縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例2 美食家の悪食【エピローグ】

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 とにもかくにも、悪食は特定のものが左右対称でなければ気が済まないという、実に特殊で異常なへきを持っていた。しかも、そこから発想が飛躍し、非対称性のある部分を食することで、それらを浄化しようとする異常性を持ち合わせていた。人殺しのことを理解したいとは思わないが、ここまで理解しがたい理由で人を殺す意味が分からない。九十九殺しの殺人鬼でさえ理解できないというのだから、普通の感覚しか持っていない縁に理解できるわけがなかった。

「頭のおかしい奴には、自分なりの世界観がある。そして、その世界観はいたってまともであって、周囲にも理解を得られるものだとばかり思っている。狂ってる奴は、自分が狂ってるだなんて微塵みじんも思っちゃいねぇんだよ。今回の事件の犯人も、ただ自分の世界観に従って、正しいと思ったことをやっただけだ。ごく一般的な感覚しか持ってねぇ連中が、理解できるほうがおかしいんだよ」

 坂田はそう呟くと、ごろりとベッドの上に横たわった。

「まぁ、そこそこ楽しませて貰ったし、この事件はもう腹一杯だなぁ。もっと面白い事件が、さっさとシャバで起きてくれねぇかなぁ」

 なんとも不謹慎な話ではあるが、この独房の中での暇つぶし程度にしか捉えていない坂田には、きっと何を言っても無駄なのであろう。この男の助言があったから事件を解決できたと思いたくないが、しかし事実はそうなのだ。今回の事件も、坂田の助言があったからこそ解決に結び付いた。対凶悪異常犯罪交渉係――0.5係としては大成功だと言えよう。

「事件なんて簡単には起きねぇっす。むしろ、自分達の仕事なんて無いほうが、世の中にとっては平和なんすから」

 尾崎の言葉に坂田は鼻を鳴らして「綺麗事だけで済まされるなら、人が人に殺されることはねぇよ」と漏らし、縁達に背を向ける形で寝返りを打った。それぞれが顔を見合わせて溜め息を漏らす。坂田にとって悪食の事件は、謎さえ解けてしまえば終わりなのだ。その後がどうなろうと知ったことではないし、どのような罪に問われようが知ったことではない。彼が興味を抱くのは――猟奇事件そのもの。それらの背景などはどうだっていいし、自分が抱いている疑問さえ解決できれば、もう興味がないのである。

「――行くか。俺達、0.5係もあの事件に対してはお払い箱だろうからな」

 倉科の言葉に、まるで坂田と同じだと縁は思った。必要とされるのは事件が解決するまでであって、その後のことには関わられない。謎が解けてしまえばお払い箱だ。

 対凶悪異常犯罪交渉係――通称0.5係。決して存在を認められず、また賞賛もされない。改めて自分の立場の特異性を痛感した縁は、アンダープリズンの最深部に大きな溜め息を落としたのであった。

【事例2 美食家の悪食 ―完―】
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