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事例4 人殺しの人殺し【エピローグ】

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「尾崎、そこら辺でUターンだ。至急、アンダープリズンに向かえだと」

 ある程度の予想はできていたのだが、思わずブレーキを踏み込んでしまった。慣性の法則に従って、シートベルトが存分に肩へと食い込んだ。

「――現場、もう目と鼻の先っすよ?」

 あまりにも唐突だったものだから、声が裏返ってしまった。なんのために、ここまでパトカーをすっ飛ばして来たのか分からない。

「他の捜査員に任せておけとさ――。現状、アンダープリズンに潜ることが認められているのは、俺とお前だけだから、そっちを優先しろと。どこぞの大臣様直々の命令だ」

 自然と大きな溜め息が漏れる。お上の方々が現場のことを知らないなんてのは常識であるし、今さらになって現場に合わせろなんて思いもしない。それにしても、勝手なことを言ってくれる。一度、振り回す側と振り回される側で交代してやりたいくらいだ。

「でも、資料を提出して、それが承認されなければ――」

「特例――だとさ。特例。必殺技の特例だよ。ちょっと困ったことがあれば、すぐに特例だからな。細かいことはどうでもいいから、さっさと事件を解決しろってことだろうよ」

 少し先に転回できそうな場所を見つけ、そこでパトカーを転回させる。そして、ついさっき走って来たばかりの道を引き返した。目指すは神座の街。あの男が待っている地下独房だ。

 ひとつの事件が幕を閉じようとする時、またひとつの事件が幕を開けようとしている。結局、刑事という生き物は、これの繰り返し。相手と手口が異なっているだけのイタチごっこを延々と繰り返す。きっと、今回の事件が解決したって、休む間も無く、また次の事件が起きるのであろう。彼女の事件が過去になりつつあるのと同じように。

 昨今において、特に残虐性の強い事件が増えて来ている。また、自己中心的で身勝手な事件も増えている。人を人と思わず、罪悪感すら抱かない。そのような人間は決して特殊ではないそうだ。

 理由なき殺人。動機なき殺人。ひと昔前に比べて、そのような事件が増えている。その先駆けこそが――彼なのかもしれない。その彼に頼らざるを得ないというのはいかがなものか。しかも、国のお偉いさんが雁首がんくび揃えて彼の存在を迎合しているのだ。さすがの尾崎だって、おかしな話だということくらいは分かる。

「だったら、現場のことを考えないお偉いさん達を、いつか特例でぶっ飛ばしに行きてぇっすね。警視総監くらいまで偉くなれば許されるっすか?」
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