縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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幕間【第二節】

3

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 荒くなった呼吸を整えると、改めてスマートフォンを取り上げてみる。ディスプレイのほうから叩きつけられたスマートフォンは、見事なまでに画面にヒビが入ってしまっていた。まるで蜘蛛の巣が張られたかのような、それは綺麗な模様だった。

「あぁ、綺麗――」

 指で何度もヒビをなぞりつつ、偶然の産物の美しさに酔う。真っ暗な部屋の中で、ほんのりと灯るスマートフォンの明かりに浮き上がる蜘蛛の巣。それは心が奪われるほど綺麗だった。

 世の中は汚いというのに、どうしてこんなものが美しいのだろうか。逆に言ってしまえば、世の中は――この美しさに敵わない。それほどに汚れているし醜いのだ。

 ふと、いつもの感覚が彼女を襲った。それは微睡まどろみのような、ゆっくりと意識が落ちていくような感覚。あぁ、嫌だ。まだ眠りたくない。もっともっと、起きていたい。きっと、明日の朝には縁がヒビに気付き、この美しさも分からずに、さっさと修理に出してしまうのだ。だから、この美しい蜘蛛の巣を眺めていられるのも今だけだというのに――しかし、意識が徐々に遠くなる。

 ベッドにも入らず、部屋の片隅に寄りかかるようにして、彼女はそっと目を閉じた。蜘蛛の巣を大事に大事に抱え込んで、必死になって薄れゆく意識と戦いながら――。

 まぶたの裏には顔のないのっぺらぼう達がいた。服装から察するに、大人が二人と子どもが一人。まるで記念撮影をしている最中であるかのごとく、まんじりとも動かずに、ただただ瞼の裏でたたずんでいる。これが家族であろうことは、なんとなく分かっていた。

 あぁ、意識が遠くなる。また、いつものように、のっぺらぼうに見つめられながら、きっと意識がなくなるのだ。こうなってしまえば、もうどんなことをしても無駄だ。抗うことはできないし、受け入れるしかない。

 すぅっと、これまで近くにあって遠くに見えていた家族が、音もなく、静止画を動かすかのように近付いてくる。近くに来ても顔は見えない。真っ平らな顔があるだけ。そして、とうとう家族の顔は彼女のすぐ近くまでやって来た。それこそ、息遣いが聞こえてくるほどの近さまで――。それでも顔は見えない。覗き込むようにして並ぶみっつの顔には、やはり顔がなかった。

「――を殺したのはだーれ?」

 耳元で女の子の声が聞こえた。ぼそりと、それでいてはっきりとした口調で問うてくる。最初のほうは早口で聞き取れなかった。

「――を殺したのはだーれ?」

 きっと、そこには狂気にも似た笑みが浮かんでいたのかもしれない。意識が遠退くのを感じながら、円はぽつりと呟き落とした。

「多分……縁よ」


 幕間【第三節】に続く
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