ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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「私は……私は」

 突然パニックに襲われた。これまで、自分が窓辺野コトリであることに疑いなく生きてきたのだ。真実を知ってしまった今となっては、どう理解していいいのか分からない。

「あなたは今のあなたでいいのよ。無理にコトリでなくなる必要もないし、あかりになる必要もない。これまで通りのあなたでいてくれればいいの」

 母の言葉に、意識などしていないのに涙がこぼれる。悲しいとか、そういう感情をすっ飛ばして、体がバグ反応をしてしまったかのようだった。

「急ぐ必要はないでしょう。時間をかけることでしか解決できない問題もありますから」

 これまで窓辺野コトリとして生きてきたあかり。窓辺野あかりとしての一歩目を踏み出すには、それ相応の時間がかかることだろう。

「おい、車を回してきてやったぞー!」

 部屋の外から、いや明らかに階下から鯖洲の声が聞こえた。

「それで、ひとつだけ確認したいんだけど、まだ会社で事故物件をおさえるようなことをしたほうがいいのかしら?」

 母もコトリの奇妙な趣味のことは知っている。それをすることにより、自らを保とうとしていたことも知っているだろう。けれども、真相が明らかになってしまった今となっては、事故物件に住み込んでまで自身を慰める必要はない。

 ロンダリングプリンセスは、もうこの世の中に必要はないのかもしれない。ここで潔く、奇妙な趣味を止めるべきなのかも。ただ、それはすなわち、そのための仲間であった鯖洲達との別れを意味する。

「お母様。少しだけ考えさせて。今すぐに答えはだせないかもしれないから」

 コトリの言葉に母は優しく頷いた。一方、呼んでも反応がなかったからであろう。鯖洲がわざわざ部屋まで戻ってきた。

「おい、俺が直々に車を出すって言ってんだよ。さっさと動けよな」

 タイミング的に返事ができなかっただけなのに、相変わらずの悪態ぶりだ。まぁ、なんだかしんみりしそうな空気をぶち壊してくれたことには感謝するが。

「では、そろそろ行きますか」

 斑目が苦笑いしながら言うと、寺山は改めて向き直り、頭を深々と下げた。

「今までお世話になりました」

 その言葉は母に向けられたものだったのか。それとも、コトリに向けられたものだったのか。はたまた、この屋敷に向けられた言葉だったのか。

 去りゆく寺山の後ろ姿に向かって、珍しく屋敷が家鳴りしたのは、もしかすると彼の言葉に対する返事だったのかもしれない。
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