18 / 33
第十八話
しおりを挟む
現場が近づくにつれ、血の臭いが濃くなっていく。大量の血が草花に付着しており、冷たくなった動物の死骸があちらこちらに転がっていた。それを横目にルナの後を追っていくと、だんだんと女性と男性の言い争う声がリディアリアにも聞こえるようになってきた。
ルナに止まるよう指示され、相手から見えないように木々の中へ身を隠す。そして息を殺しながら、相手の様子を窺うためにこっそりと木々の間から視線をやると、そこには思いもよらぬ姿があった。
男性の方は見覚えがなかったが、この場にそぐわない華美な恰好をしている女性には見覚えがある。
(スノウマリー?)
そう、そこにはスノウマリーの姿があった。
二人はリディアリアたち三人が近くにいることに気づかず、話をし続けていた。
「アスト、これはどういうことなの? こんなこと私は聞いてないわ」
男性の名前はアスト、というらしい。スノウマリーはアストに胸元を掴み抗議をしているようだった。対してアストはそれを鬱陶しそうに払いのけると、服を整える。アストの顔は背を向けているせいで瞳の色がわからず、魔族なのか人族なのか判別できない。けれど次のスノウマリーの言葉でアストが人族であることが判明した。
「アストいったじゃない。半人半魔の妹が完全な魔族になるには一度魔核を取り出す必要があるって。だから私は……」
(半人半魔? スノウマリーの妹が?)
戦争が終結した今、人族と魔族、互いの国への行き来も増えてきた。だから十歳以下の半人半魔もいないことはないという。それでも半人半魔は稀な存在だ。リディアリアも深い眠りから目覚めてから、一度も出会ったことがない。
そんな稀な存在がスノウマリーの妹なのか。
リディアリアはスノウマリーに対して、良い感情を持ったことがなかった。初対面では飾りの妃だと馬鹿にされ、新人騎士と試合をしたあとに弱みを知っているかのように探してきたからだ。
だというのに、今のスノウマリーは違う。妹のために必死になっていた。
「どういうこと?」
リディアリアを見下し、鬼の形相で探したスノウマリーは一体なんだったのか。
スノウマリーを観察していると、ルナがスノウマリーたちに聞こえない小さな声で耳打ちしてきた。
「リディアリア様、少しよろしいですか?」
コクリと頷くリディアリアに、ルナが事情を説明してくれた。
「スノウマリーにはスノウリリィという八歳になる異母妹がいます。スノウマリーの母親は十三年前に戦争で亡くなり、今の義母は戦争で怪我をしていたところをスノウマリーが保護、その後父親と結婚しスノウリリィが生まれたらしいのです」
にわかには信じられない話に、目を丸くする。
(あのスノウマリーが……?)
リディアリアが知るスノウマリーとは別人物のようだ。
「魔王城に働きに来たときにはすでにあの態度でしたので、誰もこのような過去があるとは思わなかったでしょうね。私もスノウマリーがリディアリア様に突っかかってくるまで調べもみませんでしたし……」
スノウマリーがあのような態度をとるのには何か理由でもあるのだろうか。
そんなことを考えていると、スノウマリーが男性に思い切り突き飛ばされているのが目に入った。
「俺ァ、そんなこといった覚えはねぇなあ。たとえいったとしても、そりゃあ騙されたお前さんが悪ィ」
「いったわ! だから私はスノウリリィをここに連れてきたのよ!!」
華美なドレスが土や血に塗れようと、気にせずアストに食いつくその姿は、どうみても妹を想う姉の姿だった。
「義母様のお兄様だから、私は信じたのよ。なのに妹が魔物になるだなんて……」
(つまり人族の伯父に騙されて、妹の魔核を奪われ、魔物にされてしまったということ?)
それはあまりにも残酷な話だ
成人した魔族なら誰もが知っている常識。それを二十歳のスノウマリーが知らなかったのは、まだ成人をしてそれほど日にちが経っていないからなのだろう。もう少しアストが話を持ち掛けるのが遅ければ、見抜ける嘘だった。けれどそれができなかったのは、アストが未成年は魔物が実は元魔族なのだと知らない、という情報を知っていたからなのかもしれない。
ふつふつと、心に怒りが沸き上がる。
(こんなことっ、あんまりだ!)
