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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】
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【5】
この辺りでは大きな駅になるため、相楽駅構内は昼間であるのに人の往来が多い。もっとも、都会の駅に比べれば規模は小さいし人の数もまばらである。都会暮らしをしていた経験のある縁だが、住めば都というべきか、こっちの感覚に随分と慣れてきたような気がする。
改札口を抜けると、先に到着していた尾崎が縁を見つけたのか、恥ずかしいくらいの大声で、しかも手を大きく振りながら駆けてきた。
「ゆーかーりー! 自分はここっす! ここにいるっすよー!」
そんなオーバーリアクションをしなくとも、尾崎は他の人に比べれば背も高いし、嫌でも目についてしまうのだから分かる。何事かと視線を送る周囲の人々に見守られつつ、縁と尾崎は無事に合流。あまりの視線の多さに他人のふりをしてやろうかとも考えたが、それを辛うじて堪えた。
「おはようございます、尾崎さん」
尾崎は非番ということもあり私服姿である。ただ、まるで運動場から抜け出してきたかのようなジャージ姿であり、間違っても刑事であるようには見えなかった。できる限り自然な服装で――ということは打ち合わせ済みであるが、まさかここまでラフな格好でくるとは思ってもいなかった。私服でありながら、そこまで派手目ではない服装をと、スキニージーンズと春先の肌寒さに合わせたカーディガンでやってきた縁。少しラフかもしれないと不安であったが、尾崎を見てそれが一瞬で吹き飛んだ。
「おはようっす!」
尾崎は無駄に元気な挨拶を返すと、縁の格好を見てぽつりと「縁、中々オシャンティーっす」と呟く。普段はタイトスカートとジャケットのきっちりした格好であるため、私服姿は新鮮に映ったのであろう。尾崎のジャージ姿だって、ある意味では新鮮に映っているのだから――。職場ではない場所で、こうして私服で落ち合うのは、なんだか妙な気分だった。
むろん、尾崎と同じく縁も非番である。こうして非番が被ることは珍しくなく、縁と尾崎が落ち合ったのは事前に約束をとりつけていたからだ。何の約束かといえば、もはや口にするまでもない。例の殺人蜂の事件を調べる――それに尽きる。
これ以上の踏み込んだ捜査はやめろと倉科に言われたものの、尾崎がせっかく新しい情報を――それこそ有力な手掛かりを掴んだのだ。それなのに手を出すなと言われて悶々としていた時に、尾崎が言い出したのだ。こうなったら個人として動くしかないと。その発想に驚きながらも、どこか賛同してしまった自分がいた。
この辺りでは大きな駅になるため、相楽駅構内は昼間であるのに人の往来が多い。もっとも、都会の駅に比べれば規模は小さいし人の数もまばらである。都会暮らしをしていた経験のある縁だが、住めば都というべきか、こっちの感覚に随分と慣れてきたような気がする。
改札口を抜けると、先に到着していた尾崎が縁を見つけたのか、恥ずかしいくらいの大声で、しかも手を大きく振りながら駆けてきた。
「ゆーかーりー! 自分はここっす! ここにいるっすよー!」
そんなオーバーリアクションをしなくとも、尾崎は他の人に比べれば背も高いし、嫌でも目についてしまうのだから分かる。何事かと視線を送る周囲の人々に見守られつつ、縁と尾崎は無事に合流。あまりの視線の多さに他人のふりをしてやろうかとも考えたが、それを辛うじて堪えた。
「おはようございます、尾崎さん」
尾崎は非番ということもあり私服姿である。ただ、まるで運動場から抜け出してきたかのようなジャージ姿であり、間違っても刑事であるようには見えなかった。できる限り自然な服装で――ということは打ち合わせ済みであるが、まさかここまでラフな格好でくるとは思ってもいなかった。私服でありながら、そこまで派手目ではない服装をと、スキニージーンズと春先の肌寒さに合わせたカーディガンでやってきた縁。少しラフかもしれないと不安であったが、尾崎を見てそれが一瞬で吹き飛んだ。
「おはようっす!」
尾崎は無駄に元気な挨拶を返すと、縁の格好を見てぽつりと「縁、中々オシャンティーっす」と呟く。普段はタイトスカートとジャケットのきっちりした格好であるため、私服姿は新鮮に映ったのであろう。尾崎のジャージ姿だって、ある意味では新鮮に映っているのだから――。職場ではない場所で、こうして私服で落ち合うのは、なんだか妙な気分だった。
むろん、尾崎と同じく縁も非番である。こうして非番が被ることは珍しくなく、縁と尾崎が落ち合ったのは事前に約束をとりつけていたからだ。何の約束かといえば、もはや口にするまでもない。例の殺人蜂の事件を調べる――それに尽きる。
これ以上の踏み込んだ捜査はやめろと倉科に言われたものの、尾崎がせっかく新しい情報を――それこそ有力な手掛かりを掴んだのだ。それなのに手を出すなと言われて悶々としていた時に、尾崎が言い出したのだ。こうなったら個人として動くしかないと。その発想に驚きながらも、どこか賛同してしまった自分がいた。
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