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3.深まる謎と疑惑
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大きく溜め息を漏らすと、自分に言い聞かせるかように呟く安楽。麗里の遺体はさっぱりと消え、事件の痕跡と、彼女にかけられていたシーツが残されている。長年使われていなかったであろう洗濯機と乾燥機が、次に使われるのはいつかと待ち望んでいるように見えた。残念ながら、次はきっとこない。気味悪がって、誰もここで洗濯などしないだろうから。
「といっても、その――彼女の死体は……」
英梨がちらりと廊下のほうに視線をやる。そう、彼女の死体は亜純が使っていた部屋にある。
「それも大きな疑問のひとつなんだよな。なぜ、彼女の死体はここから部屋まで動かされたんだろう? 犯行はおそらく深夜の時間帯に実行されたんだろうけど、わざわざリネン室から現場となった部屋まで死体を動かした意味が分からない」
リネン室の中を見渡しながら、安楽は誰に言うでもなく呟く。この、誰かに話しかけているのか、それとも独り言で考えをまとめているのか分からない声のボリュームと仕草が、安楽を気持ち悪い存在に仕立て上げている。いや、これまで一緒に何度も事件に巻き込まれてきた蘭なら断言してもいいだろう。普通、探偵役が推理をする時は、賢くて格好良く見えるものなのだろうが、安楽の場合は正直気味が悪い。
「それは後回しにするとして、まずはこの事件から振り返ろう。悲鳴が聞こえた時、俺達男性陣と蘭は地下にいた。そこから離れた者はいない。これは確実だ。だが、女性陣はそうだったのだろうか?」
麗里が倒れていたであろう場所にしゃがみ込むと、今は外から板を打ちつけられているという勝手口のほうへと視線をやる。
「女性陣はそうだったろうか?」
それが独り言ではなく、おそらく英梨に向けての問いかけだと分かったのは、あえて安楽が言い直したからだった。そうでなければ、きっと気づけやしない。声の大きさも小さいし、視線はずっと勝手口のほうに向けられているのだから。
「い、いや。多分みんな一緒にいたんじゃないかな。途中で抜けたのは殺された神楽坂さんだけで、他の人は誰も食堂から離れていないと思う」
「1秒足りとも?」
現場にはご丁寧に、麗里の胸に突き刺さっていたナタが残されている。しかも、ピアノ線も繋がったままのようだ。
「分かってるとは思うけど、食堂からエントランスに出るには、観音開きの扉を開ける必要があるじゃない? あれ、開閉する時かなり目立つのよ。だから、私達は神楽坂さんが食堂を出て行ったことには全員気づいていたわけだし」
「といっても、その――彼女の死体は……」
英梨がちらりと廊下のほうに視線をやる。そう、彼女の死体は亜純が使っていた部屋にある。
「それも大きな疑問のひとつなんだよな。なぜ、彼女の死体はここから部屋まで動かされたんだろう? 犯行はおそらく深夜の時間帯に実行されたんだろうけど、わざわざリネン室から現場となった部屋まで死体を動かした意味が分からない」
リネン室の中を見渡しながら、安楽は誰に言うでもなく呟く。この、誰かに話しかけているのか、それとも独り言で考えをまとめているのか分からない声のボリュームと仕草が、安楽を気持ち悪い存在に仕立て上げている。いや、これまで一緒に何度も事件に巻き込まれてきた蘭なら断言してもいいだろう。普通、探偵役が推理をする時は、賢くて格好良く見えるものなのだろうが、安楽の場合は正直気味が悪い。
「それは後回しにするとして、まずはこの事件から振り返ろう。悲鳴が聞こえた時、俺達男性陣と蘭は地下にいた。そこから離れた者はいない。これは確実だ。だが、女性陣はそうだったのだろうか?」
麗里が倒れていたであろう場所にしゃがみ込むと、今は外から板を打ちつけられているという勝手口のほうへと視線をやる。
「女性陣はそうだったろうか?」
それが独り言ではなく、おそらく英梨に向けての問いかけだと分かったのは、あえて安楽が言い直したからだった。そうでなければ、きっと気づけやしない。声の大きさも小さいし、視線はずっと勝手口のほうに向けられているのだから。
「い、いや。多分みんな一緒にいたんじゃないかな。途中で抜けたのは殺された神楽坂さんだけで、他の人は誰も食堂から離れていないと思う」
「1秒足りとも?」
現場にはご丁寧に、麗里の胸に突き刺さっていたナタが残されている。しかも、ピアノ線も繋がったままのようだ。
「分かってるとは思うけど、食堂からエントランスに出るには、観音開きの扉を開ける必要があるじゃない? あれ、開閉する時かなり目立つのよ。だから、私達は神楽坂さんが食堂を出て行ったことには全員気づいていたわけだし」
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