縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

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「まさか、だから一斉に飛びかかってみないか――なんて言いださないよね? 確かに、カートリッジを交換した様子はなかったし、それなりに残弾は厳しいものになっているかもしれない。でも、全くのゼロとは言い切れないし、一発だろうが十発だろうが、銃弾を受ければ死ぬ時は死ぬ。何よりも、反撃に出た時の混乱が怖い。もう少し様子を見たほうがいい」

 この状況を打破したい様子の流羽に対して、善財がさとすかのように現状維持を提案する。解放軍の様子を伺いながら、小声で会話をしなければならない状況は、変な緊張感があった。

 幸いなのは、解放軍の連中が被り物をしていることだった。そのおかげか、ちょっとした物音には気付かれにくい。少なくとも、流羽や善財の声のトーンならば大丈夫であろう。もっとも、そこに尾崎が加わるとまずいだろう。どんなに声のトーンを落としたつもりでも、なぜだか声量が出てしまっているのだから。ならば、喋らないことに徹するべき。尾崎は唇の端をつまむ真似をすると、左から右へと動かした。お口に……チャックである。

「あ、あの! ちょっといいか!」

 突然、食堂の一角から上がった声に、その場にあった幾つもの視線が集まった。尾崎達から離れた最前列のほう。もっとも出入口に近い辺りにいた男が声を上げたようだ。間違いなくアンダープリズンの職員なのであろうが、申し訳ないことに名前が出てこなかった。

 解放軍の視線もまた、男に集まっていた。しかし、ライオンやレジスタンスリーダーのように、気味の悪い声を発しようとはしない。ただ、少したじろいだような反応を見せたような気がした。

「その、トイレに行きたいんだ。ずっと我慢していたんだが、そろそろ限界みたいで――。ここで垂れ流してもいいのなら構わないんだが、できることならばトイレで用を足したい」

 そう言われると、なぜか自分もトイレに行きたくなるという不思議。この異様な緊張感のせいで忘れてしまっている人間が多いのであろうが、しかし生理反応というものは、人間の理性で抑え込むには限界がある。ここが占拠されてからどれだけ時間が経ったのか分からないが、そろそろ我慢できなくなる人が出てきても不思議ではない。

 解放軍の連中は、困ったかのように顔を見合わせるだけだった。自分達では判断できない――それこそ、誰かの指示がなければ動けない。そんな雰囲気だった。ここを占拠した時は統率の取れた動きをしていたのだが、どうやら指揮系統となる人物がいないと駄目らしい。ライオンとレジスタンスリーダーが、同時にここを離れたのは、指揮系統がなくとも、ある程度は動けると思っていたからであろう。
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