567 / 581
事例4 人殺しの人殺し【解決篇】
15
しおりを挟む
思わず言葉を失ってしまった。鏡で見たわけではないが、口をぽっかりと開けた自分の姿は、さぞ間抜けなことだろう。
「刑事――。殺人蜂が残したダイイングメッセージは、そんなに抽象的なものだったのか?」
倉科はそう言いつつも、実のところダイイングメッセージが抽象的でもなんでもないことに気付きつつあった。殺人蜂から見ての刑事という意味ならば、実に限定的な部分を指し示すことになるのだから。
「あぁ。だが、ダイイングメッセージは抽象的じゃねぇんだよ。そもそも、この刑事が誰のことを指しているのか――それを考えれば、簡単に答えは出てくる。殺人蜂と面識があって、しかも殺人蜂が刑事として認識している人物。それは、たった二人しかいない」
坂田がそう言って視線を向けたのは、尾崎のほうだった。つまり、そういうことだったのだ。殺人蜂が刑事として認識していた人物。それは、殺人蜂に対して最初の聞き込みを行った尾崎と――縁の二人だけなのだ。
あの事件。途中から縁と尾崎の独断と偏見だけで捜査が進められてしまった。その過程で、尾崎と縁は殺人蜂との接触を図っている。この際、すでに彼が二人のことを刑事であると知っていたことにより、殺人蜂の逮捕に繋がった。
殺人蜂は逮捕された時点で精神的に不安定な状態であり、また怪我をしていたこともあって病院送り。警察としては殺人蜂の回復を待ってから取り調べを行う予定だった。ゆえに、殺人蜂と接触した刑事は、恐らく尾崎と縁しかいないのだ。殺人蜂が刑事だと認識できた人物もまた、尾崎と縁の二人だけなのである。
「殺人蜂が刑事であると認識できたのは――尾崎と山本の二人だけだったってことか」
倉科が言うと、なぜだか円が満足気に頷いた。そんな円に鬱陶しそうな視線をくれると、すぐに倉科達のほうへと戻した。
「その通り。そして、監視カメラに映っていたのは、明らかに女だったろ? 殺人蜂が知っている刑事で、しかも女は一人しかいねぇ。つまり、必然的に殺人蜂のダイイングメッセージは、たった一人の人間のことを意味していたってことだ。殺人蜂がそれを意図したかどうかは別にしてなぁ」
殺人蜂はそこまで意図してダイイングメッセージを残したわけではなかった。ただ、自分の命を奪おうとしている相手が刑事であるという、断片的な情報を残そうとしただけ。それがたまたま結論に結び付いただけなのだ。これもまた、真相から逆算をしてダイイングメッセージの意味を解き明かしたからこそ分かったことであろう。正規のプロセスから考えても、きっと同じ答えは出てこない。
「刑事――。殺人蜂が残したダイイングメッセージは、そんなに抽象的なものだったのか?」
倉科はそう言いつつも、実のところダイイングメッセージが抽象的でもなんでもないことに気付きつつあった。殺人蜂から見ての刑事という意味ならば、実に限定的な部分を指し示すことになるのだから。
「あぁ。だが、ダイイングメッセージは抽象的じゃねぇんだよ。そもそも、この刑事が誰のことを指しているのか――それを考えれば、簡単に答えは出てくる。殺人蜂と面識があって、しかも殺人蜂が刑事として認識している人物。それは、たった二人しかいない」
坂田がそう言って視線を向けたのは、尾崎のほうだった。つまり、そういうことだったのだ。殺人蜂が刑事として認識していた人物。それは、殺人蜂に対して最初の聞き込みを行った尾崎と――縁の二人だけなのだ。
あの事件。途中から縁と尾崎の独断と偏見だけで捜査が進められてしまった。その過程で、尾崎と縁は殺人蜂との接触を図っている。この際、すでに彼が二人のことを刑事であると知っていたことにより、殺人蜂の逮捕に繋がった。
殺人蜂は逮捕された時点で精神的に不安定な状態であり、また怪我をしていたこともあって病院送り。警察としては殺人蜂の回復を待ってから取り調べを行う予定だった。ゆえに、殺人蜂と接触した刑事は、恐らく尾崎と縁しかいないのだ。殺人蜂が刑事だと認識できた人物もまた、尾崎と縁の二人だけなのである。
「殺人蜂が刑事であると認識できたのは――尾崎と山本の二人だけだったってことか」
倉科が言うと、なぜだか円が満足気に頷いた。そんな円に鬱陶しそうな視線をくれると、すぐに倉科達のほうへと戻した。
「その通り。そして、監視カメラに映っていたのは、明らかに女だったろ? 殺人蜂が知っている刑事で、しかも女は一人しかいねぇ。つまり、必然的に殺人蜂のダイイングメッセージは、たった一人の人間のことを意味していたってことだ。殺人蜂がそれを意図したかどうかは別にしてなぁ」
殺人蜂はそこまで意図してダイイングメッセージを残したわけではなかった。ただ、自分の命を奪おうとしている相手が刑事であるという、断片的な情報を残そうとしただけ。それがたまたま結論に結び付いただけなのだ。これもまた、真相から逆算をしてダイイングメッセージの意味を解き明かしたからこそ分かったことであろう。正規のプロセスから考えても、きっと同じ答えは出てこない。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる