21 / 581
事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】
8
しおりを挟む
「――頭がおかしいとしか思えんな。ただ、こいつから全く犯人に繋がる証拠が出てこんのだから、ただの馬鹿ってわけでもないんだよなぁ」
証拠品を確認した倉科は、そのまま部下へと手渡さずに、近くにいた鑑識係を呼んで返した。
毎度のように被害者の口の中に詰め込まれているポエム。その内容は毎回異なっているものの、恋愛絡みのようなものばかりだ。どうして、こんなものを残したがるのか神経を疑いたくなるが、しかし面白いほどに犯人に繋がる証拠が出てこないのだ。
ルーズリーフそのものは、大手の文房具メーカーが出している汎用品。コンビニやスーパー、ネットなどでも簡単に手に入るものだ。使用されているのはボールペンのようなものであるが、これもまた市場に流通している一般的なものだという話だ。筆跡をごまかすためか、定規を使ったカクカクの文字が使用されているため、筆跡鑑定もできない。ここまで入念なことをやるやつだから、指紋も当然ながら出てこない。
「本当っすよねぇ。これで五人目っす、五人目――。どれだけ殺せばあいつは気が済むんすか? ねぇ、縁もそう思うっすよね?」
ふと、背後に気配を感じて振り返ると、尾崎とキャリアの姿があった。さっさと現場からキャリアを引き離せと指示を出したはずなのに、どうやら倉科の背中越しに仏さんとの対面を果たしたらしい。倉科が気付かなかっただけなのか、それとも二人が気配を消すのが上手かったのか。後者ならば、それを他のことに役立てろと言いたい。
「お、尾崎。お前何やってるんだ。さっさとキャリアを――」
そう倉科が言った瞬間、真っ青な顔をしたキャリアが口元に手を当てた。ボブカットというのだろうか、肩に届かない程度の長さの髪に、整った顔立ち。少なくとも美人の部類に入るであろうキャリアの顔が、間抜けなほどに歪んだ。
「馬鹿っ! ここは現場だぞ。分かってんのかキャリアっ!」
倉科が声を上げたが、時すでに遅し。キャリアは川のすぐそばまで駆け出すと、川を覗き込むように這いつくばって、思い切りえずき始めた。その場にいた一同が、思わず顔を背ける。倉科は大きな溜め息を漏らす。
「……尾崎、それが終わったらさっさとキャリアを署に返品しろ。後で始末書も忘れずにな」
嘔吐することによって現場を荒らすなんて、それこそテレビドラマの中だけにして欲しい。血やら死体を見るのが苦手ならば、どうしてキャリアは刑事なんて仕事を望んだのであろうか。こんな下らないことで始末書を書かせなければならない身にもなって欲しいものだ。
「えっ? 自分がっすか? 自分、何もしてねぇっす! とんだ濡れ衣っすよ!」
証拠品を確認した倉科は、そのまま部下へと手渡さずに、近くにいた鑑識係を呼んで返した。
毎度のように被害者の口の中に詰め込まれているポエム。その内容は毎回異なっているものの、恋愛絡みのようなものばかりだ。どうして、こんなものを残したがるのか神経を疑いたくなるが、しかし面白いほどに犯人に繋がる証拠が出てこないのだ。
ルーズリーフそのものは、大手の文房具メーカーが出している汎用品。コンビニやスーパー、ネットなどでも簡単に手に入るものだ。使用されているのはボールペンのようなものであるが、これもまた市場に流通している一般的なものだという話だ。筆跡をごまかすためか、定規を使ったカクカクの文字が使用されているため、筆跡鑑定もできない。ここまで入念なことをやるやつだから、指紋も当然ながら出てこない。
「本当っすよねぇ。これで五人目っす、五人目――。どれだけ殺せばあいつは気が済むんすか? ねぇ、縁もそう思うっすよね?」
ふと、背後に気配を感じて振り返ると、尾崎とキャリアの姿があった。さっさと現場からキャリアを引き離せと指示を出したはずなのに、どうやら倉科の背中越しに仏さんとの対面を果たしたらしい。倉科が気付かなかっただけなのか、それとも二人が気配を消すのが上手かったのか。後者ならば、それを他のことに役立てろと言いたい。
「お、尾崎。お前何やってるんだ。さっさとキャリアを――」
そう倉科が言った瞬間、真っ青な顔をしたキャリアが口元に手を当てた。ボブカットというのだろうか、肩に届かない程度の長さの髪に、整った顔立ち。少なくとも美人の部類に入るであろうキャリアの顔が、間抜けなほどに歪んだ。
「馬鹿っ! ここは現場だぞ。分かってんのかキャリアっ!」
倉科が声を上げたが、時すでに遅し。キャリアは川のすぐそばまで駆け出すと、川を覗き込むように這いつくばって、思い切りえずき始めた。その場にいた一同が、思わず顔を背ける。倉科は大きな溜め息を漏らす。
「……尾崎、それが終わったらさっさとキャリアを署に返品しろ。後で始末書も忘れずにな」
嘔吐することによって現場を荒らすなんて、それこそテレビドラマの中だけにして欲しい。血やら死体を見るのが苦手ならば、どうしてキャリアは刑事なんて仕事を望んだのであろうか。こんな下らないことで始末書を書かせなければならない身にもなって欲しいものだ。
「えっ? 自分がっすか? 自分、何もしてねぇっす! とんだ濡れ衣っすよ!」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる