縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例4 人殺しの人殺し【解決篇】

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 思わず言葉を失ってしまった。鏡で見たわけではないが、口をぽっかりと開けた自分の姿は、さぞ間抜けなことだろう。

「刑事――。殺人蜂が残したダイイングメッセージは、そんなに抽象的なものだったのか?」

 倉科はそう言いつつも、実のところダイイングメッセージが抽象的でもなんでもないことに気付きつつあった。殺人蜂から見ての刑事という意味ならば、実に限定的な部分を指し示すことになるのだから。

「あぁ。だが、ダイイングメッセージは抽象的じゃねぇんだよ。そもそも、この刑事が誰のことを指しているのか――それを考えれば、簡単に答えは出てくる。殺人蜂と面識があって、しかも殺人蜂が刑事として認識している人物。それは、たった二人しかいない」

 坂田がそう言って視線を向けたのは、尾崎のほうだった。つまり、そういうことだったのだ。殺人蜂が刑事として認識していた人物。それは、殺人蜂に対して最初の聞き込みを行った尾崎と――縁の二人だけなのだ。

 あの事件。途中から縁と尾崎の独断と偏見だけで捜査が進められてしまった。その過程で、尾崎と縁は殺人蜂との接触を図っている。この際、すでに彼が二人のことを刑事であると知っていたことにより、殺人蜂の逮捕に繋がった。

 殺人蜂は逮捕された時点で精神的に不安定な状態であり、また怪我をしていたこともあって病院送り。警察としては殺人蜂の回復を待ってから取り調べを行う予定だった。ゆえに、殺人蜂と接触した刑事は、恐らく尾崎と縁しかいないのだ。殺人蜂が刑事だと認識できた人物もまた、尾崎と縁の二人だけなのである。

「殺人蜂が刑事であると認識できたのは――尾崎と山本の二人だけだったってことか」

 倉科が言うと、なぜだか円が満足気に頷いた。そんな円に鬱陶うっとうしそうな視線をくれると、すぐに倉科達のほうへと戻した。

「その通り。そして、監視カメラに映っていたのは、明らかに女だったろ? 殺人蜂が知っている刑事で、しかも女は一人しかいねぇ。つまり、必然的に殺人蜂のダイイングメッセージは、たった一人の人間のことを意味していたってことだ。殺人蜂がそれを意図したかどうかは別にしてなぁ」

 殺人蜂はそこまで意図してダイイングメッセージを残したわけではなかった。ただ、自分の命を奪おうとしている相手が刑事であるという、断片的な情報を残そうとしただけ。それがたまたま結論に結び付いただけなのだ。これもまた、真相から逆算をしてダイイングメッセージの意味を解き明かしたからこそ分かったことであろう。正規のプロセスから考えても、きっと同じ答えは出てこない。
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