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すれ違う狂気

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 案の定というべきか、堀口の意見は桂にばっさりと切り捨てられた。

「犯人が現場から立ち去ったのは、堀口さんの言う通り警察が現場に駆けつけてくることを知ったからだと思う。だが、ホテルの構造上、犯人は中畑が通報したことまでは知らなかったはず。じゃあ、犯人はどうやって、警察の動きを知ることができたのか?」

 自分だけまだ敬称つきで呼ばれるのは、六課に溶け込んでいない証拠なのだろう。そんなことを感じた堀口をよそに、桂はもったいぶるかのように間を置き、また口を開いた。

「それと、事件後で警備が厳重だったはずの森林公園で再び起きた事件。犯人はどのようにして警察の警備網を突破したのか? これらの事象は、この答えに収束すると思うんだよねぇ」

 誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた。周囲の捜査員達も聞き耳を立てているようだったが、桂がふと視線をやると、さも聞き耳など立てていなかったかのように、わざとらしく目をそらす。

「こう考えれば筋が通る――。つまり、犯人は警察関係者の中にいるとね」

 田之上が雅へと目をやり、雅が桂へと目をやり、桂から向けられた視線を、堀口はそのまま桂へと返す。

 ――犯人は警察関係者の中にいる。これは、堀口にとって衝撃的な答えであった。

「森林公園の警備網をかい潜り、犯人が犯行に及べたのは、事前に警備員の配備位置を知っていたから。中畑が通報したことは分かり得ないはずなのに現場から立ち去ったのは、警察無線で通報が入ったことを知ったから……。こう考えれば、犯人の動きも納得できるものになるんだ」

 桂はこれまでの情報から犯人の像へと確実に迫っていた。

 一度事件が発生し、警備が厳重化されていた森林公園で、犯人はいかにして警備をかい潜ったのか。それは、警備の配置をあらかじめ知っていたから。

 中畑が警察に通報したことを知り得ない犯人が、まるで警察の到着を避けるかのように現場から逃走したのは、警察無線を介して通報が入ったことを知ったから。

 桂は犯人が警察の関係者の中にいると考えているようだった。

「なるほどな……。でもよ、それって確証の無い推測ってやつだろ? もしかすると、犯人は偶然にも警備網をかい潜れただけなのかもしれないし、これまでと違って女を殺しただけで満足して、現場を立ち去っただけなのかもしれない。確たる証拠を固めなけりゃ、俺達の言い分なんざ相手にされねぇだろうな。なんせ、実権を握っているのは亜紀だからな。中畑を重要参考人として引っ張った手前、よほどのことでもない限り受け入れねぇだろうよ」
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