上 下
148 / 468
#2 ぼくとわたしと禁断の数字【糾弾ホームルーム篇】

32

しおりを挟む
 小雪の発言から、やや良からぬ方向へと傾いた議論。もし今回のアベンジャーが、小雪の言った通りの立ち位置だったら、実にやりずらくなる。それは、アベンジャーの正体を暴くという意味でも、ゲームから生き延びるという意味でもだ。

「姫乙、ひとつだけ確認させて貰っていいかい?」

 議論の流れを変えるためか、伊勢崎が手を挙げる。これまでも何度か切り込み口を作ってくれた切り込み隊長は、ここでもまた議論を進展させるための新たな突破口を見出してくれるのだろうか。

「質問の内容によりますがぁ、とりあえず聞くだけは聞きますよぉ」

「あのさ、もうアベンジャーが死んでるってことはあり得る?」

 姫乙に考える暇を与えたくないのか、その切り口の内容の重さなど感じさせずに、間髪入れずにさらりと切り込んでしまう伊勢崎。先走りやすいのが欠点ではあるが、簡単に相手の懐に飛び込むのは、このクラスの中で誰よりも伊勢崎が得意なのかもしれない。それだけ自分に自信があるのだろう。

 伊勢崎の言葉に分かりやすく動揺する姫乙。胸ポケットからハンカチを取り出して額を拭うと、咳払いをしてから安藤達のほうへと視線を向けた。

「――ぎくり」

 ここまで下手くそで分かりやすい反応があるだろうか。とうとう擬音までをも自分の口から発し、その目は必要以上に泳いでいた。

「あ、あっはっはっはっはっ。そ、そんなことあるわけないじゃないですかぁ」

 声は上擦っているし、言葉もたどたどしい。というか、下手か。隠しごとするの下手か。

「ちなみに、僕の言う死んでるってのは文字通りの意味じゃないんだ。死んだことになって、すでに退場しているんじゃないかって意味さ」

「ぎ、ぎ、ぎくり!」

 伊勢崎の言葉に拍車をかけるかのごとく、分かりやすい反応を見せる姫乙。ただ、その仕草があまりにも大袈裟でわざとらしいため、それがナチュラルなリアクションなのか、それとも演技としてやっているものなのか区別がつかない。なんというか、目の前でミュージカルを見せつけられているかのごとく、反応が大袈裟なのだ。

「例えばの話なんだけどさ、こういうことは考えられないかな? アベンジャーは最初から、どこかのタイミングでゲームから抜けるつもりでいたんだ。もちろん【アントニオ】を成立させるんじゃなくて、敗者としてね――。人間、当たりどころが悪くなければ1発や2発撃たれたところで死なないだろうし」
しおりを挟む

処理中です...