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頑固親父と全く笑えない冗談【午後2時〜午後3時】
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「近くに――誰かいるみたい」
ここは学校のグラウンド側だと思われるし、放送を丸々信じるのであれば、安全な出入り口があるはず。他にプレイヤーがいるのであれば、西宮を引き上げる作業も手伝ってもらえるだろう。なんにせよ、晴美一人だけより、他の人がいてくれたほうがいい。
「助けを呼んでくる。もう少しだけ、そこで待っていて!」
全身がガソリン臭い。それに、しばらくガソリンに体が浸かっているのだから、健康的に良いとも思えない。最大の危機は去ったのかもしれないが、一刻も早く西宮を引き上げてやりたかった。
「嬢ちゃん! それだったら念のために――」
穴の中から西宮の言葉が返ってきたのであるが、その時にはすでに小走りで晴美は校舎のほうへと向かっていた。履き物は穴の中に履き捨ててやったせいで、グラウンドの細かな砂利を踏んで痛い。それでも、周囲をやや警戒しつつ、晴美は校舎へと向かう。
周囲に【トラッペ君】らしきものは見当たらない。あれさえなければ、罠は存在しない。ガソリンの海の中にぷかぷかと浮かんでいたピエロの人形を思い出す。あんな人形に怯えることなんてない。冷静に対処さえすれば、自分達のように助かるのだから。
ようやく校舎へとたどり着く。空模様はどんよりとしており、裸足であるせいかコンクリートの舗装が随分ひんやりと感じられた。そのままコンクリート舗装がされた部分を歩き、ようやく勝手口らしき扉を見つけた。ガラス張りの引き戸である。ここが放送で言っていた安全な出入り口だろう。もちろん【トラッペ君】の姿はない。
ふと、西宮の声が聞こえたような気がして振り返る。しかし、もはやはるか遠くになってしまった穴があるだけ。一刻も早く彼を助けたいがゆえに、とうとう空耳まで聞こえるようになってしまったようだ。
晴美は改めて引き戸に手をかける。校舎の中に入ったら、まずは放送室を探す。そこに、さっきの放送をした人物がいるだろうから――そんな段取りを組みつつ、晴美が引き戸を開けた時のことだった。
背後から呼吸する音が聞こえたような気がした。正確には、大きく息を吸い込んだような音。その音に晴美が振り返ると、ぴたりと時が止まったように、一瞬だけ周囲の空気の流れが止まった。そして、次の瞬間、止まっていた時が動き出したかのごとく、大きな爆音と一緒に火柱が上がった。それは方角的に見ても――いいや、どう考えても間違いない。西宮を残してきた穴の中から上がった火の手のようだった。
ここは学校のグラウンド側だと思われるし、放送を丸々信じるのであれば、安全な出入り口があるはず。他にプレイヤーがいるのであれば、西宮を引き上げる作業も手伝ってもらえるだろう。なんにせよ、晴美一人だけより、他の人がいてくれたほうがいい。
「助けを呼んでくる。もう少しだけ、そこで待っていて!」
全身がガソリン臭い。それに、しばらくガソリンに体が浸かっているのだから、健康的に良いとも思えない。最大の危機は去ったのかもしれないが、一刻も早く西宮を引き上げてやりたかった。
「嬢ちゃん! それだったら念のために――」
穴の中から西宮の言葉が返ってきたのであるが、その時にはすでに小走りで晴美は校舎のほうへと向かっていた。履き物は穴の中に履き捨ててやったせいで、グラウンドの細かな砂利を踏んで痛い。それでも、周囲をやや警戒しつつ、晴美は校舎へと向かう。
周囲に【トラッペ君】らしきものは見当たらない。あれさえなければ、罠は存在しない。ガソリンの海の中にぷかぷかと浮かんでいたピエロの人形を思い出す。あんな人形に怯えることなんてない。冷静に対処さえすれば、自分達のように助かるのだから。
ようやく校舎へとたどり着く。空模様はどんよりとしており、裸足であるせいかコンクリートの舗装が随分ひんやりと感じられた。そのままコンクリート舗装がされた部分を歩き、ようやく勝手口らしき扉を見つけた。ガラス張りの引き戸である。ここが放送で言っていた安全な出入り口だろう。もちろん【トラッペ君】の姿はない。
ふと、西宮の声が聞こえたような気がして振り返る。しかし、もはやはるか遠くになってしまった穴があるだけ。一刻も早く彼を助けたいがゆえに、とうとう空耳まで聞こえるようになってしまったようだ。
晴美は改めて引き戸に手をかける。校舎の中に入ったら、まずは放送室を探す。そこに、さっきの放送をした人物がいるだろうから――そんな段取りを組みつつ、晴美が引き戸を開けた時のことだった。
背後から呼吸する音が聞こえたような気がした。正確には、大きく息を吸い込んだような音。その音に晴美が振り返ると、ぴたりと時が止まったように、一瞬だけ周囲の空気の流れが止まった。そして、次の瞬間、止まっていた時が動き出したかのごとく、大きな爆音と一緒に火柱が上がった。それは方角的に見ても――いいや、どう考えても間違いない。西宮を残してきた穴の中から上がった火の手のようだった。
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