縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 やれることはたかが知れていると、二人を野放しにしておきながら、予想以上の成果が上がったら上がったで、それ以上の追求をさせない。ある意味、二人の自己満足的な部分が満たされれば――と許可した特別捜査本部ではあるが、これでは生殺しだ。保身に走るわけではないが、警察というものはスタンドプレーが許されるものではない。それこそ、捜査本部にさえ組み込まれていない人間が、勝手に捜査を進展させてしまうことなどあってはならないのである。なんだかんだで組織であり、面倒な部分が多いのだ。

「この案件は俺が捜査本部に上げておく。それで構わんな?」

 自分でも強引で身勝手だと思う。まるで手柄を横取りするような気がして嫌だった。しかし、こうするのがベストなことも間違いではなかった。分かりきっていたことであるが、尾崎は面白くなさそうに、ふくれっ面を見せる。縁も倉科の強引さに反発心を抱いているような表情だ。

「いいな?」

 それでも、多少の凄みを利かせて念を押すと、尾崎と縁は顔を見合わせて渋々と頷いた。その内心では、きっと倉科に対する不満感で満ちているのだろうが。

「山本、お前さんはこの一週間で何か掴めたのか?」

 話を切り替えようと、今度は縁へと話を振るが、彼女は尾崎から手渡されたパンフレットを閉じると「いえ、特に掴めたものはありません」と、どこか冷たい様子で呟いた。尾崎が掴んできた情報を、捜査本部として横取りをした後だ。何かしらの情報を掴んでいても、それを話す気にはなれないだろう。

「そうか――」

 きっかけを作ったのは倉科であるが、重苦しい空気が辺りに漂った。パンフレットを鞄に仕舞う縁と、相変わらず面白くなさそうな顔をしている尾崎――。視線が壁掛け時計へと行き、会議の終わりを倉科が告げるのは自然の流れだったのかもしれない。

「それでは、今日の会議はここまで。引き続き捜査を進めても構わないが、事前に俺に相談することを忘れんようにな」

 倉科はそう言い置くと、何よりも場の空気に耐え切れずに小会議室を後にした。尾崎と縁の視線が追いかけてきているような気がして、何だか引け目を感じてしまった。改めて喫煙所に向かい、ひしゃげてしまった煙草をくわえると、久方ぶりの紫煙しえんくゆらせる。

 まだまだ実験段階にすぎぬ0.5係。これがいずれ警察の中で市民権を獲得できるのであろうか――。ふわりと宙を舞った煙を目で追いかけながら、倉科は深い溜め息を漏らしたのであった。
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