141 / 581
事例2 美食家の悪食【プロローグ】
4
しおりを挟む
恐らくは食材となった自分の指からあふれ出た赤い肉汁を、よだれと一緒に垂れ流しながら、狂いに狂った笑みを浮かべる化け物。口角は恐ろしいほどに吊りあがり、まるで口が裂けているかのようにも見えた。次々と野菜炒めを口に運び、そしてあっと言う間に平らげてしまうと、興奮したかのごとく声を上げる。
「う、う、う、うまーい! しんなりとしたキャベツの歯触りと、あえて火をあまり通さずに調理した、もやしのシャキシャキ感。にんじんのほんのりとした甘みが全体の味を引き締める。それでいて全体的に主張はせずに、メインの人肉の味を引き立てているぅ!」
再び化け物が馬乗りになり、少女は悍ましい光景を目の前にして意識がかすれる。いっそのこと意識を失ってしまったほうが楽なのに、あまりにもショッキングな出来事を目の当たりにして、むしろ神経は過敏になっていた。眠たいはずなのに、なぜだか全く寝ることができない――そんな奇妙な感覚だった。
「何よりも、食材となった人肉が素晴らしい! 野菜炒めには若い女の柔らかい指がいい。ほとんどの部分に火を通しておきながら、ほんの少しだけレアな部分を残すことでぇ、肉汁と一緒に生き血がしたたり、それが野菜炒めの味を全体的に引き締める。それぞれの食材がそれぞれの食材を引き立て、それでいてメインである人肉がしっかりと口の中で主張する。これほどに美味いものが、世の中にあるのか――。いいや、ない! これほどの至高の一品は、まず滅多にお目にはかかれなーい!」
またしても胃液が上がってきた。化け物は、自分の口の中に突っ込まれたものと同じものを口にして、グルメ番組さながらに料理を絶賛しているのだ。聞いているだけでも、気持ちの悪くなるレポートだった。
化け物が口元を袖で拭い、そして放り出していた鉈を手に取った。それを両手で振り上げると、歪んだ笑みをさらに歪めた。
「全ての恵みに感謝し、そして人の食に様々な命が捧げられていることに感謝するぅ!」
覚悟が決まっていたといったら嘘になる。だが、この地獄から解放されるのであれば、死もまた手段のひとつと言えるのではないか。少女はどこか悟ってしまい、振り上げられた鉈の刃先を見つめるばかり。
「それでは、ごちそうさまでしたぁ!」
それが合言葉であったかのごとく、風を切る音と共に鉈の刃先が振り下ろされた。少女が最期に見た光景は、満面の笑みを浮かべた化け物と、鉈の刃先に反射した、恐怖に歪んだ自分の顔だった――。
「う、う、う、うまーい! しんなりとしたキャベツの歯触りと、あえて火をあまり通さずに調理した、もやしのシャキシャキ感。にんじんのほんのりとした甘みが全体の味を引き締める。それでいて全体的に主張はせずに、メインの人肉の味を引き立てているぅ!」
再び化け物が馬乗りになり、少女は悍ましい光景を目の前にして意識がかすれる。いっそのこと意識を失ってしまったほうが楽なのに、あまりにもショッキングな出来事を目の当たりにして、むしろ神経は過敏になっていた。眠たいはずなのに、なぜだか全く寝ることができない――そんな奇妙な感覚だった。
「何よりも、食材となった人肉が素晴らしい! 野菜炒めには若い女の柔らかい指がいい。ほとんどの部分に火を通しておきながら、ほんの少しだけレアな部分を残すことでぇ、肉汁と一緒に生き血がしたたり、それが野菜炒めの味を全体的に引き締める。それぞれの食材がそれぞれの食材を引き立て、それでいてメインである人肉がしっかりと口の中で主張する。これほどに美味いものが、世の中にあるのか――。いいや、ない! これほどの至高の一品は、まず滅多にお目にはかかれなーい!」
またしても胃液が上がってきた。化け物は、自分の口の中に突っ込まれたものと同じものを口にして、グルメ番組さながらに料理を絶賛しているのだ。聞いているだけでも、気持ちの悪くなるレポートだった。
化け物が口元を袖で拭い、そして放り出していた鉈を手に取った。それを両手で振り上げると、歪んだ笑みをさらに歪めた。
「全ての恵みに感謝し、そして人の食に様々な命が捧げられていることに感謝するぅ!」
覚悟が決まっていたといったら嘘になる。だが、この地獄から解放されるのであれば、死もまた手段のひとつと言えるのではないか。少女はどこか悟ってしまい、振り上げられた鉈の刃先を見つめるばかり。
「それでは、ごちそうさまでしたぁ!」
それが合言葉であったかのごとく、風を切る音と共に鉈の刃先が振り下ろされた。少女が最期に見た光景は、満面の笑みを浮かべた化け物と、鉈の刃先に反射した、恐怖に歪んだ自分の顔だった――。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる