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狂気には凶器を【午後4時〜午後5時】

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 少なくとも30分以上はかかったのでないだろうか。女性は着の身着のままでシャワー室から出てきた。長い髪の毛、洋服からぽたぽたと水をしたたらせながらだ。服を着たままシャワーを浴びたのか、それとも服を洗ったのか。どちらなのかは分からないが、髪の毛さえろくに水を切っていない辺りから察するに、彼女がまともな判断力を持っているとは思えなかった。

 とにもかくにも、まだ匂いは残っているものの、ガソリンの匂いはかなり薄くなった。保健室にでも行けばベッドがあるし、このまま保健室へと連れ込んでやろう――と考えていた矢先、いきなり彼女が倒れた。医者ではないから良く分からないが、シャワーを浴びたことで張り詰めていた緊張の糸が一気に切れてしまったのかもしれない。

 さすがに体育館では行為に及ぶ気になれない。仕方なく、びしょ濡れの彼女をまた抱きかかえ、保健室へと向かった。案の定、保健室にはベッドがあり、そこに彼女を横たわらせて現在にいたる。時計がないから時間の経過が把握できないが、ある種のおあずけ状態だったせいで、かなり待たされたような気がした。

 改めて顔を見てみると、中々の上玉。スタイルも男性のそれをそそるものがあった。たまらず気を失っている彼女の胸を触った。服の上からでも手の平が吸い付く感覚。本能的ななにかがくすぐられる。

 ――これは人間の生物的な本能である。正直なところ、こんな行為に及べる状況ではないが、妙に興奮し、漠然と行為に及びたくなるのは、恐らくDNAの奥深くで、極限状態での生存が訴えられているからであろう。

 本能的な行為。人間ならば当たり前の行為。こんな状況だからこそ、後世に子孫を残そうとする本能が働いているのだ。比嘉はそれに従っているだけ――。

 彼女の服を脱がそうと手をかけた時のことだった。なんの前触れもなく保健室の引き戸が開く音が響いた。カーテンもなにも引いていないせいで、入ってきた人物と目が合った。黒縁の眼鏡をかけた小柄な女性だった。

「な、なにをしようとしていたんですか? その手を離しなさいっ!」

 どうやら、引き戸の小窓から全てを見られていたようだ。小柄な女性は比嘉のことを睨みつけながら拳銃を向けてきた。黒光りする銃口が比嘉に向けられる。本物かどうかは分からないが、とりあえず両手を挙げて丸腰なことをアピールした。もっとも、本当は丸腰ではないわけだが。

「おいおい、随分と物騒なものを持ってるじゃねぇか。それは――本物か?」
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