正直、スノウマリーのことは好きでもない。けれどそれとこれとは別の話。
魔族は実族よりもかなり出生率が低い。その分、何よりも同族を大切にする。その同族を魔物に変えられたとあっては、怒りが沸かない方が無理だろう。
「リディアリア、抑えなさい」
沸点が低く、喧嘩早い。そんなリディアリアの性格を熟知しているライトニングが、注意を促す。一度はライトニングの言葉を聞いて、気持ちを落ち着けようと思ったが、次のアストの言葉を聞いて気が変わってしまった。
「まあ俺ァ、大満足だぜ? なんせ、滅多に手に入らねえ魔核が、こうも簡単に手に入っちまったんだからなァ? これで一生遊んで暮らせる」
その手元には赤い宝石のような物が握られていた。血のように真っ赤で、思わず魅入ってしまうくらい、綺麗な輝きを放つそれは、魔族の大切な魔核だった。
「返して、それは妹のよ!!」
「いんや、これは俺ンのだ。欲しいンなら、力づくで取り返すこったな!」
「なっ」
「こんな危ないところにわざわざ話を来てやったんだ。土産ももらわねぇと、なっ!!」
アストはそういうやいなや、持っていた短剣を抜き、スノウマリーに襲い掛かった。明らかに命を狙った行為。土産というのだから、話し合いする気もなくスノウマリーの魔核を狙ってわざわざ来たのだろう。
(本当に最低)
スノウマリーは地面に尻をついて、反撃もままならない状態。
それを見て見ぬフリなんてできそうになかった。
「ごめん」
リディアリアは一言置いて残すと、その場から投げナイフを放った。
ルナに止まるよう指示され、相手から見えないように木々の中へ身を隠す。そして息を殺しながら、相手の様子を窺うためにこっそりと木々の間から視線をやると、そこには思いもよらぬ姿があった。
男性の方は見覚えがなかったが、この場にそぐわない華美な恰好をしている女性には見覚えがある。
(スノウマリー?)
そう、そこにはスノウマリーの姿があった。
二人はリディアリアたち三人が近くにいることに気づかず、話をし続けていた。
「アスト、これはどういうことなの? こんなこと私は聞いてないわ」
男性の名前はアスト、というらしい。スノウマリーはアストに胸元を掴み抗議をしているようだった。対してアストはそれを鬱陶しそうに払いのけると、服を整える。アストの顔は背を向けているせいで瞳の色がわからず、魔族なのか人族なのか判別できない。けれど次のスノウマリーの言葉でアストが人族であることが判明した。
「アストいったじゃない。半人半魔の妹が完全な魔族になるには一度魔核を取り出す必要があるって。だから私は……」
(半人半魔? スノウマリーの妹が?)
戦争が終結した今、人族と魔族、互いの国への行き来も増えてきた。だから十歳以下の半人半魔もいないことはないという。それでも半人半魔は稀な存在だ。リディアリアも深い眠りから目覚めてから、一度も出会ったことがない。
そんな稀な存在がスノウマリーの妹なのか。
リディアリアはスノウマリーに対して、良い感情を持ったことがなかった。初対面では飾りの妃だと馬鹿にされ、新人騎士と試合をしたあとに弱みを知っているかのように探してきたからだ。
だというのに、今のスノウマリーは違う。妹のために必死になっていた。
「どういうこと?」
リディアリアを見下し、鬼の形相で探したスノウマリーは一体なんだったのか。
スノウマリーを観察していると、ルナがスノウマリーたちに聞こえない小さな声で耳打ちしてきた。
「リディアリア様、少しよろしいですか?」
コクリと頷くリディアリアに、ルナが事情を説明してくれた。
「スノウマリーにはスノウリリィという八歳になる異母妹がいます。スノウマリーの母親は十三年前に戦争で亡くなり、今の義母は戦争で怪我をしていたところをスノウマリーが保護、その後父親と結婚しスノウリリィが生まれたらしいのです」
にわかには信じられない話に、目を丸くする。
(あのスノウマリーが……?)
