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第三十六話
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異例の褒章を貰い受け、五カ月が過ぎた。
とは言いつつも、褒章を貰い受けたのは、討伐に同行をした一カ月後。容体がある程度回復し、レオナルドの許可を得て外を出歩けるようにはなったが、完全回復までには程遠く、完璧に回復するまで五カ月もの歳月をかけることとなってしまった。
その上、王太子妃になることが確定したため、容体の回復を待ちながら、王太子妃になるための勉強が始まった。このことによって、エマの部屋がレオナルドの私室の続き部屋――つまりは王太子妃専用の部屋――へと移り変わった。
もちろん療養中の体に負担をかけては元も子もないので、少しずつの勉強となる。それでも五年前までは勉強をしていたので、一から覚えるというよりは復習といった感じに近い。そんなこともあって、暇を持て余すことも体に負担をかけることもなく、日々が過ぎていった。
「エマ、本当に出勤するの? まだ休んでいてもいいんだよ?」
ここ数カ月身に纏っていたドレスではなく、治癒魔法師の制服に身を包んだエマに、公務で忙しいはずのレオナルドがわざわざ部屋を訪ねて止めにかかってきていた。
「今日の朝食の時も言ったはずよ。私は王太子妃になっても治癒魔法師を続けるって。きちんとライアン様の許可も頂いているわ」
王太子妃の部屋に移り変わってからは、朝食と夕食は必ず一緒に摂っていた。その際に必ずと言っていいほどレオナルドが止めにかかってきたので、エマは今と同じような言葉を毎回返していた。
「そうだけど……。やっぱり心配なんだよ」
「大丈夫よ。むしろ治癒魔法として魔力を外に出した方が体には良いんだもの。それにウィリーもついてきてくれるから何も心配いらないわよ?」
膨大な量に増えた魔力は、少しずつ回復していく過程で、どうにか制御をするのに成功した。しかしまだその膨大な魔力に体が慣れておらず、たまに体が辛い時があるのもまた事実だ。だから治癒魔法として体外に放出した方が体には良いのだ。
それにただでさえ治癒魔法師は数が少ない。王太子妃になる身としては、治癒魔法師を止めるべきなのだろうが、体のことや治癒魔法師の人数のことを考えると、続けた方が良いという結論に至った。その考えはライアンも同じだったらしく、王太子妃の公務をしていく上で日数を減らさなければならないものの、王太子妃の侍従となったウィリアムを連れていくことで、続けることを了承してくれた。
「そこが問題なんだよ。僕以外の男と二人きりになるなんて……ウィリアムが羨ましい」
「そんなこと言われても……。相手はウィリーよ? 私にとっては兄のような存在だし……、ねぇウィリー?」
「はい。お嬢様に兄のようだと感じていただけて、私は嬉しく思います。決して邪な思いはありませんよ。兄のように近しい存在なだけ、ですので」
「そ、こ、が、問題なんだよ!!」
「もうウィリー! 火に油を注ぐようなことはしないでちょうだい。それにレオも挑発に乗らないで。兄のような存在と恋人は違うでしょう?」
エマにとってウィリアムは兄のようなもの、つまりは家族だ。そんなウィリアムに恋心を抱くはずもない。なによりレオナルドと半年後には挙式を上げることが決まっている。それでも心配をするのだから、エマにはどうしていいのか分からなかった。
二人が顔を合わせるたびに、子供のような喧嘩が勃発するので、そのたびにエマはため息をついていた。
「そうだとしても、エマが心配なんだよ!」
「レオナルドの殿下は心配し過ぎですよ」
心配の原因はエマ本人。どうにかしようにも、どうにもならないのが現状だ。もう一度ため息をつき、自分で扉を開けてレオナルドの方へ振り返る。
「私はこの国の治癒魔法師よ。誰が何と言っても、私は治癒魔法師として仕事をするわ。レオとの再婚約を認めてくれたのだって、この仕事をしていたからなのよ?」
「それはそうだけど……」
「どうしても心配というのなら、仕事を見に来ればいいわ。今日の午前中は鍛錬場での仕事だから。ああ、もちろんレオの仕事が終わってからじゃないとダメよ?」
心配ならばその目で確かめればいい。言外にそう言えば、その手があったかとレオナルドが目を輝かせた。だから仕事が終わってから、という条件を慌てて付け加える。
「もちろんだよ! エマ、頑張って仕事を終わらせていくから、待っていて」
昨日までエマの傍を離れたくないと駄々をごねていた人物とは思えない発言だ。同時に王太子としての仕事は大丈夫なのかと心配にもなってくる。しかし周囲が何も文句を口にしていない辺り、そこらへんはしっかりとしているのだろう。
「お嬢様、飴と鞭の使い分けがお上手ですね。これならば、レオナルド殿下を尻に敷くのも容易いでしょう」
近くにいたウィリアムの呟きに、突っ込みをいれたい衝動に駆られながら、どうにか我慢をする。レオナルドもウィリアムの呟きまでは聞き取れなかったみたいだ。そのことにほっとしつつ、レオナルドに手を振って鍛錬場へと歩みを進めた。
