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事例4 人殺しの人殺し【事件篇②】

事例4 人殺しの人殺し【事件篇②】1

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【1】

 神座とは違い、親不知はかなり天候が悪かった。駅から外に出た途端、土砂降りの雨が縁を出迎え、まるで幸先の悪さを暗示しているかのようだった。

 とりあえずタクシーを捕まえ、予めネットで調べておいた親不知留置所へと向かう。土砂降りに加えて、たまたま運が悪かったのか、渋滞にはまってしまった。

 スマートフォンはずっと電源を切ったままだから、どれだけ着信が入っているか分からない。現代人はスマートフォンに依存しているというが、確かにその通りだとは思う。電源を切っているだけなのに、なんだか落ち着かなかった。

 タクシーの運転手が振ってくる、他愛もないような世間話に適当な相槌あいづちを打ちつつ、縁は窓に打ち付けられる雨を眺める。窓の向こう側は、まるで意識にモヤがかかってしまったかのごとく、ぼんやりとしている。まるで、思いつくままに親不知までやって来てしまった縁の未来を指し示しているようだ。

 到着した頃には、もう日も暮れていた。なかば鈍行と言っても過言ではない電車に乗り、時間をかけて親不知までやってきたのだ。しかも、あいにくの空模様で運悪く渋滞に捕まってしまえば、日も暮れるというものだ。朝から何も口にしていないはずだが、なぜだかお腹は空かない。それだけ、姉の一件が重くのしかかっているのだろう。

 礼を言って料金を支払うと、縁は一目散に留置所へと駆け出した。可能な限り近場に停めてくれたのであろうが、しかしそんな気遣いさえも、土砂降りの雨は容赦なく洗い流してしまう。ほんの目と鼻の先だったというのに、びしょ濡れになってしまった。無駄な抵抗だとは分かっていながら、肩の辺りを撫でて露払いをする。

 留置所の中に入ると、恐らく麻田から連絡を受けていたのであろう。あっさりと中に通された。刑事という立場を利用し、また麻田も麻田で正攻法の話の通し方はしなかったのであろう。あくまでも悪食との接見は非公式であり、きっと留置所の人間からしても、はた迷惑な話であるに違いない。丁寧に案内されながらも、そんな空気を縁は感じ取った。

 通された面会室は、刑事ドラマなどでよく見る光景そのものだった。アクリルのガラス板で中央から仕切られており、双方にパイプ椅子が設置されている。とりあえず促されて椅子に腰をかけると、ここまで案内してくれた人間は、何も言わずに面会室から出て行ってしまった。
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