縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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「――頭がおかしいとしか思えんな。ただ、こいつから全く犯人に繋がる証拠が出てこんのだから、ただの馬鹿ってわけでもないんだよなぁ」

 証拠品を確認した倉科は、そのまま部下へと手渡さずに、近くにいた鑑識係を呼んで返した。

 毎度のように被害者の口の中に詰め込まれているポエム。その内容は毎回異なっているものの、恋愛絡みのようなものばかりだ。どうして、こんなものを残したがるのか神経を疑いたくなるが、しかし面白いほどに犯人に繋がる証拠が出てこないのだ。

 ルーズリーフそのものは、大手の文房具メーカーが出している汎用品はんようひん。コンビニやスーパー、ネットなどでも簡単に手に入るものだ。使用されているのはボールペンのようなものであるが、これもまた市場に流通している一般的なものだという話だ。筆跡をごまかすためか、定規を使ったカクカクの文字が使用されているため、筆跡鑑定もできない。ここまで入念なことをやるやつだから、指紋も当然ながら出てこない。

「本当っすよねぇ。これで五人目っす、五人目――。どれだけ殺せばあいつは気が済むんすか? ねぇ、縁もそう思うっすよね?」

 ふと、背後に気配を感じて振り返ると、尾崎とキャリアの姿があった。さっさと現場からキャリアを引き離せと指示を出したはずなのに、どうやら倉科の背中越しに仏さんとの対面を果たしたらしい。倉科が気付かなかっただけなのか、それとも二人が気配を消すのが上手かったのか。後者ならば、それを他のことに役立てろと言いたい。

「お、尾崎。お前何やってるんだ。さっさとキャリアを――」

 そう倉科が言った瞬間、真っ青な顔をしたキャリアが口元に手を当てた。ボブカットというのだろうか、肩に届かない程度の長さの髪に、整った顔立ち。少なくとも美人の部類に入るであろうキャリアの顔が、間抜けなほどに歪んだ。

「馬鹿っ! ここは現場だぞ。分かってんのかキャリアっ!」

 倉科が声を上げたが、時すでに遅し。キャリアは川のすぐそばまで駆け出すと、川を覗き込むように這いつくばって、思い切りえずき始めた。その場にいた一同が、思わず顔を背ける。倉科は大きな溜め息を漏らす。

「……尾崎、それが終わったらさっさとキャリアを署に返品しろ。後で始末書も忘れずにな」

 嘔吐おうとすることによって現場を荒らすなんて、それこそテレビドラマの中だけにして欲しい。血やら死体を見るのが苦手ならば、どうしてキャリアは刑事なんて仕事を望んだのであろうか。こんな下らないことで始末書を書かせなければならない身にもなって欲しいものだ。

「えっ? 自分がっすか? 自分、何もしてねぇっす! とんだ濡れ衣っすよ!」
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