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第三十五話
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ちょうどタイミングがよかったのか、外から扉をノックされる。
「ウィルフレッド様とミアカーナ様がいらしております。中にお通ししてもよろしかったでしょうか?」
「ウィルとミアが? レオ、いいかしら?」
「うん、大丈夫だよ」
レオナルドにも念のため許可をもらうと、ウィリアムに大丈夫であることを告げる。
少しして扉が開き、ウィルフレッドと、ウィルフレッドの腕に自身の腕を絡めた状態のミアカーナが入室してきた。謁見室で顔を真っ赤に染めていたミアカーナを見たときは、新たな恋が始まったのかもと思っていた。けれど同時に不安はあった。レオナルドとの婚約を解消して、公爵家と王家の関係のせいでウィルフレッドと婚約したミアカーナは幸せになれるのかと。
けれどその心配は杞憂に終わったようだった。
一か月という短い間に、二人の間で何があったのかは分からない。それでも目の前にいる二人は、とても気が合っているように感じた。レオナルドとエマが幼い頃に婚約したこともあって、弟や妹であるウィルフレッドとミアカーナは、幼馴染のように過ごしてきた。ウィルフレッドがミアカーナを見る瞳は、まさしく恋をしている瞳そのものだ。エマの想像ではあるが、もしかしたらウィルフレッドはその時からミアカーナに恋をしていたのかもしれない。
頑なにエマのことを義姉と呼んでいたのは、レオナルドとの仲が戻ってほしいと純粋に願っていた部分もあるだろう。しかしこの想像がもし本当であるのならば、エマとレオナルドが婚約することによって、ミアカーナがレオナルドの婚約者候補から降りることを祈る願掛けのようなものがあったかもしれない。
(全ては私の想像でしかないけれど……)
それでももし、そうであるのならば。ミアカーナにとっても、ウィルフレッドにとっても悪くない話だ。
(そうだったら、いいな)
エマたちの座るソファの正面にあるソファに座った二人を見て、エマは心の中で呟いた。
「お姉様、先程はいきなりの申し出でごめんなさい。レオナルド殿下にサプライズにしたいからと頼まれていて」
「すまなかったな、義姉上。兄上がどうしても内緒にしてくれと言うので仕方なく、な」
申し訳なさそうに頭を下げるミアカーナと、頭を掻くウィルフレッドの言葉に、何度も瞬きを繰り返す。
まるで油が少なくなってぎこちない動きになってしまった機械仕掛けの人形のように、ギギギと首を動かしてレオナルドの顔を見上げる。
「だってああいう場でないと、エマは首を縦に振ってはくれないでしょう?」
「………………そうね」
レオナルドのきらきらとした笑みが、どこか真っ黒な腹黒な笑みに見えた気がした。敢えてそこは触れないでおこうと決め、話題を戻す。
「ということは、私以外の皆は知っていたという認識で大丈夫なのよね?」
「そうだよ」
「通りで私以外誰も動揺していないはずだわ」
褒章は国王であるライアンから貰い受ける時に、普段ならば事前通達がある。今回もそれは同様だったようだ。事前通達が無い時点で、誰かに確認をすれば良かったと今更後悔してももう遅い。
「終わり良ければ総て良し、でしょう?」
「それは私の台詞よ、レオ」
肩の力がすっかりと抜けてしまい、背もたれにもたれかかる。そんなエマを介抱したかったのか、レオナルドが肩を抱き寄せてきた。自然と背もたれにもれかかりながらも、レオナルドの肩に顔を預ける形となってしまう。
「ちょっと、二人の前なのよレオ!」
「いいじゃないか? 二人も僕たちのことを祝福してくれているんだよ」
「やっぱり、レオナルド殿下にはお姉様がお似合いね」
そんなエマたちの姿を、ミアカーナが眩しそうに見つめてきた。
「そうかな?」
聞き返しながらも、レオナルドの声は心底嬉しそうだった。ミアカーナはそんなレオナルドに頷き、話を続ける。ミアカーナとレオナルドの関係は、すでに話し合って終わったこと。エマが思っていたよりもずっと平和に解決をしていたようだ。現に二人とも面と向かって話しているのに、どこにも気まずげな雰囲気がなかった。
「ええ。だってレオナルド殿下は私といるときよりもずっと幸せそうなお顔をしているもの。それにお姉様だってそうよ。ここ五年間の中で一番幸せそう」
「ミア……ありがとう」
「お姉様、お礼なんていらないわ。本当のことを口にしただけだもの。それに……」
ミアカーナが言葉を切って、隣にいるウィルフレッドの体に寄り掛かる。そんなミアカーナに応えるように、ウィルフレッドはその腰に腕を回した。
「俺たちも兄上や義姉上たち以上に幸せになるつもりだからな」
互いに互いを見つめるその姿は、どう見ても仲の良い恋人同士だ。見ていてこちらが幸せな気持ちになってくる。
「僕たちも負けるつもりはないけどね」
「レオ、そんな勝負じゃないんだから」
