17 / 581
事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】
4
しおりを挟む
【2】
「現場は仙道市の河川敷。手口から考えて殺人蜂の仕業の可能性が高い。おら、尾崎。もっと飛ばせ!」
通報の連絡が入ったのは、たまたま部下と一緒に昼飯を食べ終えて覆面パトカーに乗り込んだ時のことだった。殺人蜂を警戒して、覆面パトカーによる巡回を強化していたというのに、またしてもやられてしまったようだ。
「そんなこと言っても、公道でこれ以上出したらやべぇっすよ! サイレンを鳴らしていても、避けてくれねぇ人なんて馬鹿みたいにいるんすから!」
ハンドルにしがみつくようにしながら、倉科の部下である尾崎裕二が目を血走らせる。スピード計はすでに時速三桁を越えており、充分にスピードが出ていた。やけに遅いと感じてしまうのは、倉科の焦りが前面に出てしまっているからだろうか。
緊急車輌は、緊急時において法規を越えた権限を持つことができる。ただ、それにだって限界があるわけであり、しかも公道には一般の車も走っているため、あまり無茶はできない。車はある程度の節操を持っているが、実のところ歩行者というものは、驚くほどに緊急車輌に対して疎かったりする。スクランブル交差点に進入する際でも、青信号だという理由だけで、渡ってしまう歩行者が多いのだから。
尾崎と倉科はコンビを組むことが多かった。特に理由はないはずなのだが、妙に相性がいいというか、巡り合わせがいいというか――。できることならば、もう少しきっちりした部下と行動を共にしたいものだ。
そんな尾崎は、刑事だというのに髪を長く伸ばし、それを後ろでひとつにまとめるという女みたいな髪型をしている。体育会系の大学を出た後に警察学校に入ったらしく、その喋り方は未だに社会人の合格ラインには達していなかった。どれだけ注意しても治らないため、もう諦めている。
街中を恐ろしいほどの速度で駆け抜ける含めパトカー。サイレンの音が耳の中で反響するせいか、頭が痛くなりそうだ。いいや、例の殺人鬼と接触したというのに、新たな犠牲者が出てしまったかもしれないという事実が、倉科の頭痛の原因なのかもしれない。
「とにかく、こいつが殺人蜂の仕業だったとしたら、いよいよ警察の威信にかかってくるぞ。尾崎、分かってるな?」
「だからって無謀な運転はできねえっす! それに、急がなくても他の署員が駆けつけてるっしょ!」
急かさせる尾崎には申し訳ないが、倉科は立場的に居ても立っても居られない状態だった。上から面倒な役割を押し付けられているからこそ、こうもやきもきしなければならないのだ。もちろん、尾崎はそのことを知らない。そう、倉科には0.5係という特殊な役割があることを――。
「現場は仙道市の河川敷。手口から考えて殺人蜂の仕業の可能性が高い。おら、尾崎。もっと飛ばせ!」
通報の連絡が入ったのは、たまたま部下と一緒に昼飯を食べ終えて覆面パトカーに乗り込んだ時のことだった。殺人蜂を警戒して、覆面パトカーによる巡回を強化していたというのに、またしてもやられてしまったようだ。
「そんなこと言っても、公道でこれ以上出したらやべぇっすよ! サイレンを鳴らしていても、避けてくれねぇ人なんて馬鹿みたいにいるんすから!」
ハンドルにしがみつくようにしながら、倉科の部下である尾崎裕二が目を血走らせる。スピード計はすでに時速三桁を越えており、充分にスピードが出ていた。やけに遅いと感じてしまうのは、倉科の焦りが前面に出てしまっているからだろうか。
緊急車輌は、緊急時において法規を越えた権限を持つことができる。ただ、それにだって限界があるわけであり、しかも公道には一般の車も走っているため、あまり無茶はできない。車はある程度の節操を持っているが、実のところ歩行者というものは、驚くほどに緊急車輌に対して疎かったりする。スクランブル交差点に進入する際でも、青信号だという理由だけで、渡ってしまう歩行者が多いのだから。
尾崎と倉科はコンビを組むことが多かった。特に理由はないはずなのだが、妙に相性がいいというか、巡り合わせがいいというか――。できることならば、もう少しきっちりした部下と行動を共にしたいものだ。
そんな尾崎は、刑事だというのに髪を長く伸ばし、それを後ろでひとつにまとめるという女みたいな髪型をしている。体育会系の大学を出た後に警察学校に入ったらしく、その喋り方は未だに社会人の合格ラインには達していなかった。どれだけ注意しても治らないため、もう諦めている。
街中を恐ろしいほどの速度で駆け抜ける含めパトカー。サイレンの音が耳の中で反響するせいか、頭が痛くなりそうだ。いいや、例の殺人鬼と接触したというのに、新たな犠牲者が出てしまったかもしれないという事実が、倉科の頭痛の原因なのかもしれない。
「とにかく、こいつが殺人蜂の仕業だったとしたら、いよいよ警察の威信にかかってくるぞ。尾崎、分かってるな?」
「だからって無謀な運転はできねえっす! それに、急がなくても他の署員が駆けつけてるっしょ!」
急かさせる尾崎には申し訳ないが、倉科は立場的に居ても立っても居られない状態だった。上から面倒な役割を押し付けられているからこそ、こうもやきもきしなければならないのだ。もちろん、尾崎はそのことを知らない。そう、倉科には0.5係という特殊な役割があることを――。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる