。
「一カ月前の魔物討伐に同行した治癒魔法師がお嬢様であると、全国民に知れ渡っています。ですので身分関係なく、皆様がお嬢様自身に敬意を表しているのですよ」
「そう……」
そんな言葉を聞いて、嬉しくならないはずがない。フォルモーサ公爵家の娘でも、レオナルドの元婚約者を見る目でもない。ただのエマにこうして敬意を払ってくれているのだ。口角が上がってにやつきそうになる口元を必死に堪えながら、謁見室までの道のりを歩いていった。
謁見室の前に到着すると、扉の前を守る衛兵にウィリアムが声をかけ、中へと通された。扉の向こうは吹き抜けとなっていて、天井がとても高い。天井付近に取り付けられている窓ガラスからは日光が差し込み、室内を明るく照らしていた。
今回の謁見が、魔物討伐に対する褒章を兼ねているからなのか、中には大勢の貴族が左右に分かれて整列していた。普段はウィリアムが一緒に入ることは許されないが、魔物討伐に大いに貢献したこともあり、特別に入室を許されていた。
斜め後ろに控えるウィリアムを伴って、謁見室の最奥にある椅子に座る国王ライアン・フォン・スペルクスの元までゆっくりと、しかししっかりとした足取りで進んでいく。そして定位置までやってくると、国王に対するお辞儀をして頭を下げた。
「面を上げよ、エマ・フォルモーサ。そしてウィリアム・ワトソン」
ライアンの許可を得てから、下げていた頭を上げる。そこには魔力過多症にかかる前、レオナルドとの婚約を告げられた時から全く時の流れを感じさせない風貌をしたライアンがいた。五年という歳月が流れているにも関わらず、全く老いた気配がない。
そんなライアンの隣には王妃、そして息子のレオナルドとウィルフレッドが並んでいた。
「此度の活躍、とても素晴らしいものであったと我が息子ウィルフレッドや、城の者たちからも聞いておる。多くの者を癒してくれて感謝する」
「勿体無きお言葉でございます。私は治癒魔法師として自身の仕事を全うしただけでございます」
「そう謙遜するな。……さて、その功績を称え、褒章を用意した。気に入ってもらえると嬉しいが」
(褒章……貰えると聞いてはいたけれど、何を頂けるのかしら?)
通常であれば、褒章は予め貰う本人にも通達がある。しかし今回に限ってそれがなかった。これだけ大勢の貴族の前で与えるのだから、余程のものであることには違いないが、どうにもライアンの『気に入ってもらえると嬉しいが』という一言が引っかかる。
そんなエマの心境をよそに、褒章の話は進んでいく。
「まず最初にウィリアム・ワトソン。そなたには勲爵士の称号を与える。一代限りの爵位ではあるが、今後様々なことに生かせるであろう」
「ありがたく頂戴致します。お嬢様をさらにお守りすることができ、誠に嬉しく思います」
(爵位を貰えば、もっといい地位だって狙えるのに……。本当にウィリーには感謝してばかりね)
爵位をもらったにも関わらず、相変わらずなウィリアムの態度に、ライアンが笑いを漏らす。
「いい侍従を持ったな、エマ嬢。王家の侍従として欲しいくらいだ」
ライアンがそう言うのも無理はない。エマに対するこの忠誠はもちろんのこと、ウィリアムは今回の魔物討伐で大活躍をしたのだから。
「はい、自慢の侍従でございます。ですがウィリアムの人生はウィリアムのものでございます。ウィリアムが王家の手足となりたいと言うのであれば、喜んで背中を押しましょう」
もちろんウィリアムにはこのままエマの傍にいて欲しいが、口にした通り、ウィリアムの人生はウィリアムのもの。エマが口出しできるものではない。ただ背中を押す前にウィリアムを説得はするかもしれないが、それはエマだけの秘密だ。
「ほう、主従の信頼関係が目に見えるようだ。これは勧誘が難しそうであるな」
ウィリアムとエマが発した言葉に、ライアンはさらに笑みを浮かべた。
「次にエマ・フォルモーサ。そなたに与える褒章は、これだ」
そう言ってライアンは自身の隣に視線を向けた。
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