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#4 放課後殺人ショー【糾弾ホームルーム篇】

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「残り30分でぇぇぇぇす」

 今回ばかりは時間の流れが早い。材料が少ないがゆえに自力で新情報を引っ張って来なければならないため、その手回しのほうに時間がかかってしまっている。正直なところ議論は全くといって進んではいない。

 どこに取っ掛かりを見出すのか。この事件の全体像に、どこから切り込めば良いのか。何度か切り込もうとして、そのほとんどが空振りに終わってしまっているがゆえに、下手に口を開こうとする者はいない。

「――私達全員にアリバイがある。ならば、誰だったら反抗に及ぶことができたのか。それを考えるしかないわ。もちろん、目の前に情報として見えているアリバイは、犯人の手によって作り出されたものであるはずよ」

 切り込み隊長を買って出たのは芽衣だった。星野崎の事件の時と同様に、安藤達の目の前に立ちはだかった大きな壁――解決しなければ前進することさえ許されない、大きな大きな障害物。全員にアリバイがあるという事実を崩さねば、犯人など分かるはずがない。

「でも、姫乙は嘘をついたりしてねぇんだろ? ってことは、教室に残った俺達には鉄壁のアリバイがあるってことだ。大槻は大槻で国営テレビの連中と一緒にいたわけだし、その姿は全国放送で流された。とてもじゃねぇけど、越井を殺す暇なんてなかっただろうよ。俺達だけじゃなくて、視聴者の目があったわけだし」

 現状でのアリバイの定義は二種類。教室に残っていた人間にはアリバイがあるという考え方がひとつ。そして、もうひとつは国営テレビの人間と一緒に全国に向けての放送に映っていたからアリバイがあるという考え方。どちらも間違ってはいないし正しい考え方だと思う。

 安藤はリピートで流される映像を眺めつつ、越井の机の辺りに視線をやる。そこまで大きな問題ではないのかもしれないが、香純の机に誰が殺害予告を忍ばせたのかも分かってはいない。それに、本当に香純が裏切り者だったとして、犯人はどうやってそれを知ったのであろうか。謎は多い。

「――本当に香純は私達のことを裏切っていたの?」

 教室の中に小さく――振り絞ったかのような声が響いた。ただし、その小さな小さな声からは、何かしらの強い意志のようなものが感じられた。舞の発言だった。

「うーん、それにはお答えできませんねぇ。いくらお亡くなりになられたからといってもぉ、彼女の尊厳くらいは守って差し上げたいのですぅぅぅ」

 勇気を振り絞った舞の発言は、あっさりと姫乙にかわされてしまった。かつては香純と仲の良かったはずの舞。辛いに違いない。
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