とは言いつつも、褒章を貰い受けたのは、討伐に同行をした一カ月後。容体がある程度回復し、レオナルドの許可を得て外を出歩けるようにはなったが、完全回復までには程遠く、完璧に回復するまで五カ月もの歳月をかけることとなってしまった。
その上、王太子妃になることが確定したため、容体の回復を待ちながら、王太子妃になるための勉強が始まった。このことによって、エマの部屋がレオナルドの私室の続き部屋――つまりは王太子妃専用の部屋――へと移り変わった。
もちろん療養中の体に負担をかけては元も子もないので、少しずつの勉強となる。それでも五年前までは勉強をしていたので、一から覚えるというよりは復習といった感じに近い。そんなこともあって、暇を持て余すことも体に負担をかけることもなく、日々が過ぎていった。
「エマ、本当に出勤するの? まだ休んでいてもいいんだよ?」
ここ数カ月身に纏っていたドレスではなく、治癒魔法師の制服に身を包んだエマに、公務で忙しいはずのレオナルドがわざわざ部屋を訪ねて止めにかかってきていた。
「今日の朝食の時も言ったはずよ。私は王太子妃になっても治癒魔法師を続けるって。きちんとライアン様の許可も頂いているわ」
王太子妃の部屋に移り変わってからは、朝食と夕食は必ず一緒に摂っていた。その際に必ずと言っていいほどレオナルドが止めにかかってきたので、エマは今と同じような言葉を毎回返していた。
「そうだけど……。やっぱり心配なんだよ」
「大丈夫よ。むしろ治癒魔法として魔力を外に出した方が体には良いんだもの。それにウィリーもついてきてくれるから何も心配いらないわよ?」
膨大な量に増えた魔力は、少しずつ回復していく過程で、どうにか制御をするのに成功した。しかしまだその膨大な魔力に体が慣れておらず、たまに体が辛い時があるのもまた事実だ。だから治癒魔法として体外に放出した方が体には良いのだ。
それにただでさえ治癒魔法師は数が少ない。王太子妃になる身としては、治癒魔法師を止めるべきなのだろうが、体のことや治癒魔法師の人数のことを考えると、続けた方が良いという結論に至った。その考えはライアンも同じだったらしく、王太子妃の公務をしていく上で日数を減らさなければならないものの、王太子妃の侍従となったウィリアムを連れていくことで、続けることを了承してくれた。
「そこが問題なんだよ。僕以外の男と二人きりになるなんて……ウィリアムが羨ましい」
「そんなこと言われても……。相手はウィリーよ? 私にとっては兄のような存在だし……、ねぇウィリー?」
「はい。お嬢様に兄のようだと感じていただけて、私は嬉しく思います。決して邪な思いはありませんよ。兄のように近しい存在なだけ、ですので」
「そ、こ、が、問題なんだよ!!」
「もうウィリー! 火に油を注ぐようなことはしないでちょうだい。それにレオも挑発に乗らないで。兄のような存在と恋人は違うでしょう?」
エマにとってウィリアムは兄のようなもの、つまりは家族だ。そんなウィリアムに恋心を抱くはずもない。なによりレオナルドと半年後には挙式を上げることが決まっている。それでも心配をするのだから、エマにはどうしていいのか分からなかった。
二人が顔を合わせるたびに、子供のような喧嘩が勃発するので、そのたびにエマはため息をついていた。
「そうだとしても、エマが心配なんだよ!」
「レオナルドの殿下は心配し過ぎですよ」
心配の原因はエマ本人。どうにかしようにも、どうにもならないのが現状だ。もう一度ため息をつき、自分で扉を開けてレオナルドの方へ振り返る。
「私はこの国の治癒魔法師よ。誰が何と言っても、私は治癒魔法師として仕事をするわ。レオとの再婚約を認めてくれたのだって、この仕事をしていたからなのよ?」
「それはそうだけど……」
「どうしても心配というのなら、仕事を見に来ればいいわ。今日の午前中は鍛錬場での仕事だから。ああ、もちろんレオの仕事が終わってからじゃないとダメよ?」
心配ならばその目で確かめればいい。言外にそう言えば、その手があったかとレオナルドが目を輝かせた。だから仕事が終わってから、という条件を慌てて付け加える。
「もちろんだよ! エマ、頑張って仕事を終わらせていくから、待っていて」
昨日までエマの傍を離れたくないと駄々をごねていた人物とは思えない発言だ。同時に王太子としての仕事は大丈夫なのかと心配にもなってくる。しかし周囲が何も文句を口にしていない辺り、そこらへんはしっかりとしているのだろう。
「お嬢様、飴と鞭の使い分けがお上手ですね。これならば、レオナルド殿下を尻に敷くのも容易いでしょう」
近くにいたウィリアムの呟きに、突っ込みをいれたい衝動に駆られながら、どうにか我慢をする。レオナルドもウィリアムの呟きまでは聞き取れなかったみたいだ。そのことにほっとしつつ、レオナルドに手を振って鍛錬場へと歩みを進めた。
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