リディアリアが知るスノウマリーとは別人物のようだ。
「魔王城に働きに来たときにはすでにあの態度でしたので、誰もこのような過去があるとは思わなかったでしょうね。私もスノウマリーがリディアリア様に突っかかってくるまで調べもみませんでしたし……」
スノウマリーがあのような態度をとるのには何か理由でもあるのだろうか。
そんなことを考えていると、スノウマリーが男性に思い切り突き飛ばされているのが目に入った。
「俺ァ、そんなこといった覚えはねぇなあ。たとえいったとしても、そりゃあ騙されたお前さんが悪ィ」
「いったわ! だから私はスノウリリィをここに連れてきたのよ!!」
華美なドレスが土や血に塗れようと、気にせずアストに食いつくその姿は、どうみても妹を想う姉の姿だった。
「義母様のお兄様だから、私は信じたのよ。なのに妹が魔物になるだなんて……」
(つまり人族の伯父に騙されて、妹の魔核を奪われ、魔物にされてしまったということ?)
それはあまりにも残酷な話だ
成人した魔族なら誰もが知っている常識。それを二十歳のスノウマリーが知らなかったのは、まだ成人をしてそれほど日にちが経っていないからなのだろう。もう少しアストが話を持ち掛けるのが遅ければ、見抜ける嘘だった。けれどそれができなかったのは、アストが未成年は魔物が実は元魔族なのだと知らない、という情報を知っていたからなのかもしれない。
ふつふつと、心に怒りが沸き上がる。
(こんなことっ、あんまりだ!)
正直、スノウマリーのことは好きでもない。けれどそれとこれとは別の話。
魔族は実族よりもかなり出生率が低い。その分、何よりも同族を大切にする。その同族を魔物に変えられたとあっては、怒りが沸かない方が無理だろう。
「リディアリア、抑えなさい」
沸点が低く、喧嘩早い。そんなリディアリアの性格を熟知しているライトニングが、注意を促す。一度はライトニングの言葉を聞いて、気持ちを落ち着けようと思ったが、次のアストの言葉を聞いて気が変わってしまった。
「まあ俺ァ、大満足だぜ? なんせ、滅多に手に入らねえ魔核が、こうも簡単に手に入っちまったんだからなァ? これで一生遊んで暮らせる」
その手元には赤い宝石のような物が握られていた。血のように真っ赤で、思わず魅入ってしまうくらい、綺麗な輝きを放つそれは、魔族の大切な魔核だった。
「返して、それは妹のよ!!」
「いんや、これは俺ンのだ。欲しいンなら、力づくで取り返すこったな!」
「なっ」
「こんな危ないところにわざわざ話を来てやったんだ。土産ももらわねぇと、なっ!!」
アストはそういうやいなや、持っていた短剣を抜き、スノウマリーに襲い掛かった。明らかに命を狙った行為。土産というのだから、話し合いする気もなくスノウマリーの魔核を狙ってわざわざ来たのだろう。
(本当に最低)
スノウマリーは地面に尻をついて、反撃もままならない状態。
それを見て見ぬフリなんてできそうになかった。
「ごめん」
リディアリアは一言置いて残すと、その場から投げナイフを放った。
0
あなたにおすすめの小説
あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される
古紫汐桜
恋愛
婚約者の裏切りを目撃し、命を落とした“私”が目を覚ましたのは、
見知らぬ貴族令嬢の身体の中だった。
そこは、誰かの悪意によって評判を地に落とした世界。
かつて“あざとさ”で生きていた彼女の代わりに、
私はその人生を引き受けることになる。
もう、首を揺らして媚びる生き方はしない。
そう決めた瞬間から、運命は静かに歪み始めた。
冷酷と噂される若公爵ユリエル。
彼もまた、自らの運命に抗い続けてきた男だった。
そんな彼が、私にだけ見せた執着と溺愛。
選び直した生き方の先で待っていたのは、
溺れるほどの愛だった。
あざとさを捨てた令嬢と、運命に翻弄される若公爵。
これは、“やり直し”では終わらない、致命的な恋の物語。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません
綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」
婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。
だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。
伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。
彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。
婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。
彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。
真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。
事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。
しかし、リラは知らない。
アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。
そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。
彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。
王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。
捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。
宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――?
※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。
物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。
【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! -
文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。
美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。
彼はいつも自分とは違うところを見ている。
でも、それがなんだというのか。
「大好き」は誰にも止められない!
いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。
「こっち向いて! 少尉さん」
※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。
物語の最後の方に戦闘描写があります。
【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。
朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる