縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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「馬鹿者、お前がさっさとキャリアを現場から離さんからだ。あいつに仏さんを見せればこうなることくらい分かるだろうが。連帯責任だ」

 尾崎がこの世の終わりであるかのような表情を見せる後ろで、恐らく昼飯を全部出し切ったであろうキャリアが、口元をおさえながら立ち上がり、倉科のほうに視線を向けてきた。本人は鋭い視線を向けてきているつもりなのだが、病人のような目で睨みつけられても何とも思わない。

「キャリアじゃありません。山本です……」

 縁はそう言うと、遺体を再び見てしまったのか、もう一度大きくえずいた。倉科が呆れているのは、遺体や血を見るのが苦手であるということではない。内勤を命じていたのに、わざわざそれを破ってまで現場におもむくからだ。そりゃ、キャリアと皮肉って呼びたくもなる。

「あー、分かった分かった。なぁ、山本。お前さんはキャリア組なんだ。現場なんて出なくてもな、いずれは俺よりも偉くなるんだよ。現場に出るのは下の連中の仕事で、お前さんはデスクワークさえこなせればいい。俺の言ってることが分かるか? わざわざ現場に出てくるなってことだ。汚れ仕事は俺達に任せておけばいい。なっ?」

 キャリアは自動的に出世する。現場を経験しておくのも結構なことではあるが、致命的な欠点があるのだから、わざわざ現場に赴いて、自分の評価を下げるような真似はしなくていい。現場を知らないキャリアなんて馬鹿みたいにいるんだし、刑事の仕事は現場だけにあるわけでない。適材適所――。遺体や血が苦手なのであれば、彼女は自分の得意分野を伸ばせばいいのだ。とにもかくにも、彼女の将来のためを考えるのであれば、大人しく内勤をさせておいたほうが良い。一応、倉科の親心のようなものであるが、どうやら縁には伝わっていないらしい。

「それはできません。現場のことを分かってこそ、人の上に立つ資格が……」

「あのな、だったらはっきり言ってやる。こうも毎度毎度現場を荒らされると迷惑なんだよ。いいか? 現場ってものはナマモノだ。そこには、その時にしか分からない重要な手がかりが転がっているかもしれないんだよ。荒らしたら二度と元には戻せないし、重要な手がかりだって逃してしまうかもしれない。もしかすると、お前さんがゲロを撒き散らしてくれたおかげで見逃された手がかりだって、これまであったのかもしれないんだぞ?」

 嫌われ役もまた、上司の仕事である。言っても聞かないのであれば、幾らでも嫌われ役になってやろうではないか。それが彼女のためになるのだから。
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