探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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3.深まる謎と疑惑

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「――誰かが嫌われ役をしなきゃいけないんだ。その役を自らやってくれたこと、感謝するよ」

 もちろん、榎本は菱田へのフォローも忘れない。自ら表には立とうとしないが、下手をすると菱田よりも榎本のほうが、全体を見ているのではないだろうか。リーダーに相応しいかどうは別にして。

「まぁ、そんなつもりはなかったんだがね。俺はいつもこうなんだ。ひとつのものが目に入ったら、それ以外のものは目に入らないし、これだと決めたら他人の意見なんて聞かない。だから、こちらこそ礼を言うよ」

 基本的に今日が初対面同士。菱田の言葉に榎本は照れ臭そうに「じゃあ、これで貸し借りはなしだ」と一言。みんなをまとめようと奮闘すればするほど、孤立しつつあった菱田。榎本の存在があったおかげで、彼はかなり救われたのではないだろうか。

 もはやこそこそする必要もない。細川の食事を用意した真美子が、トレーにそれらを乗せてやってくる。

「あの、これ」

 もちろん、細川のところに食事の差し入れをすることについて、菱田も異論はないだろう。そう思ったからこそ、真美子も堂々とトレーに乗せてきたのであろうが。

「彼のところに食事を持って行ってやるつもりなんだろ? だったら、俺にやらせてくれ。彼に謝っておきたいし」

 榎本の手に渡るより前に、菱田が脇からトレーを奪う。相変わらずやり方が強引というか、力業に訴えるような真似をするところはあるのだが、その動機が動機なだけに、榎本も嫌とは言えないだろう。

「分かったよ。細川は自分の言いたいことを全部言ってしまうと、意外とスッキリしていたりするところがあるから、あまり堅苦しくない形で声をかけてやってくれ。基本的に変なプライドがあるけど、そこは下手に出てやって欲しい。あいつは振り上げた拳をどう下ろしていいのか分からないだけなんだ」

 榎本から細川へ。バトンは実に穏やかに手渡された。その光景に、蘭はつくづく思ってしまうのだ。そもそも、人が殺されるようなことがなければ、当たり前の光景だったのだ。いがみ合うこともなく、本性をさらけ出すようなこともせず、お互いにバカンスを楽しめていたはず。今回の旅行のために、かなりバイトをかつかつに入れていたし、節約もした。それを今さら台無しにされたような気がして腹が立ってきた。

「それじゃ、行こうか」
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