まるで受けて立つ、というような言い方に思わず笑ってしまう。それはウィルフレッドやミアカーナも一緒だったようで、部屋には賑やかな笑いが響き、穏やかな談笑が続いた。
「ウィルフレッド様とミアカーナ様がいらしております。中にお通ししてもよろしかったでしょうか?」
「ウィルとミアが? レオ、いいかしら?」
「うん、大丈夫だよ」
レオナルドにも念のため許可をもらうと、ウィリアムに大丈夫であることを告げる。
少しして扉が開き、ウィルフレッドと、ウィルフレッドの腕に自身の腕を絡めた状態のミアカーナが入室してきた。謁見室で顔を真っ赤に染めていたミアカーナを見たときは、新たな恋が始まったのかもと思っていた。けれど同時に不安はあった。レオナルドとの婚約を解消して、公爵家と王家の関係のせいでウィルフレッドと婚約したミアカーナは幸せになれるのかと。
けれどその心配は杞憂に終わったようだった。
一か月という短い間に、二人の間で何があったのかは分からない。それでも目の前にいる二人は、とても気が合っているように感じた。レオナルドとエマが幼い頃に婚約したこともあって、弟や妹であるウィルフレッドとミアカーナは、幼馴染のように過ごしてきた。ウィルフレッドがミアカーナを見る瞳は、まさしく恋をしている瞳そのものだ。エマの想像ではあるが、もしかしたらウィルフレッドはその時からミアカーナに恋をしていたのかもしれない。
頑なにエマのことを義姉と呼んでいたのは、レオナルドとの仲が戻ってほしいと純粋に願っていた部分もあるだろう。しかしこの想像がもし本当であるのならば、エマとレオナルドが婚約することによって、ミアカーナがレオナルドの婚約者候補から降りることを祈る願掛けのようなものがあったかもしれない。
(全ては私の想像でしかないけれど……)
それでももし、そうであるのならば。ミアカーナにとっても、ウィルフレッドにとっても悪くない話だ。
(そうだったら、いいな)
エマたちの座るソファの正面にあるソファに座った二人を見て、エマは心の中で呟いた。
「お姉様、先程はいきなりの申し出でごめんなさい。レオナルド殿下にサプライズにしたいからと頼まれていて」
「すまなかったな、義姉上。兄上がどうしても内緒にしてくれと言うので仕方なく、な」
申し訳なさそうに頭を下げるミアカーナと、頭を掻くウィルフレッドの言葉に、何度も瞬きを繰り返す。
まるで油が少なくなってぎこちない動きになってしまった機械仕掛けの人形のように、ギギギと首を動かしてレオナルドの顔を見上げる。
「だってああいう場でないと、エマは首を縦に振ってはくれないでしょう?」
「………………そうね」
レオナルドのきらきらとした笑みが、どこか真っ黒な腹黒な笑みに見えた気がした。敢えてそこは触れないでおこうと決め、話題を戻す。
「ということは、私以外の皆は知っていたという認識で大丈夫なのよね?」
「そうだよ」
「通りで私以外誰も動揺していないはずだわ」
褒章は国王であるライアンから貰い受ける時に、普段ならば事前通達がある。今回もそれは同様だったようだ。事前通達が無い時点で、誰かに確認をすれば良かったと今更後悔してももう遅い。
「終わり良ければ総て良し、でしょう?」
「それは私の台詞よ、レオ」
肩の力がすっかりと抜けてしまい、背もたれにもたれかかる。そんなエマを介抱したかったのか、レオナルドが肩を抱き寄せてきた。自然と背もたれにもれかかりながらも、レオナルドの肩に顔を預ける形となってしまう。
「ちょっと、二人の前なのよレオ!」
「いいじゃないか? 二人も僕たちのことを祝福してくれているんだよ」
「やっぱり、レオナルド殿下にはお姉様がお似合いね」
そんなエマたちの姿を、ミアカーナが眩しそうに見つめてきた。
「そうかな?」
聞き返しながらも、レオナルドの声は心底嬉しそうだった。ミアカーナはそんなレオナルドに頷き、話を続ける。ミアカーナとレオナルドの関係は、すでに話し合って終わったこと。エマが思っていたよりもずっと平和に解決をしていたようだ。現に二人とも面と向かって話しているのに、どこにも気まずげな雰囲気がなかった。
「ええ。だってレオナルド殿下は私といるときよりもずっと幸せそうなお顔をしているもの。それにお姉様だってそうよ。ここ五年間の中で一番幸せそう」
「ミア……ありがとう」
「お姉様、お礼なんていらないわ。本当のことを口にしただけだもの。それに……」
ミアカーナが言葉を切って、隣にいるウィルフレッドの体に寄り掛かる。そんなミアカーナに応えるように、ウィルフレッドはその腰に腕を回した。
「俺たちも兄上や義姉上たち以上に幸せになるつもりだからな」
互いに互いを見つめるその姿は、どう見ても仲の良い恋人同士だ。見ていてこちらが幸せな気持ちになってくる。
「僕たちも負けるつもりはないけどね」
「レオ、そんな勝負じゃないんだから」
まるで受けて立つ、というような言い方に思わず笑ってしまう。それはウィルフレッドやミアカーナも一緒だったようで、部屋には賑やかな笑いが響き、穏やかな談笑が続いた。
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