縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

文字の大きさ
257 / 581
事例2 美食家の悪食【エピローグ】

8

しおりを挟む
 倉科の言葉に、恐々きょうきょうとしながらも妙に合点がいった自分がいた。遺体を切断し、そして食してまでいたのだから、犯人が拠点となる場所を有していたのは確実だ。事実、発見された遺体の状況から、別の場所で殺害されてから遺棄されていたことは明らかになっていた。しかし――その拠点がまさか、ごくごく普通のマンションだったとは驚きである。

「わざわざ近隣住民に聞き込みはしていないが、そこそこ値段が張るだけあって、防音もしっかりしていたようだ。中谷が犯行に及んだところで周囲にばれなかったくらいだからなぁ」

 犯罪は日常の片隅に溶け込んでいる。それこそ、ごくごく当たり前であるはずの風景の中に、さりげなく紛れ込むくらい自然に――。しかしながら、近隣住民が知ったら驚くことであろう。当たり前の日常の、文字通り隣では、人殺しという非日常的な行為が繰り返されていたのだから。聞き込みをあえてしなかったのは、近隣住民への配慮だと思われる。

「ちなみに、大きな旅行トランクを持ってマンションに出入りしている中谷の姿が、防犯カメラに映っていたそうだ。ここまでくると大胆不敵としか言いようがない。恐らく、薬で意識を朦朧もうろうとさせた犠牲者を、トランクに詰め込んで運び込んでいたんだろうな。その辺りの手口ははっきりとしていない。なんせ、事情聴取でも支離滅裂なことばかり言っているらしくてな」

 坂田は倉科の話を、にたにたと笑みを浮かべつつ聞いている。その全貌ぜんぼうに、こちらは脂汗さえかいているのに、どんな神経をしているのだろうか。

「まぁ、なんにせよ、そのマンションの一室が犯行現場である証拠はわんさかと出てきているらしい。犠牲者の血痕も出てきているし、凶器であろう大振りの鉈も見つかっている。それに、決定的なのは――」

「犠牲者の指が、冷蔵庫かそこらから見つかった――だろ?」

 倉科の言葉を遮って、坂田がぽつりと呟いた。それを聞いて「なんで分かったんだ?」と目を丸くする倉科。坂田は少しばかり得意げな表情を浮かべると、改めて口を開いた。

「第二の犠牲者だよ。第二の犠牲者は指を全て切断されていたにもかかわらず、現場からは8本しか指が見つかっていない。恐らくだが、レシピの整合性を保つために、あえて現場に残すのは8本に留めたんだろうなぁ。8本と表記するのと、10本と表記するのじゃ文字数が異なるからな。となると、行方不明になっている2本の指は、犯人が保管している可能性が高ぇと思ってんだよ」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...