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明け方のラブホテルにて

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【2】

 毎日同じ時間に署へとおもむき、同じ時間に署を後にする。しかも、仕事らしい仕事もせずに暇を持て余すだけで一日が終わる。ここに来てからやった仕事……もとい、やらされた仕事は、田之上の始末書を代わりに作成したくらいだった。

「あー、これもう勝ったな。俺の圧勝ってことで決まりだなぁ。宝文堂のバケツ焼きプリンは俺のものだ」

 例の事件が峠のラブホテルで発生したというのに、相変わらずのお気楽ムードでオセロに興じる二人の姿を見て、堀口は大きな溜め息をひとつ。そんな堀口も何かをするでもなく、ただデスクに腰をかけて、それを眺めるだけだ。

 事件の情報さえもまともに降りてこなければ、合同捜査会議にもお呼びがかからない。警察という組織体から完全に外されてしまっている現状に、どれだけ気を落としたことか。

 田之上と雅が囲むオセロ盤では、黒が圧勝のようだった。黒が田之上で雅が白だ。

「ふっふっふっふ、オセロは終盤で相手の動きをいかに封じるかが勝負所なのだよ。たのぴー君」

 雅はオセロ石の白を盤上に置き、挟んだ黒を裏返す。

「負け惜しみか? どう考えても俺の勝ち……あっ、俺の置ける場所が無ぇ!」

 田之上が身動き出来ないのを尻目に、雅は続いて盤上の黒をひっくり返す。雅の番が終わるも、相変わらず田之上が黒を置く場所はなく、みるみる間に黒かった盤面が白に染まった。もはや、どう足掻いても雅の勝ちは決まったようなもの。大逆転である。田之上もそれを察したのか、急に部屋の出入り口のほうを指差し、さらにわざとらしく声を上げた。

「あっ! 外見はひょろひょろの弱そうなやつのくせにベッドの中じゃ超絶ドSに豹変ひょうへんするイケメン!」

「えっ? どこ? ギャップ大事。そういうギャップ大事!」

 明らかに嘘だと分かるようなものなのに、それにつられて田之上の指差したほうへと視線を移す雅。溜め息を漏らすことしかできない堀口と、雅が盤面から目を離した隙に、怒涛の勢いでオセロ盤をひっくり返した田之上。宙に舞ったいくつものオセロの石が、部屋の中に飛び散った。堀口のデスクにも石が飛んできて、全く仕事がない六課を馬鹿にするかのようにデスクの上で踊る。

「雅、勝負の世界じゃ気を抜いたほうの負けなんだよ。お前、これが現場だったら二回は死んでるな。寧ろ、単なるお遊びだったことに感謝すべきだ」

 田之上はもっともらしいことを言ってはいるが、負けそうになった勝負を力技でノーゲームに持っていっただけにすぎない。

「あー! 私のバケツ焼きプリンがぁ。一日限定一個の五千円もする宝文堂のバケツ焼きプリンがぁ……」
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