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事例2 美食家の悪食【解決篇】
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ミサトの配った名刺には、大きな誤りがひとつだけあった。それは、意図的に名前の漢字が変更されていたということだ。確か【太】という文字が【太る】という意味合いのようで嫌だからと、ミサト本人がわざと【太】を同じ読みである【大】に変更して名刺を作成したはず。それがまさか、彼女の命運を分けることになったなんて――。尾崎は固唾を飲み、縁の言葉に耳を傾ける。
「ミサトさんは、本来ならば犠牲者の条件には当てはまらなかった。しかし、この名刺を配ってしまったせいで――名前が左右対称になってしまったせいで、犯人によって狙われたのです。そして、このイレギュラーな事実があったからこそ、第三の事件では整合性が崩れてしまったんです」
先生の表情からは何を考えているのか全く読み取れない。ただ、ミサトの名刺を取り出した瞬間、そこにたずさえていた余裕がなくなったような気がする。縁はそんな先生に対して、容赦なく言葉を紡ぎ続ける。
「恐らく犯人は、ミサトさんを殺害した後になって、彼女の名前が左右対称ではないことに気付いたんだと思います。これまで名前が左右対称になる人間をターゲットにしてきたのに、これでは事件そのものの整合性までもが崩れてしまう。だからこそ、犯人は苦し紛れに第三のレシピの整合性を自ら崩したんです。本来名付けるはずの料理の名前が異なっていたのも、全てはレシピの整合性を崩し、第三の事件そのものがイレギュラーであることを暗に示そうとしたからだと思われます」
第一の事件、第二の事件とは違い、第三の事件ではこれまでの法則が通用しなかった。なぜ通用しなかったのか――それは、犯人が殺害すべき対象を間違えてしまったから。そして、そのミスを不自然なものにしないために、犯人はレシピの法則性すら崩した。この辺りの心理は良く分からないが、そうしなければ気が済まなかったのであろう。さすがに、型にはまっていた事件の枠組みそのものを、取っ払うという発想はなかったようだ。
「――これらを踏まえて考えてください。では、誰がミサトさんの本名を太田美里ではなく大田美里であると間違えることができたのか。この名刺は新調したばかりで、それを受け取った人間はごくごく限られてくる。しかしながら、私はミサトさんの名刺の漢字が間違っていることを事前に知っていました。なぜなら、安野警部が、あの時に間違いを指摘したからです。あの場にいた尾崎さんや麻田さんも、安野警部の指摘を聞いていたから、もちろん名刺の漢字が間違っていることを知っていたでしょう。でも――安野警部が指摘をした場面で、ただ一人だけ席を外していた方がいました」
「ミサトさんは、本来ならば犠牲者の条件には当てはまらなかった。しかし、この名刺を配ってしまったせいで――名前が左右対称になってしまったせいで、犯人によって狙われたのです。そして、このイレギュラーな事実があったからこそ、第三の事件では整合性が崩れてしまったんです」
先生の表情からは何を考えているのか全く読み取れない。ただ、ミサトの名刺を取り出した瞬間、そこにたずさえていた余裕がなくなったような気がする。縁はそんな先生に対して、容赦なく言葉を紡ぎ続ける。
「恐らく犯人は、ミサトさんを殺害した後になって、彼女の名前が左右対称ではないことに気付いたんだと思います。これまで名前が左右対称になる人間をターゲットにしてきたのに、これでは事件そのものの整合性までもが崩れてしまう。だからこそ、犯人は苦し紛れに第三のレシピの整合性を自ら崩したんです。本来名付けるはずの料理の名前が異なっていたのも、全てはレシピの整合性を崩し、第三の事件そのものがイレギュラーであることを暗に示そうとしたからだと思われます」
第一の事件、第二の事件とは違い、第三の事件ではこれまでの法則が通用しなかった。なぜ通用しなかったのか――それは、犯人が殺害すべき対象を間違えてしまったから。そして、そのミスを不自然なものにしないために、犯人はレシピの法則性すら崩した。この辺りの心理は良く分からないが、そうしなければ気が済まなかったのであろう。さすがに、型にはまっていた事件の枠組みそのものを、取っ払うという発想はなかったようだ。
「――これらを踏まえて考えてください。では、誰がミサトさんの本名を太田美里ではなく大田美里であると間違えることができたのか。この名刺は新調したばかりで、それを受け取った人間はごくごく限られてくる。しかしながら、私はミサトさんの名刺の漢字が間違っていることを事前に知っていました。なぜなら、安野警部が、あの時に間違いを指摘したからです。あの場にいた尾崎さんや麻田さんも、安野警部の指摘を聞いていたから、もちろん名刺の漢字が間違っていることを知っていたでしょう。でも――安野警部が指摘をした場面で、ただ一人だけ席を外していた方がいました」
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