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最終章 お悔やみ様と僕らの絆
第十話
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葛西が静かにそう言い放つと、糸井先生は鼻をすすり出した。そこには、お悔やみ様などという恐ろしい存在ではなく、ただ娘を亡くした母親がいただけだった。その姿は同情すらしてしまいそうなくらい小さく見えた。
静寂の中には、糸井先生がすすり泣く音だけが漂っていた。静けさという擬音ばかりがまとわりつく。葛西、江崎、佳代子の三人が、幼馴染の死の真相を追いかけた結果、たどり着いてしまった結論は、あまりにも酷なものだった。葛西だってこんなことを話したくはなかったのであろう。だからこそ、学校で真相に気付いてしまった時、葛西の様子がおかしかったのだ。
誰も口を開かない。糸井先生はすすり泣くだけであるし、江崎達は糸井先生の言葉を待つだけだ。まるでこの場所だけ時間が止まってしまったかのように、永遠とも思える時間にたゆたう。
「話してくれないと言うなら、ここからは俺の推測を話すよ。さおりんの死に関することだから、推測だけで話したくはないけど、俺なりに考えた末に行き着いた結論だ」
結局、その静寂を破ったのは、糸井先生ではなく葛西であった。お悔やみ様の正体が糸井先生だったとして、けれども沙織が自ら命を絶ってしまった根本的な原因は分からない。もう沙織は死んでしまったのだから、本人の口から真相を聞き出すことも叶わない。せめて遺書でも残してくれれば――と、いまさら思ったところで無い物ねだりというものだ。
「俺達は気付けなかったけど、両親の離婚はさおりんの心に大きな傷を残していたんじゃないかな――。特に、俺達三人の両親は互いに親交があって、当然ながら先生の離婚が成立した後も、その親交は続いた。もちろん、全員で集まる時は、そこにさおりんも加わってたんだ。そう、さおりんだけ両親がいないという状態でね」
葛西の言葉に、記憶が数年前へとさかのぼり、そして今この時に向かって逆行を始める。夏休みになると毎年のように行っていた、砂浜でのバーベキュー。それぞれの誕生会やクリスマスパーティー。正月に盆など、江崎達はことあるごとに家族単位で集まって行事を開いてきた。離婚が成立する前までは、そこに糸井先生も加わっていたわけだ。
だが、離婚が成立し、そして父親に捨てられてしまってからは、常に沙織は一人だった。それぞれの家族単位で集まる時は、いつも一人だったのだ。両親が離婚したからといって、沙織までのけ者にする理由はないし、相も変わらず幼馴染同士は仲が良かったから、当然のように沙織も輪に加わっていたのであるが、よくよく考えると、彼女に対して酷いことをしてしまったような気もする。
静寂の中には、糸井先生がすすり泣く音だけが漂っていた。静けさという擬音ばかりがまとわりつく。葛西、江崎、佳代子の三人が、幼馴染の死の真相を追いかけた結果、たどり着いてしまった結論は、あまりにも酷なものだった。葛西だってこんなことを話したくはなかったのであろう。だからこそ、学校で真相に気付いてしまった時、葛西の様子がおかしかったのだ。
誰も口を開かない。糸井先生はすすり泣くだけであるし、江崎達は糸井先生の言葉を待つだけだ。まるでこの場所だけ時間が止まってしまったかのように、永遠とも思える時間にたゆたう。
「話してくれないと言うなら、ここからは俺の推測を話すよ。さおりんの死に関することだから、推測だけで話したくはないけど、俺なりに考えた末に行き着いた結論だ」
結局、その静寂を破ったのは、糸井先生ではなく葛西であった。お悔やみ様の正体が糸井先生だったとして、けれども沙織が自ら命を絶ってしまった根本的な原因は分からない。もう沙織は死んでしまったのだから、本人の口から真相を聞き出すことも叶わない。せめて遺書でも残してくれれば――と、いまさら思ったところで無い物ねだりというものだ。
「俺達は気付けなかったけど、両親の離婚はさおりんの心に大きな傷を残していたんじゃないかな――。特に、俺達三人の両親は互いに親交があって、当然ながら先生の離婚が成立した後も、その親交は続いた。もちろん、全員で集まる時は、そこにさおりんも加わってたんだ。そう、さおりんだけ両親がいないという状態でね」
葛西の言葉に、記憶が数年前へとさかのぼり、そして今この時に向かって逆行を始める。夏休みになると毎年のように行っていた、砂浜でのバーベキュー。それぞれの誕生会やクリスマスパーティー。正月に盆など、江崎達はことあるごとに家族単位で集まって行事を開いてきた。離婚が成立する前までは、そこに糸井先生も加わっていたわけだ。
だが、離婚が成立し、そして父親に捨てられてしまってからは、常に沙織は一人だった。それぞれの家族単位で集まる時は、いつも一人だったのだ。両親が離婚したからといって、沙織までのけ者にする理由はないし、相も変わらず幼馴染同士は仲が良かったから、当然のように沙織も輪に加わっていたのであるが、よくよく考えると、彼女に対して酷いことをしてしまったような気もする。
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