ワガママ女王としもべ達

角井まる子

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十紀は一人、由佳の寝顔を眺めながらグラスを傾けていた。


あれから直ぐ、由佳は倒れ込むように寝落ちしていた。
・・・ワインを飲むと、いつもこうだ。

一本も飲めば、眠ってしまう。
他の酒ではそこまで酔わない由佳は、自分の酒癖が悪くないと思っているようで基本的にガードが甘くなる。
だから、ワインを飲むときは周りの男が変な気を起こさないよう、裕貴が常に見張っていた。
その為の『裕貴が一緒ではない外出時のワイン禁止令』である。
本人も何か心当たりがあるのか、その言い付けだけは大人しく守っている。

今日は十紀の部屋だからか、田中も一緒だったからなのかは分からないが、裕貴の居ない所で飲むのは珍しい。


・・・そんなに信用されちゃうと、手出せないなぁ・・・僕も男なのに


すやすやと眠る由佳を肴に、十紀はすでに1時間は飲んでいた。







―――コンコン
静寂の中、控え目なノックの音が響く。



「・・・」



十紀は返事もせずに、そのまま飲み続けた。



どれだけ待っても反応を返さない十紀に、ノックをした相手は焦れたのか、勝手に扉が開く。
・・・入ってきたのは、裕貴だった。



カーペットの上で涎を垂らして寝ている由佳を認めると、裕貴は自分の着ていたジャケットを由佳にそっと被せた。



「・・・せめて布団で寝かせてやれ・・・」



そう言うと由佳の横に腰を下ろす。
近くにあった空のグラスにワインを注ぎ、勝手に飲み始めた。


慈愛のこもった眼差しで由佳を見詰めながら、ワインを楽しむ裕貴。



「しゃちょーともあろうお方が、こ~んな真っ昼間からお酒なんて飲んでいて良いんですか~?」



十紀はにやり、と嫌味を込めて笑う。
時刻はまだ夕方4時前。
それも平日の、である。



「・・・お前に言われたくはないな」

「・・・田中に、夜にはちゃんと返すって言付けたハズなのに、ゆーきサン来るの早すぎやしませんか~?」



何も言わずにワインを口に含む裕貴。

・・・どうせ由佳が心配になって様子を見に来たのだろう。
相変わらずの過保護っぷりを発揮する裕貴である。

せっかく二人きりで夜まで楽しもうと思っていたのに。
十紀はシラケたような気分になった。


・・・でも。
十紀は裕貴に感謝していた。

今日ホテルに由佳が来たのも、裕貴が何かを言ってここに来させたのだろう。
由佳が自主的に、何の目的も無く十紀に会いに来るはずがない。
・・・結局、酔っている状態しか見ていないから、どういった目的で来たのかは分からないが。
自分からどんな風に顔を合わせれば良いか分からなかった十紀は、その裕貴の配慮が嬉しかった。

・・・有り難う、なんて言葉は絶対に言わないけど。

由佳以外の人間に素直でない十紀は、からかうように笑いながら言う。



「・・・ゆーきサンってさ~、敵に塩送るの好きだよね~」

「・・・・・」

「どーせなら由佳さんも譲ってくれたら良いのに~大事にするよ?」

「断る」



即答する裕貴。
近くにあったワインを慣れた手付きで開けると、再びグラスに注ぐ。



「・・・あっ!それ、取っておいたのに~。由佳さんも、百万超えるボトルをラッパ飲みするしさぁ~今日だけで相当の金額飲んでるよ~?」

「ほとんどお前一人で飲んでいるだろうが。・・・高い酒は、こんな時でも無ければ開けないだろう。・・・飲んでやる」



確かに裕貴の言うとおりかもしれない。
高いボトルほど、開ける機会を逃しているとも言える。


・・・由佳が、近くに居る。
それだけで、いつも以上に酒が美味く感じる。


酒なんて飽きる程に飲んだはずなのに、まるで初めて楽しむ極上酒のように思える。
味覚が研ぎ澄まされ、ひとくち一口が新鮮で、味わい深い。



「・・・僕ね~、ゆーきサンが相手だったら、最悪由佳さんを諦めてあげても良いかなぁ~・・・なんて思ってたんだけど」



つい、さっきまでは。



「やっぱり、イヤだなぁーって。僕、我慢するの好きじゃないし~。・・・多分、一生無理~」



こんなにも、愛おしい人を手放すなんて出来ない。
あれぐらいで弱気になっていたなんて情けない。
もう、自分から諦めることはしたくない。



「・・・そうか」



宣戦布告のような十紀の言葉にも、裕貴は全く動じなかった。
むしろその顔は嬉しそうに笑っているようにさえ見える。

・・・由佳サンに相手にされていないのは、ゆーきサンも同じハズなのに。

裕貴のその余裕がどこから来るのかと、十紀は呆れながらも不思議に思う。


もちろん、裕貴は余裕などでは無く、ある意味悟りとも諦めとも思える心境で十紀の言葉を聞いていたのだが・・・それを十紀が知ることは無いだろう。


男二人、ひたすら由佳の顔を眺めながら、酒を飲み続けたのだった。



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