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ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【プロローグ】
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地元にいた頃は、せいぜい自家焙煎のコーヒーを買うか、名物の豆大福を買うかくらいしかしなかった道の駅。簡単な食事を出していることは知っていたが、ここで食べるのは初めてだった。
見えてはいたけど入ったことのない通路を進むと、そこにこぢんまりとした食堂のようなものがあった。テーブル席は数席、カウンター席はわずか2席しかないというスペースだった。このような形式の食堂であっても、注文は食券らしい。
斑目が食券販売機に札を入れて「お好きなものをどうぞ」と一里之に譲ってくる。どうやらご馳走していただけるらしい。悩んでも良かったのであるが、あまり待たせるわけにもいかないから、日替わり定食のボタンを押した。斑目も同じものを注文する。
食券を出してテーブル席に着くと、いかにも近所のおばちゃんといった出立ちの女性が、お冷やを持ってきてくれた。お冷やはセルフサービスではないらしい。
「――差し支えなければ教えて欲しいんですが」
お冷やを口にすると、コップを手に持ったままの斑目が口を開いた。
「猫屋敷さんに会いに来たというのは、その――純粋に彼女に会いに来たということですか? それとも――」
もう数年来会っていないし、心の片隅で彼女のことを思い出すようなこともあったから、彼女に会いに来たといっても嘘ではないだろう。しかしながら、一里之の目的はそれではなかった。自分にそれなりの頭がないから、目の前でいくつもの事件を解決に導いた彼女の意見が聞きたかった。
「それとも――のほう。斑目さん、俺が不動産の仕事をしていることは知ってるよね?」
一応、この地を離れる少し前に、関係者が集まって簡単な送別会を開いてくれた。そこに斑目もいたはずで、その際に就職先のことは話したはずだ。
「えぇ、確かお父さんのコネか何かで入ったんですっけ? でも、こうして今でも続けているということは、会社から必要とされているということ。コネではなく実力でも、今の会社に入ることはできたでしょうね」
そんなところまで話してしまっていたか。高校時代の自分の迂闊さを呪う。今でも会社に籍を置いてはいるが、そのかわりお嬢様お世話係などという、外部の人間からすれば意味の分からないポストに就いているが。
「それはどうなのかな――。まぁ、コネってことで多少は周囲の目が気になったりはしたけど。それで、今その不動産で、俺は主に事故物件を扱ってるんだよ」
見えてはいたけど入ったことのない通路を進むと、そこにこぢんまりとした食堂のようなものがあった。テーブル席は数席、カウンター席はわずか2席しかないというスペースだった。このような形式の食堂であっても、注文は食券らしい。
斑目が食券販売機に札を入れて「お好きなものをどうぞ」と一里之に譲ってくる。どうやらご馳走していただけるらしい。悩んでも良かったのであるが、あまり待たせるわけにもいかないから、日替わり定食のボタンを押した。斑目も同じものを注文する。
食券を出してテーブル席に着くと、いかにも近所のおばちゃんといった出立ちの女性が、お冷やを持ってきてくれた。お冷やはセルフサービスではないらしい。
「――差し支えなければ教えて欲しいんですが」
お冷やを口にすると、コップを手に持ったままの斑目が口を開いた。
「猫屋敷さんに会いに来たというのは、その――純粋に彼女に会いに来たということですか? それとも――」
もう数年来会っていないし、心の片隅で彼女のことを思い出すようなこともあったから、彼女に会いに来たといっても嘘ではないだろう。しかしながら、一里之の目的はそれではなかった。自分にそれなりの頭がないから、目の前でいくつもの事件を解決に導いた彼女の意見が聞きたかった。
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一応、この地を離れる少し前に、関係者が集まって簡単な送別会を開いてくれた。そこに斑目もいたはずで、その際に就職先のことは話したはずだ。
「えぇ、確かお父さんのコネか何かで入ったんですっけ? でも、こうして今でも続けているということは、会社から必要とされているということ。コネではなく実力でも、今の会社に入ることはできたでしょうね」
そんなところまで話してしまっていたか。高校時代の自分の迂闊さを呪う。今でも会社に籍を置いてはいるが、そのかわりお嬢様お世話係などという、外部の人間からすれば意味の分からないポストに就いているが。
「それはどうなのかな――。まぁ、コネってことで多少は周囲の目が気になったりはしたけど。それで、今その不動産で、俺は主に事故物件を扱ってるんだよ」
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