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#2 ぼくとわたしと禁断の数字【糾弾ホームルーム篇】

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「あ、あの――やっぱり変なこと言っちゃった?」

 そう言って周囲の様子を改めて確認したのは小雪だった。立ち振る舞いや出で立ちなどは普通であるが、どこか内から漏れ出す品格のようなものを持つ正真正銘の令嬢の口から、実に物騒な――それでいて後ろ向きな憶測が出たことに驚いた。

「アベンジャーは生きることを望んでいなかった。つまり、生き残ることを前提として【デスナンバー】を決めなかったってことか。そうすれば【9】が【デスナンバー】に指定されていても、なんら不思議ではないけど――」

 坂崎は小雪の意見に呟くが、完全に肯定しているようではないらしい。言葉の歯切れが悪いのも、そのせいだろう。事実、安藤もそれには懐疑的だった。なぜなら、小雪の言う通りならば、安藤達は完全に指針を失ってしまうのだから。

 ゲームにおいて【ナンバーキーパー】がどの数字を選ぶのか。その根底には、あくまでも【ナンバーキーパー】はゲームにて生き延びようとする――ということが前提として存在する。その前提が崩れてしまうと【デスナンバー】はなんでもいいわけだし、どの数字を選ぶのにも根拠がなくなる。別に【ナンバーキーパー】自身が死んでも構わないと思っているのであれば【1】が【デスナンバー】であってもおかしくなかった。すなわち、安藤達が弾き出した策略も、でたらめになってしまうのだ。根拠があって【1】【2】【3】の【アントニオ】を狙ったのに、下手をすれば【デスナンバー】を踏んでいたのかもしれないのである。

「ぞっとする話ではあるけど、考えられないわけではないからタチが悪いわね」

 芽衣が髪の毛に手ぐしを通し、そして自分の意見が決して見当違いではなかったことに安堵したのか、小雪が小さく溜め息を漏らす。

 あらゆる勝負事において――例えば、将棋や囲碁やチェスなどの、主に頭脳労働となる勝負事においては、暗黙の了解であるが、お互いが勝利に向かって策を講じ、戦略を練るという前提がある。その前提があるからこそ、相手の手から思考を読み取ることができる。だが、もしも相手が最初から負けるつもりで、でたらめな手ばかりを見せてきたとしたらどうだろうか。

 ――相手の思考が全く読めなくなってしまうのではないだろうか。つまり【ナンバーキーパー】には生き延びるつもりでゲームを展開して貰わねば、そこから誰が【ナンバーキーパー】なのかを割り出すこともできなくなる。せめて根拠のある動きを見せてくれなければ困るのだ。
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