サキュバスちゃんは、今度こそ人生を謳歌したい

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第九話

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「当たり前だろう。仲間なんだから」

 グレイストは、リディアリアの頭を乱暴に撫でた。その手はルナによってすぐに剥がされてしまったが、グレイストは何も気にしていないようだった。

「まあしかし、リディアリア。今のお前の立場は正直とても危うい。七貴族【色欲】の名を持っていることも、あの戦争の功労者だとも知らないやつが大勢いるからだ。現状、【色欲】の名は空席だと信じている者も多い。調べればすぐにわかることではあるがな。反感の声がここまで抑えられているのは、上層部がお前のことを知っていて、尚且つライトニングという義父が盾の役割をしてくれているからだ。とはいっても、結婚式で大々的に戦争の功績と七貴族【色欲】として発表されるんだ。それまでは周囲に気をつけろよ」

「心配ありがとうございます」

 今回のグレイストの新人の長い鼻を折ってやれ、という言葉には二つの意味合いがあったことに気づいた。一つは単純に、自身の力を過信し過ぎていることを気づかせれやれということ。もう一つは妃の名が飾りではないことを証明してやれということだ。

 もっとも、結婚式まで一カ月もない。これはリディアリアが目覚めたらすぐにでも行いたいというディティラスの主張からきたものだったらしく、いつ目覚めてもいいように何年も前から少しじつ準備がされていたからだ。

 結婚式までそれほど日数がないとはいえど、スノウマリーのように反対派がいるのもまた事実。彼女らがリディアリアになにかをしでかす前に、本当は実力があるのだと見せつけろということなのだろう。

「ただ、ライトニングからはまだ魔法をあまり使うなといわれてまして。魔法なしでの戦闘でもよろしいですか?」

 もちろん使えないわけではない。ただ使うたびに、魔核に負担がかかるためライトニングから緊急事態以外は使用を禁止されているのだ。

 あれから魔核の治療をライトニングと調べているのだが、これといったものが見つからずいまだに八方ふさがり状態なのである。

「それは構わん。では、こちらも魔法なしでの戦闘にしよう」

「お願いします。人数はどうされますか? 私としては何人でも構わないのですが」

「今年入ってきた新人六名の相手をしてもらいたい。……一度でいけるか?」

「誰にものをいっていると思っているのですか? サキュバスといえど、ライトニングに護身術という名目で訓練を受けた身。そこらの上級魔族には負けませんよ」

 ヒーリィであるライトニングは治癒魔法を得意とするが、攻撃魔法の心得はない。だから己を守るために武術を磨いていた。それはサキュバスであるリディアリアも同じこと。義父であるライトニングに護身術どころか騎士以上にみっちりとしごかれたので、腕には多少の自信がある。

「期待している」

 そうして、グレイストは鍛錬場にいる六人の名前を呼んだ。剣と剣がぶつかり合う音や、剣を振るときの発声。何十人もの魔族が音という音を出しているにも関わらず、グレイストの声はきちんと六人の耳に届いていた。そのことに感嘆をしていると、グレイストの前に六人の魔族が整列した。

「お呼びでしょうか? グレイスト様」

 六人のうち、リーダー格であろう青年が声をあげた。

「ああ。お前らには今日、リディアリア様と試合をしてもらう」

「リディアリア様といえば、魔王様の妃であられる……?」

 驚き、見開いた目でグレイストが指名したリディアリアの方に振り向いた。その目は、ありえないとう感情がありありとこもっていた。目は口ほどにものを語るとはまさにこのことだ。

「不束者ではありますが、よろしくお願いしますね」

 けれどそれに気づかないふりをして、リディアリアは微笑んだ。

「知っているとは思うが、リディアリア様は魔王様の妃である前にライトニング様の義娘。ずっと眠りについていたこともあって、本日の試合は互いに魔法なしでの戦闘になるが、それでも手強い相手だ。決して気を抜くな」

「……はい」

 納得がいかないのだろうが、そこは仕方がない。

 なにせ、ずっと眠っていたサキュバスの女と試合をするのだ。サキュバスは本来戦闘に向かない種族。それを彼らも知っているからこその反応だろう。しかしこれは彼らの長い鼻を折るための試合でもある。彼らの気持ちを考慮する必要はない。

「この試合、六人でかかってきて構いません。もちろん相手は私一人。総隊長のグレイストも、侍女のルナにも手出しはさせませんわ。こうみえて私、上級魔族以上の実力は持ち合わせておりますの」

 それとなく実力はあるのだと、上級魔族以上と口にしてみる。

 ここで勘がするどい者なら、以上、という単語に気にしてみせるのだろうが、あいにくここにいる六人は気づかなかったようだ。

「なっ……。我々六人は新人といえど、騎士です。同じ上級魔族の女性といえど六対一で戦うなど……」

 おそらく彼なりの矜持もあるのだろう。だけどそれを考慮してあげる必要はない。

 それに彼らは知らない。リディアリアはグレイストの言葉を信じるなら、まだ七貴族。彼らよりは幾分か実力は上のはずだ。七貴族であることや、戦争の功績は一カ月後の結婚式で発表予定であることから、今それを敢えて訂正することはしないが。

「私はライトニングを師として武術を嗜んでいます。遠慮などいりません」

「ですが……」

「それでも戦いたくないというのであれば、条件をつけましょう。この試合は魔法使用はなし。しかし攻撃の手段はなんでもありというルールをつけます。これで貴方方が私に勝てたのならば、騎士団の隊長に推薦してさしあげます」

 もちろん、隊長になるには魔王や総隊長の認可が必要となる。いくらリディアリアが妃といえど、推薦などできるはずがない。だからこれはただのハッタリだ。このハッタリを貫けば、嘘だとバレないのだから、リディアリアが試合で勝てばいいだけの簡単な話。実に単純明快なことだ。

「そのようなこと、簡単に約束してしまってよろしいのですか?」

「ええ、もちろん。これで私と試合してくれますか?」

「負けても知らないですよ?」

「望むところです」

 会話をしていない他の五人も、隊長という席に目が眩んだのか、やる気に満ち溢れていた。

「話はまとまったな。ここでは狭いので、他の鍛錬場に行く。ついてこい」

 そうして、グレイストは満足そうにリディアリアたちを別の鍛錬場に案内した。

 案内されたのは、先程までいた鍛錬場の十分の一ほどの広さの鍛錬場だった。それでも十分に走り回れる広さはある。リディアリアが怪我の防止のために念入りにストレッチする間に、ルナが練習用の得物を持ってきてくれた。

 その得物は槍。初めて使うものなので、手に馴染んではいないが、振り回した感じでは問題なさそうだ。

 新人騎士たちはそれぞれ、大剣や双剣など己が一番使いやすい武器を手にしていた。もちろん騎士といっても、得物は自由だ。だからリディアリアが槍を持っていても、不満を口にしなかった。

「互いに準備は整ったか?」

「はい」

 六人の気合いの入った声と、リディアリアの声が重なり返事をする。

「では、試合を開始する。――始めっ!!」
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