縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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幕間【第二節】

幕間【第二節】1

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 人間とは常に息苦しさを感じながら生きている。それは人間関係であったり、世の中の理不尽なルールであったりと、理由は様々だ。もしかすると、自分の思い通りに清々としながら、毎日を過ごせているのは、狂人くらいなのかもしれない。だとすれば、散々息苦しさを感じながら生きている自分は正常極まりないのではないだろうか。

 夜さえもすっかりと眠りにつき、この世の中で誰一人として起きていないではないのかと思うような、静まり返った深夜。こんな時、世の中の全てを支配しているように思えるのは気のせいなのだろうか。

 今日もきっと人が死ぬ。明日もきっと人が死ぬ。明後日も人は死ぬのだろうし、誰一人として人が死なない日なんてないのではないだろうか。この日本だけで考えても、きっと誰一人として人が死なない日はないだろう。この世の中にある命の絶対量は、常に変動を繰り返している。果たして、その変動の中で、人の手によって奪われる――もしくは放棄される命がどれだけあるのだろうか。

 白いワンピースを身にまとった彼女は、真っ暗な部屋の片隅で爪を噛む。もはや爪はギザギザになっているが、きっと明日の朝にでも縁が切ってくれることであろう。だから、そこまで気にする必要もない。

 彼女――山本円は狂ったかのように爪をかじり続ける。次第にフルーティーなフレーバーが口の中に広がり、思わず笑みを漏らす。りんごの香り、オレンジの香り、パイナップルの香り――爪を噛むごとにフレーバーが変わり、ある種の恍惚感こうこつかんのようなものを生み出す。

 真っ白なワンピースに、ぽたりと赤い染みが広がった。それに気付くと同時に、爪を噛んでいた指から鮮血がしたたっていることに気付く。あぁ、美味しすぎて肉まで噛んでしまったのか。面白い偶然もあるものだと、円はにたりと笑みを漏らす。洗面所に向かい、鏡で自分の顔を確認した。そこには歯が真っ赤に染まり、自分でも気味の悪い笑みを浮かべている顔があった。のっぺらぼうではない、自分の顔だ。

 蛇口をひねって口をゆすいだ。またこんなことをしたのが縁にばれたら、後で何を言われるか分かったもんじゃない。病院に行ったところで何も変わりはしないのに、どうせ病院に行くように促されるのだ。いっそのこと縁が代わってくれればいいのに――と愚痴を漏らしても、火に油を注ぐだけだ。ならば、ばれないようするのが最善。もっとも、あの先生に会えるとなると、少しばかり嬉しいような気もするが。
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